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▼ 21.山田の異変

「うーん…」
山田の様子がおかしい。
椅子に深く腰をかけて腕組みをしながら
あれこれ思考を巡らせる。
何度思い返したって、最近の山田はおかしいんだ。

「はぁ…わっかんねぇなあ…」
盛大にため息をつくと、向かいで飯を
喰ってたダチがケラケラ笑いながら言う。
「なんだよ恭、また女の子に
振られたのか〜?」
「うるせー。振られてねーよ。
けど、いつも一緒にいたのに
急に素っ気ない態度取られたり
めちゃくちゃ顔逸らされたりすんのってさ。
どう思う?」
「ぷは、やっぱ振られてんじゃねーのそれ?!」
ケタケタ笑いながら腹をかかえて笑ってる
こいつにちょっと殺意が沸く。
だから振られてねぇっつーの!
そもそも山田は女の子じゃねーし。

ってそれはいいんだよ。
そんなことよりもだ。

文化祭以降俺達はいつもと
変わりない日常に戻ったって そう思ったのに
校門で弟クンに会った日から、
まともに顔を合わしてもくれない。
挨拶しても、話題ふっかけても
めちゃくちゃ素っ気ない。理由はわからん。
俺がなんかした、んだろうけど
話しかけようにも逃げられる状態で
どーやってなんかするってんだよ、って感じで
マジで心当たりがなくてガシガシと
頭をかくしかできなかった。

「はぁ」

無意識にため息をついて席を立つと、
ちょうど教室に山田とそのダチが
入ってきて 話しかけるべきかどうか
悩んでその場に立ち尽くす。

(いつもなら迷うことなく
話かけてたけどよ〜。
どうせ避けられるんじゃねーかとか
思うと話しかけんのも億劫だな。
どーすっかね)

悶々としながらじっとしていると、
さっきまで連れに向けられていた
オッドアイが 不意にこちらを向いて
怪訝そうな表情をしてみせた。

「…んだよ。ジロジロみんなっつうの」
「…悪い」
「「……」」

んん〜〜〜はぁ〜…
マジで会話が続かねぇ。し空気も心なしか
沈んでて重い。なんでだよ?
いっそ今ここで聞いちまおうか?
そうだそれがいい。だってずっと
モヤモヤしたまま過ごすのなんてごめんだ。

(―――吹っ切れた)

俺はズカズカと大股に歩いて
少し離れた先の山田の前まで行くと
至近距離で見つめ合った。
「なぁ山田」
「何」
「俺お前になんかした?」
「…なんだよ急に」
「だって最近話しかけても素っ気
ねーしすぐ逃げるじゃん」
「ンなことねぇよ」
気まずそうに逸らされた視線にムッとする。

(嘘つくなってーの)

「嘘つき。今だって目ぇ逸らした」
「あのなぁ、そういう時だってあんだろ」
「そーいう時ってなんだよ?
山田が一方的に俺のこと避けてるだけだろ?」
あーあ。もう。こんなの半ば喧嘩じゃん。
何でって理由聞きたかっただけなのに、
ムッとして喧嘩腰になって俺最低。
・・・でも はっきりしてくれない
山田だって悪いだろ?

『なんだ王子と姫の痴話喧嘩か?』
なんてちゃかしが聞こえて、それにさえも
苛立ちを覚えつつ。俺は質問を重ねて行く。

「俺が悪いことしたんだったら謝るし
つか、マジで心当たりねぇ。
放課後、俺が勝手にお前にちゅ――」
「!?!?ッマジで黙ってくれ…!!」
「ふがっ」

山田は目を見開いたかと思うと
物凄い速さで俺の口を手で塞いで、
俺の肩にやや乱暴に腕を回すと、
そのままずるずると廊下へ引っ張りだされ
どこかへと向かって行く。








「…何だったんだ、あの二人?」
「さぁな」

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