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※「09」の続編




「圭介君はさ、授業中に居眠りするのは教師に申し訳ないって思ってるからずっと起きてるよね。たまに目を擦ったりしてるのがすごく可愛いし、あくびを噛んだり、頬をつねったりしている姿は応援したくなっちゃうよ」
「お前が授業中に俺のことを見ているのはこの際置いといて、なぜ授業中に寝ないかという俺の心情を知っている件について」
「有馬様は洞察力に長けてるからな。君のような単──、たん、短絡的思考なんて、手に取るように解るのだろう」

今、美琴君は単純と単細胞、どちらを言おうとしたのだろうか。
俺はアイスココアを啜りながら、辺りを見渡した。場所は普段穏やかに談笑する生徒達の憩いの場、カフェテリア。なのに今は周囲の生徒達はギクシャクと固唾を飲んで俺達の気配に緊張感を漂わせていた。
俺達と言ったが、正確には俺を除く有馬と美琴君の二人だ。学園一のモテ男であり王子様系有馬と、天使と見紛う可憐な美琴君。
この二人が揃うだけで周囲は色めき、二人の行動を見守っている。それに美琴君が有馬に好意を寄せていたのは多分もう学園中が知っている。知らないのは当の本人、有馬だけで、その理由がなぜか有馬が俺にご執着しているからだ。


有馬にお茶でもと構内のカフェテリアに誘われて、俺は自販機で百円の紙パックジュースを教室で飲むのが落ち着く部類だし、なぜ有馬なんかとと盛大に拒否していたら、有馬の背後から般若の形相で美琴君が睨んでいたのに気が付いた。

──行けよ。
──行けと言うのか。
──当然だろう。
──殺生な。

無言で一瞬の、目と目だけでのやりとり。
俺の目が有馬の向こうに向いているのに気付いた本人は、ちら、と背後を窺った。途端に顔を赤らめて、シャキッと居直る美琴君。・・・美琴君、君まだ有馬が好きだね。わかりやすくて可愛い奴め。

「あぁ。確か、圭介君のお友達だね」
「元はお前の追っかけだろうが」
「え?」
「てめぇ・・・」

ばしんっと有馬の頭を叩く。髪型が乱れたのは一瞬で、サラサラヘアーはすぐにもとに戻ってしまった。
少し考えた素振りを見せた有馬は、今だ直立している美琴君に近付き
「圭介君と今からカフェテリアに行くんだけど、一緒にどうかな?」
と爽やかな笑顔で誘いだした。
有馬に誘われたら、そりゃあ美琴君は
「はい!是非!」
って言うに決まってんじゃんか。

「ほら、お友達も行くってさ」

だから俺も行くだろう?と言わんばかりの笑顔な有馬、その有馬の策略にまんまとハマった美琴君と、道連れになった俺だった。



「二人はさ、とっても仲が良さそうだけど、普段は何をお喋りしてるの?」
「主に・・・有馬様の、お話です」

ココア噴いた。
げほげほと咳き込んで口元を拭う俺に構うことなく、有馬は分かりやすくぱぁーっと背後に花を咲かせた。
美琴君。君は一体何を言っているのだね。確かに有馬の話はするが、それは有馬への愚痴、そして愚痴だ。

「へぇ!僕の!圭介君、僕のことお話ししてくれるんだ!」
「言っとくけど、お前が思ってるのと180度違うやつだからな」
「え?僕は圭介君はツンデレさんなところがあるから、てっきり人前では辛辣な言葉を並べているのかと・・・でもそれは違うってことだね!」
「しまった墓穴だ!そして俺はツンデレではない!」
「おや、じゃあ僕に全力で甘えてくれるのかな?」
「ポジティブバカだろっお前!」

ニコニコと緩んだ笑顔を隠しもせずに向けてくる有馬の顔を押して拒絶を示すが、全然びくともしない。

すると紅茶を飲み干して静かにカップをソーサーに置いた美琴君が、席を立った。

「有馬様。僕は委員会活動があるのでそろそろ失礼します。今日はお誘い頂き、ありがとうございました」
「え、美琴君帰るの!?」
「いえいえ。こちらこそ、僕の圭介君の話を聞かせてくれてありがとう」
「だ・れ・が!だ・れ・の・だ!」

ネクタイの結び目を掴んで凄んで見せるが、ポジティブバカは笑顔を崩さない。
こいつは駄目だ。
俺はカフェテリアを出て美琴君を追い掛けた。

「美琴君!」

呼び止めるとカフェテリアと校舎の狭間の渡り廊下で、美琴君は振り返る。
その顔は少し驚いて、幼く見えた。

「なんだ、有馬様とまだゆっくりすればいいだろう?」

腕時計を見ながら言う辺り、美琴君は嫌みじゃなくて心からそう言っている。

「美琴君、まだ有馬のこと好きじゃん。諦めないでよ」

もはや俺を有馬から解放してくれとか、そんな打算的な考えじゃない。
俺はもう、美琴君の友人として──あれ?俺美琴君の友人だよな?恋敵とかじゃないよな?・・・とにかく、第三者的な立場で、美琴君の恋を応援したいんだ。
だってこんなに健気で良い子な美琴君。王子様に幸せにしてもらうなら君じゃないか。

「そうだな、好きだ」

俺の悲痛な表情に気付いた美琴君が苦笑した。

「・・・有馬様が好きだ。君と一緒にいてよく笑う有馬様が好きだ。君といなければ、有馬様はあんなに輝かないよ。君との仲を応援しつつ、たまにお側であの笑顔が見れたら、それでいい」
「美琴君・・・」
「委員会があるのは本当なんだ。これから仕事があるから、僕はもう行くぞ?」

さらりと言って、美琴君は校舎の中へ姿を消した。強がりでもなく、哀愁もなく、俺より小さいが凛とした美しい後ろ姿だった。

美琴君、ほんっと君って奴は、いじらしくて男気があって、かっこ可愛いの代表じゃないか。


「彼は本当に良い子だねぇ」

突如背後から有馬が湧いたが、もはや動じなくなった俺の視線はずっと美琴君が消えた方向だ。

「そうだな。お前よかよっぽどかっこいいわ」
「そうかい?」

目をパチリと瞬かせた有馬は、すぐににっこりと微笑んで俺の腰を強引に抱いて引き寄せた。

「それじゃあ僕も、本気で君を落とそうかな」

真っ直ぐに俺を見つめる物好き有馬。
しかしそれなら俺も、ちゃんと向き合うのが礼儀なのかもと、強くて美しい美琴君を思い返してぼんやり考える。
好きになるかは全くの別問題だけど。




おわり



元は圭介君と美琴君の奇妙な関係(受けと攻めのこと好きな子が仲良し?な話)を書きたかったので、有馬×圭介が成立するかも謎だし、もちろん圭介→美琴フラグも立たないです。美琴君を幸せにさせたい。

小話 50:2017/06/07

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