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▼ 19.お前とするのは嫌いじゃない

山田の顔に見惚れていたら
目の前にパンチが飛んできたのが
見えて咄嗟に顔を横にずらして
その腕を掴かんだ。
「あっぶねぇ、姫を殴る王子があるかよ」
「今のはお前が悪いだろ」
そう言った山田は随分と顰めっ面だ。
まぁ無理もねぇか。

「悪かったって。
ほんの出来心、っつーかさぁ。
でもお互い初めてのちゅーでも
無いんだし 事故って事で
笑ってなが――して、って、」
思わず言葉に詰まった。
だって、え、いや なんで
山田は気不味そうに顔を逸らした?
首を傾げて見ていると、バツが悪そうに
俺の手を振り払って 僅かにこちらを
見上げる。

「………初めてだったらわりぃかよ…」
「……へ?」
声が小さくて聞き取れなかった。
今山田はなんて?
「だから!!!
初めてで悪かったなって!!!」
「え?あ、そ、初めて?ふーん……

…………は?はぁ?!」
嘘だ!!!信じられない!
そう思って勢い良く山田を指差すと
ベシッと指を弾かれた。痛い。

「んなに吃驚することかよ」
ぶっきらぼうに言われた言葉に
首がもげそうなほど頷いた。
だって山田といやこの学校イチってくらい
モテる。女の子と遊んでる俺も及ばない
くらいにはモテる。しかも顔も性格もいい。
そんな山田が未経験だなんて。

「あー…お前、嘘ついてるとかじゃなくて?
ちゅーもエッチもまだなの?
つかそうだったの?なのに俺が
初めてのちゅーも2回目ももらっ」
大きな手が俺の口元を塞いだ。
まっすぐにこちらを睨みつける山田は
流石ヤンキーといったところだが
顔が赤いので怖さ半減なんだよな。

「ほんとうるせぇな、
声がでけぇしわざわざ言うなっつの…!!」
信じられないんだ
事実確認として声に出すことを許されたい
と言ってもま、確かに初な山田を
からかい過ぎたかもしれないな。

口をふさぐ腕にギブギブというように
手でぽんぽんと叩いて訴え、
口が自由になって大きく息を吐いた。
「はぁ…悪い。ほんと、出来心だったんだ。
俺 男とか興味ねーし、女の子としか
エッチもちゅーも無理だけどさ。
山田とは嫌じゃなかったんだよな」

役に入り込みすぎたのかな?
うーん、と頭を悩ませてみるも
そんなはずはない。だってガチでキスしろ
って言われてお互い顔見合わせて
はぁ?ってなってたくらいには
ゆる〜くやってたはずだし。

「……はぁ。意味わかんねーよ お前」
「ははは。俺もそう思う。

…なぁ、もっかいする?」
「しねーよバカ」

残念。もっかいすれば何か理由
わかるかなぁって思ったんだけどな。

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