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▼ 18.楽しい学祭…のはずだった

学祭当日。無事に劇を終えた俺こと姫と
王子こと山田二郎は二人して頭を抱えていた。
クラスの奴らも無事に終わって嬉々としている
担任もよかったと大喜び、最後の客席の反応を
思い返してみてもこの劇は大成功と言えた。
もしかしたら校内アンケートで
一番良かった!なんて票も貰えるかもしれない。
それでも主演の俺達二人は
どうしたものかと思い悩んでいるんだ。
なんつっても山田がどう思ってるかは
しらねーけど。

思い返すと劇は何もかも順調に進んでいた
色んな御伽噺を混ぜ混んだトンチンカンな
脚本も受けていたし他のクラスメイトも
猛練習の成果もあってうまくやれてた。
俺だって。…でも、まさかあんなことに
なるとはなぁ………。

忘れもしない 王子が姫にキスをするシーン。
振りのはずだったのに、それは
アホのひと芝居によってブチ壊される。

山田が俺にキスをするフリをして
顔を上げた瞬間、台本には無い
モブの台詞が聞こえてくる。
『あぁ〜!!王子よ!
キスの゛振り゛では姫は
目覚められないのです!!』―――
この言葉を聞いたとき俺も山田も
間違いなく『は?!』ってなってたし
ざわつき始めた客席も
きっと同じだっただろう。

『さぁ!もう一度愛の口付けを!!』

声高らかに宣言された台詞に
薄っすら目を開けて山田をみてみると、
困惑した様子で俺のことを見ていた。
(多分、考えてる事は一緒だろう)

『(どうする?)』
と口パクで訴えられたのをみて
『(もっかい)』
とダメ元で催促をする。それまではよかった。
問題はこの後だ。

空気を読んでもう一度キスの振りをした
山田の背中を どうも誰かが押したらしかった。
『えいっ☆』というわざとらしい掛け声と共に
俺達の顔は一気に近づいていく。

「「?!?!?!」」

気が付いた時には、柔らかな唇が
俺の唇に振れていた―――と。
なんともまぁベタな展開である。

(…別に そのくらいのアクシデント
だけなら 笑って済ませられたんだけどなぁ)

ふう、と息をついて事故とはいえ
山田とかわしてしまったキスを思い出す。
女の子とは違ってリップも何も塗ってなさそうな
男の唇なのに。

(…すげぇ柔らかかった…)

それに、男とちゅーなんて
おふざけでもごめんだと思ってたけど
山田とするのは嫌じゃなかった様な…?
あれか?山田、顔めちゃくちゃ綺麗だし
その分嫌悪感的なものが死滅して…??
いやそんなことあるか?ううん
分からない。もう1度山田とちゅーしたら
自分の気持ちがはっきりわかる、とか
そんなことを期待してみたりして
なんとなく口走る。

「なぁ山田 俺ともっかい
ちゅーする気ない?」
「ねぇよバカ」

結果は即答で振られた。だよな。

「はぁ〜…そっか、じゃあ山田、
こっちむいてくんね」
呼びかけると 王子姿のままの
山田が少しだけ気まずそうにこちらを向いた。
「んだよ‥」
俺は躊躇うことなく一歩前に踏み出して
山田の顔に顔を近づけていく。

劇中に山田が俺にしたように、
今度は俺からそうしてやった。



ふに、と触れる柔らかい感触と
顔を紅潮させた山田の顔が印象的だった。

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