04



大学に入ってから、凛が急激にモテはじめた。
そりゃ高校卒業したら髪染めてみたり、ちょっと服装頑張ってみたり、男も女もそこは一緒だと思うけど、そういう連中のなかでも垢抜けた凛は体育会系の部活動をしていただけあって体も引き締まり、群を抜いてモテた。
自分に自信ある女の子が「ライン教えて」「インスタやってないの?」って聞いてきても「俺かなり既読スルーしちゃうからなぁ」「インスタ?やってないし、やらない」とヘラっと笑ってかわしちゃう。
それ加えていつも俺が隣にいるからか、女子からの評価は「あいつまだ中身高校生」だ。
なんだそれは。俺がガキっぽいって言いたいのかとふて腐れれば、凛は言う。

そういうとこ、かわいくて好きだけど。

って。
うん。うん、あの、まあ、お察しの通り、凛も俺も男同士だけど付き合ってる。
元々高校の同級生で、その時になんやかんやあって、落ち着くとこに落ち着いた、みたいな、うん。
で、無事同じ地元の大学に入学して、女の子に興味なくて、俺とよくつるんでるってなると、同族っていうか、カンの鋭いやつは気付くみたいで。

「ね、あんた凛と付き合ってるよね?」

俺より少し背の低い男に突然聞かれた。
誰もいない、しんとした階段の踊場。
最近、凛とつるんでるっていうか、絡んでるっていうか、付きまとってる奴だ。

「あー、えぇ・・・?」

言っていいのかな、自分達からは公言しないけど、聞かれたらどうするなんて決めてなかったな。
煮え切らない部分で肯定しているようなもんだけど、はっきりとは言いきれない。

「誤魔化さなくてもわかるよ。だって俺も凛、好きだし」
「マジか」

衝撃。
マジか、凛、男にもモテんのか、すげーな。
なんてぼんやり聞き流してたら、俺のぼんやり顔があまりにも間抜けだったからか鼻で笑われた。

「あーあ。なんで凛もこんなのといるかなぁ。まあ、今まで狭い世界しか知らなかったのかもしれないけどさ、大学で色んな人見ちゃったら、君みたいな凡人なんてすぐ眼中に入らなくなるよ。例えば僕とか?最近仲良くしてるし?」
「あ、そう?」
「考えてもみなよ。凛の隣にあんたがいんのと、僕がいるの。俄然、僕の方がお似合いじゃん。あんたはせいぜい凛の引き立て役って感じ?全然絵になんないし」
「別に絵になりたい訳じゃないけど」
「は?」

揚げ足をとったつもりじゃないけど、可愛いげのない返答に目の前の男の顔が歪んだ。
あー、どうしようかなぁ、なんて思ってると階段の上から足音が聞こえた。

「友也ぁ、お待たせー、帰ろーぜー」

教授のところに寄っていた渦中の人物、凛だ。
あぁお前、タイミング良いのか悪いのか。

「りーん!」

対俺とは打って変わって、パァッと彼の顔と声色は明るくなり、さっと凛の横にくっついてパーカーに突っ込んでいた腕にするりと自然に自分の腕を絡ませた。
す、すごい早業だ!そして馴れている!
なんて感心している場合じゃなくて。
凛の隣で勝ち誇ったような顔をする彼に、俺が口を開くより先に凛の顔が渋った。

「・・・うーん」
「なぁに、凛。どうしたの?」
「いや、あのさ、今の全部聞いてたんだけど」

ぎょっと、彼の目が丸くなった。

「声でかいから、響いてたよ。なんか、あざといし、ぶりっこだし、そもそも友也と比べてくる時点で無いわー。性格悪いって言われたことない?人のことディスって自分のことアゲてんの、かなり胸くそ悪いよ?」

ズバッとした物言いに、彼が固まる。

「えーっと、名前なんだっけ。君ね、自分にだいぶ自信あるみたいだけど、そういう行動ぶっちゃけ痛いからね?君が横でぶりっこしながら話しかけてくんの、恥ずかしいなーって思ってたし」

サーっと血の気が引いていくのが目に見えてわかる。なんか俺がストップをかけたいくらいだ。セコンドについていたら迷わずタオルを投げるだろう。

「あー、俺いま結構ひどいこと言ってるなーって自覚してるけど、君も友也にだいぶ酷いこと言ったからね?友也のことめっちゃ傷つけたの、俺怒ってんの、わかる?」
「ご、ごめ・・・」
「え?俺に謝んの?」
「・・・っ!」

屈辱と言わんばかりに唇を噛み締めた彼は、俺を睨み上げてからバッと凛から離れて階段を駆け降りていった。
謝罪なしかい。別にいいけど。凛が言うほど傷付いてないし。
完全に足音が消えると、不機嫌マックスの凛が頭を掻きむしった。

「あーくっそ。まだムカムカするーっ!てか謝れし」
「凜、すごかったね」
「俺、友也が誰かに悪く言われんのすごく嫌」

ぎゅううっと正面から抱き締められて、俺の背中が少し反る。宥めるように背中を叩くと、肩にデコを押し付けられた。

「でも誰かが友也の良さに気付いて好きになんのはもっと嫌」

その小さな呟きに混ざる暴君っぷりに、思わず笑ってしまう。

「凛、俺が好きな人、知ってる?」
「おれ」
「そ」

そもそも高校時代のなんやかんやとは、お互いがお互いを好きになった時に同性愛について散々悩んだ事だ。今までどちらも恋愛対象は女の子だった、でも今は目の前の同性が好きなのだ。二人してずっと「ホモってわけじゃない」「男なら誰でもってわけじゃない」「だからと言って彼の他に女の子も好きになるわけじゃない」など赤い顔しながら頭を抱えて出した結論が──

お前だから好きなのであって、他の男を好きにはならない、別に彼女を作ったりしない。

──という、なんとも小っ恥ずかしい一途宣言だったのだ。
だから俺は、さっきのナントカ君が凛に言い寄ってもなんとも思わなかったし、凛がなびくとも思わなかった。

「帰ろ帰ろ、ラーメン食って帰ろ」

またパーカーのポケットに手を突っ込んで、凛が先に階段を降りる。その後ろ姿を眺めながら、先ほどの彼を思い浮かべる。
そして倣って、凛の隣まで降りて、腕に自分の腕を通してみる。
凛の足が止まった。

「・・・どしたの?」
「いや、なんか、対抗意識」
「・・・ぎゅーーっ」
「あっ、いててっ、おいこら筋肉バカ!腕挟むな!抜けない!痛い!」
「はなさなーい」
「痛いっつの!」

俺らの間に色っぽい事とか正直まだ無いけれど、お互いがお互いを好きなのだから、今はまだ手探り状態でもいいと思う。
なんせお互いに一途なのだから、先はまだまだ長いのだ。




おわり



意地悪な恋敵を盛大に凹ます展開も好き。

小話 04:2016/09/14

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