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俺には前々から疑問に思ってる事がある。


「新曲ダウンロードしたんだ。はい」
「あ、ありがと」
普通に隣に座って、普通に片方のイヤホンずつ二人で聞く。

「一口ちょーだい、あーん」
「あー、ほれ」
普通に俺の飯を、普通に口を開けて放り込まれるのを待っている。

「なー、お前ら合コン来ねぇー?」
「俺ら間に合ってるからー」
普通に合コンの誘いを、普通に俺の分まで勝手に断ってくる。
全っ然、間に合ってないのだが。

そして今日も今日とて、俺は大学終わりも浅倉と二人、何をするともなしにカフェでダベっている。
好きなバンドがツアーするから行ってみたいとか、バイト増やしたいけど時間がないとか、友達とする、よくある会話。
有名な全国チェーン店のカフェだと言うのに、ただのアイスコーヒーを啜っているだけだと言うのに、向かい合って座るこの男はすごく絵になるし、店内の女性は一緒にいる俺なんて無いものと同じように、チラチラと浅倉ばかりを視界にとらえている。

浅倉は日常において気の合う奴だが、こういうところは雲泥の差だ。

「それ美味しい?」
「うん」
「ちょっと飲ませて」
「ん」

新作の甘いフラペチーノ。
口を開けるので、ストローを傾けると身を乗り出してパクリとくわえる。

「あ、ほんと、美味し」
「これ期間限定って、いつまでだろ」
「また近い内、飲み来よっか」
「うん」

どうせ浅倉はまたアイスコーヒー頼むくせに。

そんな浅倉に、俺は常々思っていた。

“お前って、俺のこと好きなの?”

これだ。
この疑問だ。
お前何自惚れてんの?って議題だが、聞いてほしい。

浅倉とは誘われるままに、映画も水族館もテーマパークも二人で行った。
なんか知んないけど、ノリでプリクラも撮った。
お互いの家に泊まりに行ったことはしょっちゅうで、次の大型連休に温泉旅行も企てている。
そんな浅倉に一度「他に誰か誘う?」って聞いたら、あからさまにしょげてから「じゃあもういい」とひとつの話がポシャろうとした事もあった。
誘われたくせに第三者を誘おうなんて図々しかったなと反省して「いや、二人のが気兼ねしないで楽しいか」と言ったらコロリと「そう?」なんて笑顔を見せて、あの日は確か、浅倉と二人で動物園に生まれたばかりのライオンの子供を見に行ったっけ。

ここでクエスチョン。
「浅倉って、俺のこと好きなの?」

パターン1
「好きだよ、友達だから」
「おー、ありがとー!」
友情エンド。完。

パターン2
「んなわけないじゃん」
「だよなー、男同士だもんなー」
友情エンド。完。

パターン3
「うん、好きだよ。恋愛的な意味で」
「・・・」
恋愛エンド──未完。

そう、未完。
パターン3に限り、俺は返答パターンが思い付かずにいる。
何故なら選択肢にノーがないからだ。
だからと言ってイエスもない。

友達を辞めたくはないけど、更に踏み込んだところまでいける気がしない。
浅倉は確かに、総合的にいい男だ。
でも、質問の答えが三番で、俺が受け入れられなかったら、この友情は終わるのだろうか?浅倉の側にはいられなくなるのだろうか?



「すみませーん。お隣いいですか?」

掛けられた言葉にハッとした。
二十歳前後の同年代っぽい女子が二人、俺達・・・と言うか完璧浅倉にロックオンして声を掛けていた。
別に自由席だし空いてる席には適当に座りゃいいじゃん。
黙ってストローを吸っていると、浅倉は二人に向かって綺麗に笑った。

「空いてるなら、いいんじゃない?」
俺と全くの同意見。

隣を許可された二人はいそいそと座り、揃えた膝の方向が浅倉の方に向いたところで当人はコーヒーとバッグを持って席を立つ。

「じゃ、出よっか」
「うぃ」

颯爽と席から離れる浅倉に続きながら、二人を横目で見ればポカンとしていた。
なんだ、浅倉と楽しくお喋りが出来るとでも思っていたのか。
ざまーみろ、と何故だか俺がちょっと優越感。

・・・この優越感の理由も謎である。
女子が俺を蔑ろにしたから?
浅倉をとられずに済んだから?


浅倉はこうやって逆ナンされても一切靡かない。
俺に気を使っているのかと思っていたら、前に一度、待ち合わせ場所に先に来ていた浅倉が女の人に声を掛けられてたから、邪魔しちゃ悪いと離れた所で様子を見てたらガン無視していた。
いつもは誘いに乗らないにしても、やんわりと断りをいれているから意外だなと驚きもあったが、相手にされずに怒った様子で去っていく女の人には目もくれず、離れた場所で立ち尽くしていた俺を見付けると笑顔で手を振ってきた浅倉に感じた安堵感。



「原田。足元気を付けてね」

階段を降りたところで浅倉が俺を見上げながら待っていた。

「大丈夫だって」

フロアに足がつくと、浅倉は頷いて笑った。過保護じゃねーかと呆れる反面、もう慣れてしまった言動につられて笑い返してしまう。
空になったカップをゴミ箱に捨てて、空調に後ろ髪を引かれつつ店を出る。

「ね、ちょっと本屋行っていい?親戚の子の誕プレに知育本買いたいんだよね。やっぱりこういうのはネットじゃなくて中身確認してから買いたいし」
「いいけどさ、それ絶対好かれないプレゼントだよ」
「やっぱり?」

もうさっきの女子なんて無いもの扱いの浅倉に不思議とほっとする。
浅倉に対して優越感やら安堵感やら。せわしなくモヤモヤする正体不明な感情が腹の底に溜まっていく。

「じゃあやっぱアンパンマン図鑑かなー」
「あれ今どんだけキャラいるんだろね」
「ギネス認定されてなかった?」
「え、すげぇ」

本屋に行くならとルートをかえて、下らない会話を続けながら並んで歩く今が丁度いいから、とりあえずこの気持ちは後回しにする。
胸焼けのように身体の中が疼くのは飲み干した甘いフラペチーノのせいであって、隣の浅倉が甘ったるく笑うからだなんて、そんなわけがない。



終わり



友達以上恋人未満。

小話 54:2017/07/24

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