09



「君にこんなこと聞くのは本っ当に屈辱で不服で遺憾でならないんだけど、なぜ有馬様は君にご執心なんだろうか」

同じ男だけど小柄で髪の毛さらさらで、外国の子供みたいな見る人皆が天使だと言うに違いない美琴君が、目の下にクマを作り、髪と肌に潤いなくひどく疲れた様子に付け加え、涙を浮かべながら俺を睨み付けてきたが、今までの行動を思えばこちとら貰い泣きしそうになってしまった。

「それについては俺も本当に不思議でならないんだってば」

というのも、季節外れの転校生・有馬は(前までは君付けだったけど最近もう呼び捨てにした)、これまた見る人皆が王子だと言うレベルの美形だった。男子校が急に光輝いた瞬間である。
そしてなぜかロックオンされた俺。見る人皆が普通だと言うレベルなのに、転校初日にして結婚を前提とした交際を申し込まれてしまったのだ。勿論断った。しかしヤツは毎日毎日俺に告白し(断り)貢ぎ(返却し)抱き締めてくる(のを寸でで躱す)の繰り返しである。
なぜ俺がロックオンされたか?それが今の俺達の疑問点だ。

「特別な色仕掛けでもしたか」
「するわけないし、あるわけないだろ」
「何か弱味につけこんだか」
「弱味握ったら脅して即行接近禁止令出すわ」

はぁぁ、と二人して溜め息を吐く。
俺は恋愛に対して自由主義だから、男の美琴君が男の有馬に思いを寄せてたってなんとも思わない。むしろこんな天使は幸せな恋愛を掴み取れる部類だろうから、是非とも望む恋を成就してほしいところである。しかし俺は至ってノーマルだ。女の子がいい。だから有馬に何か言われようと、されようと、ちっとも心に響かないし、もううざったくて仕方ない。

「僕はもうどうしたら・・・」

美琴君は有馬に一目惚れしたらしく、それはそれは見事なアプローチをかけていた。しかし美琴君の献身的で積極的な情熱は見事かわされ、押してダメなら引いてみろ作戦に出ればこれ幸いと有馬は余計俺にベッタリになった。あれは俺も可哀想だったけど、美琴君も本当に可哀想だった。不憫すぎて。当初たくさんいた有馬ファンも、今となっては美琴君オンリーになってしまった。
こんな美琴君の可愛い顔を歪ませるバカ有馬にハンカチを噛みたくなる。お前がさっさと美琴君とくっつけば早いとこハッピーエンドなのに!きーっ!って感じで。あいつはなんて罪で嫌な男なのだろうか。こんな冷たくあしらい、目も合わせない俺なんて見限ってくれ。頼むから。

「いいか、俺だって分不相応だってよく解ってるよ。だって俺だぞ?」
「そうだよ、何で君なんだ・・・」
「何でなんだろうなぁ・・・」

話の内容はものすごく惨めなものだと自負しているが、双方とも純粋に不思議で仕方がないのだ。

「有馬って頭がおかしいとか、視力が悪いとかじゃない?」
「有馬様は編入試験を全問正解して視力検査は2.0のパーフェクトなお方だ」
「美的センスがおかしいんじゃ」
「パリの絵画コンクールで賞をとった過去がある」

なにあいつ、ちょーすげーじゃん。
凄すぎて嫉妬もやけねぇわ。

「有馬様はゲルニカ並の着眼点をお持ちなのか・・・?」
「え、美琴君、そんなに?俺そんなに?」

フッと小さく美琴君が笑ったので、どうやら美琴君のジョークだったみたいだが、それはブラックジョークだろ、美琴君。

「もう!もっと俺のために頑張ってよ美琴君!」
「ぬかせ!これ以上どうしろと言うんだ!」

余計に美琴君の目がうるるっとなった。それを溢さないのはプライドだろうなぁ。格好いいなぁ。ってまた貰い泣きしそうになった、ら。

「何してるの?」

二人だけの教室で突如割って入った声に、俺は一気に疲労が増した。渦中の人物のお出ましである。
有馬はツカツカと教室に入ってきたかと思えば、俺の腰を抱いて距離を詰めると美琴君ににこりと笑って向きなおった。

「大きな声がしたけど、まさか圭介君を苛めてたわけじゃないよね?」
「ちっ、違います!誤解です有馬様!」

焦りの色が見える美琴君は、慌てて俺達から数歩引いた。俺は腕を乱暴に振り払って有馬の頭を叩く。

「お前なぁ!目が節穴にも程があるぞ!どう見たっていま泣いてるのは美琴君だろう!」
「僕はいつだって圭介君しか見えてないよ」

なんだその歯の浮く台詞はぁ!鳥肌ぁ!
有馬を見る美琴君が青ざめているではないか!

「ほら見ろ美琴君、こいつもうおかしいんだって。だから辞めた方がいいよ」
「なぁに?圭介君、僕の前で他の男を口説いてるの?」
「お前のまえでお前をディスってんだよ」

え?みたいな顔する有馬が腹立つ!
だいたい有馬のなかでなぜか俺ともうくっついてる事になってるのが心底腹立つ!
片手で奴の小顔をぎゅいっと掴むなんてやり取りを見ていた美琴君が呟いた。

「圭介君、もう僕のことを思ってくれるなら、いっそ有馬様とくっついて幸せになってくれ・・・」
「はあぁん?」

思わず変な声が出た。

「じゃないと、僕はもう報われない・・・」

ついに涙を溢した美琴君は何を言ってるのかね!?
そりゃもう辞めろと言ったけど、だからって俺とくっつけは話が違う!出来れば美琴君は俺からこのバカを引剥してほしいのに!

「待て待て待て、お前は俺の希望だ!」
「圭介君、だから他の男を口説かないでってば」
「ちょっとお前黙ってろ!頑張れ美琴君!美琴君ならどうにか出来るよ!諦めちゃダメだ!」
「僕にはもう、どうすることも出来ない・・・有馬様の心は君だけのものだ・・・」
「解ってるね、君。美琴君だっけ」
「は、はい!」
「こらこらこら、今は嬉しそうな顔する場面じゃないからな!」
「ヤキモチ?可愛いなぁ圭介君は」

うぜえええ!
再び伸ばしてきた手をはたき落として、有馬と美琴君からバッと離れる。いまの俺は威嚇する猫のようだろう。

「ちょっと待て、ちょっと待て」

整理しよう。
俺と有馬が付き合えば美琴君が幸せになって?
俺と有馬が付き合えば有馬も幸せになって?
待て待て待てーい!

「んじゃあ俺の幸せはどうなんの!」
「大丈夫だよ、圭介君。僕が幸せにしてあげる」
「お前、有馬様にここまで思われて無下にできるのか」

うっとりとした表情で俺の手を握ってくる有馬の背後から、美琴君が美しい顔で信じられないとばかりに蔑んでくる。
嘘でしょ美琴君。君の一時間前の意気込みはどこいったのよ。
視点が美琴君に向いていたら、俺の手を握り混む有馬の手に力が入った。思わず有馬に目を向けると、にぃーっこりと笑っている。

「ねーぇ、圭介君。圭介君が僕によって幸せになったら、みぃんな幸せになって、円満解決だよね」
「〜〜〜ッ!」

それはなにか違う気がするが、ひとり意固地になってる俺が悪のような気がしてきたあたり、俺もそろそろヤバイのかもしれない。




おわり


小話 09:2016/10/10

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