06



バイト帰りで夜の繁華街から駅へと向かう最中、きれいなスーツをきたお兄さんに声をかけられた。
あら、ホスト?もしかして俺ホスト勧誘されるの?捨てたもんじゃないなぁー!
って思ってニコニコしながら「はい?」なんて返事したら「AV興味ない?」って。

「・・・はい?」
「いやね、一目みていいなぁ〜って思ってね。君みたいな一般的な子がネコやるの、最近流行りだし。いけると思うなぁ〜」
「いや、興味ないっす・・・」
「そーお?ゲイビって女性人気あるし、君、男からも人気出るよ〜」

うぉいッ!エーブイかよ!しかもホモの方かよ!
ってドン引きしてたら、連れっぽいやつもやって来て俺ピンチ。二人して俺を品定めするように上から下までジロジロ見てきて、すげぇキモい。
これはもうシカトだって通り過ぎようとしたら、腕を捕まれた。

「まあまあ。先ずはお話だけでも」
「事務所があっちだからさ」

ひぇー!これはアレじゃん!面接っぽく話してるていで、初体験は?とか、最近ヤったのはいつ?とか根掘り葉掘りカメラ回しながら聞いて、最終的には脱がされヤっちゃうパターン!
捕まれた腕と、恐怖心と、すくんだ足のせいで、思うように抵抗出来ない俺は完全パニクってた。
あーやばい、どうしよどうしよどうしよ!

「交番行きますか?すぐそこですから」

そんな言葉が頭上から降ってきたのと、掴まれてた腕が開放されたのは同時だった。
後ろから肩を掴まれて二人から離されると、奴等は「いやいや、興味がないなら仕方ないもんね〜」と、いともあっさり去ってしまった。
拍子抜けと安堵からボケッとしてると、今度は溜め息が落ちてきた。

「何勧誘されてんすか」
「ほ、保科ぁ〜」

バイト先の後輩の保科だ。
俺より年下で無口だが、背が高くて運動やってたらしく声はハキッとしてて評判のいい保科。よく俺と比較してどっちが年上で先輩なんだかとからかわれるけど、今はそんなことどうでもいいっ。

「知らねえよ、も〜。でもありがと〜!マジビビった〜!」

背中をバシバシ叩くと鬱陶しそうにされたけど、俺はもう安心感マックスだ。

「保科マジでナイスタイミングだったね」
「ロッカーに鍵落ちてたから、追いかけて来たんす。こんな変なやつ付けてんの、志川さんに間違いないって皆言ってましたから」
「・・・言っとくけどこれ、友達の留学土産であって、俺の趣味じゃねぇからな」

保科から受け取った手の中のキーホルダー。どっかの部族のお面みたいな木彫りのそれは、絶対留学先──イギリスの土産ではないけれど、俺の為にネタに走ってくれた友人の心意気である。

「趣味じゃないのに付けてんすか」
「いやだって折角くれたんだし。あとなんか魔除けっぽくて」
「・・・確かに。現に今、それがないばっかりに魔に寄られてましたね」
「もーいいよっ!帰るぞ!」

駅も路線も同じだから、向かう足先も同じになる。

「あ、忘れてた」
「なんすか」
「鍵、わざわざありがとな」

どうやらバイト先では不評らしいキーホルダーを揺らして言えば、保科はちょっとビックリした顔して「いーえ」と呟いた。
先に上がった俺を追っ掛けて来てくれたって事は、走って来たって事だろう。功労賞だ、功労賞。

「そーいや保科と帰んのって久々だよな。お前が研修中はよく一緒だったけど」
「・・・そっすね」
「お前バイト上がって着替えんとき、ノロノロしてるもんなぁ。疲れてる?」

バイト先の小洒落た飲み屋は店長の計らいで、学生のうちは年齢問わず早番シフトにしてもらえる。だから大学生の俺も保科も上がり時間は同じだけど、日付が被っても保科と一緒に帰宅ってのは滅多になかった。
尋ねた保科はどこか居心地悪そうに視線を泳がせている。

「いや、疲れてはないです・・・体力は平気な方ですから・・・」
「だよなぁ。お前マジいい体してんな〜って、俺、見てたし」
「は?」
「お前いっつも背中向けてるから、見てた」

子供の頃から運動はクラブなり部活なりで色々やってたそうだけど、大学進学を機に勉強一本に絞ったらしい保科。もとより運動は趣味で続けていただけで、拘りはないとか言ってたっけ。

「なっ、なんすかそれ!俺は志川さん見ないよう気ぃ使ってたのに!」
「なんだそれ!俺は女子か!つかお前は紳士か!」
「んなわけないでしょうっ!」

急にガッとこられて俺もでかい声で返してしまったら、往来の視線が集まった。
やべー、恥ずかし。
こほんと小さく咳をして、トーンをおさえる。

「いや、そんな先輩だからってそういうとこ、気ぃ使わなくていいよ。まぁ品粗な体だし、誰かと違ってハイブランドのパンツも履いてないけどな」
「どこまで見てんすか」
「ごめんごめん、怒った?許してにゃーん」

先ほどの二の舞にならないように、指先を丸めて保科の顔を覗き込むようにおどけて言えば、一瞬目を見開いてすぐに顔をそらされた。
なんだ、そのえらいもん見てしまったみたいな反応は。
まあ俺も否定しないけど。我ながら寒いことやっちまったぜ。

「なあ、保科。ネコって意味わかる?」
「ネ・・・ッ?」
「さっきの奴がさぁ、俺がネコやるといい〜みたいなこと言っててさぁ、意味わかんなかったんだよね」
「・・・ネコミミ付けたらいいとか、そんなことじゃないッスカネ・・・」
「あー、そっち系?えー、でも俺がぁ?ないわ〜」

からからと笑う俺に対し、保科はげんなりとした感じでテンションが低い。
なんか俺みたいな先輩がいて大変ねって、他人事みたいに思っちゃうわ。

「なに、ひょっとして俺のネコ姿想像しちゃった?」

つんつんつつきながら言えば、保科の目がぎらりと揺れた、ように見えた。

「俺、志川さんがネコするとこ見てみたいっす」
「ぶはっ!俺?!いいよ、やってやろーじゃん」
「いいんすね、言いましたよ」
「いーよー。今日は二度も助けて頂きましたしね。あ、ドンキ入る?あるんじゃね?」
「そっすね、必要なもんを買いましょう。色々と」


そうして、俺がネコミミを物色している間に保科はなんか怪しいもんを会計していて、連れられるがままにネオンギラギラのホテルで一晩中ネコミミつけたままにゃんにゃんされるのだが、俺は一体どこで間違ったのだろうか。

「これからは俺も堂々と志川さんの裸みますからね!」
「・・・俺、裸までは見てねーんだけど」



おわり

小話 06:2016/09/26

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