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女同士なら手を繋いだり腕を組んだり、ハグし合ったりしてキャアキャアはしゃいでも世間の目は痛さを含まない。仲が良い、微笑ましい、可愛らしい。それくらいの心持ちだろう。
男同士はと言えば、体育会系のノリなら有りだろうが、試合や練習中とは違うオフの場では無しだろう。そもそも俺もアイツも体育会系じゃないし。めっちゃ一人が好きだし。一人好き同士が波長があってくっついて、二人になって、特にはしゃぐことなく一緒にいる。
世間的に見て俺達は何だろうか。
ただの友達。それ以下はあってもそれ以上には見られないだろう。

クリスマス色の中に正月飾りも混ぜこんで、まさに和洋折衷、年末年始の高揚感と焦燥感が入り乱れている街中はどこか浮き足立っている。人の歩みの速さもそれぞれで、なかなか前に進めない。
辰巳がわざとらしく大きな舌打ちをついた。前を三人横並びでダラダラ歩いていた学生が振り返り、辰巳の風体をみて、さっと道を開けてくれた。
振り返った先にがたいのいいヤンキーがいたら、そりゃ怖かろう。
空けられた間を遠慮なく進んで俺の方を振り返るから、小走りで付いていく。学生の横を通り過ぎる時に小さく頭を下げると向こうも「ウィッス」と下げてくれたけど、多分俺の事、辰巳の仲間か舎弟と思ってるんだろう。

「年末ってどこも混んでんな」
辰巳が息苦しそうに襟をつまんだ。
「まー、クリスマスと年越しに正月があるし、買い出しとかもあんだろ。世間的には冬休みだし、デートとか」

お互いのオフが一致した今日、辰巳が俺を外に連れ出したのも所謂「デート」だと、思う。
朝にいきなり予定を聞かれて、何もないと返して一時間後に辰巳が家にやって来た。予定がなければ基本在宅の俺を連れ出すには多少強引じゃないとと言うことは、辰巳は既に学んでいる。
急かされるままに外着に着替え、勝手にメットを被せられてバイクの後ろに乗せられる。

「落ちんなよ」
グローブをはめた辰巳の手が、確認のように腹に回ってる俺の手を握る。落ちる心配をするなら落ちないような速度で安全運転してほしい。
了解とばかりにメット越しの額を背中にぶつけると、辰巳のバイクは発進した。

市街地に到着するも、何か買い物があるのかと聞けばないと言う。俺は外に繰り出す意味が果たしてあったのかと、メットインにメットをしまう辰巳の背を睨み付けた。

この、二人で出かける意味もよく解らない。

お互い一人が好きだと言うが、根本的に違いはある。人を寄せ付けない辰巳と人が寄り付かない俺。厳ついけど人目を引く辰巳を気にかける人はたくさんいるけど、やはり一歩が踏み出せない。俺は勉強しに大学に来てるから用がすんだらさっさと帰りたいし、ぼっち飯もむしろ清々する程マイペースを貫くから周りも俺を気にかけない。
でもある日ふと目があって、話してみたら気があって、同じ学部なだけあって話も合って。
お互い姿を見つけたら声をかけるようになって、一緒にいるようになったのは我ながら変な感じがしたけど、悪い気はしなかった。

「──お前らって仲良かったっけ?なんか変な組み合わせだな」
横に女の子を侍らせながら、何しに大学きてんだって奴が俺達を見比べて言った。俺と辰巳。変な組み合わせってのは自覚はあるけど、第三者に言われるのもむっとするものがある。
「なぁ。これから飲み会あるんだけど、一緒来ない?こっちの方が楽しいって絶対」
自分と隣の女の子達を指さして、辰巳だけを見ながら言うから、俺はしらけて挨拶もなしにその場から離れた。大方、いつもぼっちの俺でも仲良く出来てるんだから、自分も辰巳と仲良く出来ると思ったんだろう。アホらし。

「先帰んなら何か言えよ」
講堂を出たところで腕を掴まれた。振り向けば辰巳がイラつきを隠さない顔をしていて、さすがに「怖ぇな」と思ったけど飲み込んだ。
「飲み会、行きゃいいだろ」
「別にガキじゃねぇんだし、付き合うやつくらい自分で選ぶっての・・・俺、恵一好きだし」
腕を離された反動と言葉の衝撃でよろけてしまった。壁に激突して肩を擦りながら、いまだにしかめっ面の辰巳に首を縦に振る。
「俺も好き」

その一件から、確実に二人でいる事が多くなった。
こんな俺達だから出かけるのも二人きりだ。ただし遊びに行くのも辰巳が俺を連れ出すくらい。この外出を世間で言うところの「デート」なのか、そもそも俺達って何なのか、自分の事なのに自分が一番解らない。
ただ一緒にいることが、なんの意味を持つのだろうか。


丁度、精一杯のお洒落をしているような若い女の子と少し離れた彼氏らしき初々しいカップルが目についた。明らかに冬休みのデート中。手を繋がない微妙な距離は、こっちがもどかしい。

「・・・俺らと一緒か」

辰巳もその二人を見ていたらしく、わずかに笑いながら呟いた。
呆けてしまったのは当然だろう。返事がないのに辰巳が振り返って、眉間にシワを寄せる。

「何だ、その顔は」
「これ、デートだったのか」
「・・・いや、つか今までのもデートのつもりだったんだけど。逆にお前、どういうつもりだったの」

どういうつもり。
ただ二人で出かけるだけの事に、俺はずっと意味を求めていたんだと、そしてその意味を辰巳は既に持っていたんだと言う事に、初々しいカップルを見ていた辰巳みたく笑みがこぼれた。

「そうだといいなとは思ってた」

溜め息をつかれ、辰巳のでかい手が俺の頭を鷲掴みにする。揺らしてるのか撫でられてるのか、乱暴に髪を掻き乱されて、離れた頃には目が回ってふらついた。

「一本向こうの通り行こうぜ。進みにくい」
「ん」

俺の手首を掴んで人混みから離れ、メインストリートから外れた頃に辰巳がそのままするりと俺の手を握る。初めての接触に思わず手を引っ込めそうになるが、当然握られてるから叶わない。

「何?」
「いや、手」
「人いねぇし、いいだろ」

俺に伺いをたてると言うより自分の行動を肯定するような言い方だけど、確かに周りに人はいない。皆賑やかな通りを好んでいる。

「お前手ぇつめてぇな」
「だから家にいたかったんだって」
「あのなぁ・・・」
「なあ、知ってるか」

繋がれた手をそのままに、辰巳を見上げながらニヤリと笑う。

「この世には“おうちデート”ってものがある」

面食らったように目を丸くした辰巳が、空いた片手で顔面を覆った。隠しきれない耳が赤いのを、俺は人通りがないのを良いことに盛大に笑ってやった。

「・・・くそ、帰んぞ」
「お前簡単だなぁ」

歩み寄りが下手な二人が一緒にいるのだ。
不恰好でも、世間的に不思議な組み合わせでも、不釣り合いでも、多分きっと、二人でいることの正解は俺達しか弾き出せないのだとようやく知った。



おわり



付き合い下手同士。

小話 74:2017/12/30

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