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※「16」→「24」の続編


板チョコを刻んで、温めた生クリームに混ぜて、ラップを敷いたバットに流し入れて、冷蔵庫で冷やし固める。あとは固まったら適当な大きさに切って、ココアを振るいかけて、生チョコ作りはこれで終わり。

(チョコとか初めて作ったし)

ヘラとかバットとか、チョコレートを作るためにわざわざ買い揃えた。レシピもネットでたくさん見て、レビューも高く、かつ自分でも作れるのを数日かけて選び抜いた。手順を何度も脳内シミュレーションして、道具は全てシンクに出して入念に確認して、徹底してチョコレート作りに力を入れた。

(秋彦、喜んでくれるかなー)

カットした端っこを味見すると、それなりに美味しかった。あとは用意したラッピング材の箱に、明日の朝詰めるだけ。

(明日、秋彦とチョコレート交換・・・)


「ふへへ」
変な笑いが出た。

思わず口元にあてた手にはクリスマスに秋彦がくれたペアリング。
本当は俺から用意するべきだったと思うけど、秋彦に対してどこまでしていいのか悩んでたから、自分は普通に手袋とマフラーをプレゼントした。だって男同士だし、付き合って間もないし、いきなり指輪とか引くかなって思ってたから、まさかの秋彦からのプレゼントにすごく嬉しくて泣いてしまった。

(泣かないようにしてんだけどなー)

・・・泣き虫で、女々しい俺。
秋彦は基本、恋愛経験がないに等しくて、お姉さんの持ってる少女漫画がバイブルらしい。だから一般的な女の子の胸キュン要素をいつか恋人にしてやりたいとも思っていたし、喜ぶことはしてあげようと考えていたそうだ。
俺はと言えば、友人時代から、秋彦のそんな理想論をうっとりと聞いていて、秋彦が恋人だったら素敵だろうなと仮想彼女に自分を当てはめて、それはそれは毎日夢見心地だった。実際、秋彦はこんな俺のことをすごく考えてくれて、俺はどんどん好きになる。

(相性いいんだろうな、俺達)

自分で思って、盛大ににやけた。
だって秋彦のすることで嫌なことなんて何もないし、秋彦は俺の反応を見るのが好きらしいから。



「チョコさぁ、手作りと既製品、どっちがいい?」

──遡ること一月末。
それはスマホアプリのパズルゲームが中々クリアできなくて、ひとつのステージに何回も挑んでる時だった。
一緒にスマホ画面を覗き込んでいた秋彦が言った。俺の指が止まったのに気付いて、秋彦が視線をあげると当然、至近距離で目があった。

「バレンタインの話だけど」
「あ、うん」
「どっちがいい?」
秋彦がさらに聞く。

「・・・貰う人によるけど」
「俺からは?」
「手作り!!」
「よし、じゃあ頑張ろ」

そしてパズルゲームなんてどうでもよくなったのは言うまでもなく。
俺は元から秋彦にあげるつもり満々だったけど、秋彦が手作りしてくれるなら俺もと勢い立てば、楽しみにしてるって言ってくれた。
ちなみに秋彦は小学校の調理実習以来のお菓子作りらしい。俺の為に頑張ってくれる秋彦・・・プライスレス!



──今年のバレンタインは平日で、講義を受けた後に一人暮らしの俺んちに二人で帰宅。
朝にちゃんとラッピングしたチョコレートはそのまま冷蔵庫にいれている。秋彦の分の上着もハンガーにかけて、何か温かいものをとコンロで湯を沸かしながら、そういえばどういうタイミングで渡そうかとドキドキしてきた。
頭の中で最近よく見るチョコレートのCM映像が流れた。若手女優がチョコレート作りに奮闘して、先輩、好きですとか言って好きな男に渡すまでの一連の流れ。
今までバレンタインに無縁じゃなかったし、俺の性格的に女の子から本命も義理もポイポイ気軽に渡されてきたけど、改まってバレンタインって言われたら具体的によく分からなくなってきた。

(あー、今すぐ“バレンタイン_カップル_過ごし方”で検索したい。しとけば良かった)

シュンシュンと湯気を立てるヤカンをじっと見つめていると、秋彦が隣に立った。

「もうちょっとで沸くから。何がいい?コーヒー?」

横に視線を向ければ、差し出されたのはリボンで口を絞った透明の袋に入った、チョコレート。アルミカップに入った小さなチョコレートが複数個、中身が見えるラッピングをされていた。
え?と秋彦の手元から顔に、キョトン顔を向ける。

「好きです、受け取ってください」

告白された。
まさかの何気ないタイミングで、予想もしない発言で、俺はまた秋彦の手元と顔を交互に見つめた。

「あ、え?」
「バレンタインだから、告白してみた。さすがに照れるけど」

小さく噴いて笑った秋彦は俺にチョコを押し付けて、それをきっかけに自分にツボったのと気恥ずかしさから俺を置いてけぼりで咳き込みながらゲラゲラ一人で笑っている。

「か、」
「ん?か?」

可愛いのか格好いいのか!
秋彦に対する感情が迷子だ。じ〜んと感激しながらチョコレートを胸に抱いて、中身をもう一度見る。小さなアルミカップに流し入れたチョコレートの上にピンクとか黄色のカラフルな粒や、銀色の丸い粒が振り掛けられた、手作り感満載のチョコレートだ。嬉しい。

「・・・今すぐ食べたいけど、無くなるの嫌だ」
「じゃあ気が向いた時に食べて。でも三日以内な」

うん、と頷いて冷蔵庫に大人しくしまう前に携帯で写真を撮ると、秋彦は後ろでまた笑っていた。
変わりに自分の箱詰めしたチョコレートを取り出して秋彦に差し出すけど、秋彦みたいに上手い言葉が出てこない。
ここは俺もビシッと、秋彦の心をグッと掴むワードをば!

「あーっと」
「・・・」
「あのー」
「・・・」
「秋彦、俺──」

ピーっと、ヤカンが沸騰を告げた。まるで試合終了のホイッスル。
「時間切れー」
秋彦が笑いながら、俺の手からチョコを受け取った。

「あ〜も〜」
「開けていい?食べていい?」
「いーよー」
渋々コンロに戻って火を止めてから、カップにコーヒー顆粒を入れてお湯を注ぐと、背後でカシャッと音がした。
振り向くと、秋彦が蓋を開けたチョコを前に、携帯をポケットにしまっていた。

(秋彦も撮ってんじゃん)
ニヤニヤしながらテーブルにコーヒーの入ったカップを置くと、頂きますと言ってからひとつをぱくんと食べた。

「あ、美味しい」
「うそ!マジ!?」
「マジマジ。柔らかい。とろける」
「やっ、たぁ!」

歓喜のあまり秋彦に抱きついた。
首に腕を回して頬っぺたを擦り付けると、二個目を口に入れた秋彦からチョコレートの甘い香りがして。

「・・・秋彦、こっち向いて」
「ん」

言わんとすることを理解している秋彦が目を閉じた。
唇ごと食べるように自分のそれを覆い被せて、舌で舐めれば中への侵入を許してくれる。口の中の、まだ形を失ってないチョコレートを舌で絡めた。
チョコレート、甘い、美味しい。
甘くて、美味しいのは、秋彦。
なんか頭がイカれたみたいに秋彦の唇を貪って、俺らの間にはちょっといやらしい音が呼応して。
あ、今これいい雰囲気じゃ──。

「あっ!」
「ッ!?」

ぐえぇ。
秋彦が急に胸を押したから、咄嗟の事に俺は後ろにすっ転んだ。
え、なに?今の雰囲気で何の拒絶?
もしかして嫌だった?って泣きそうになりながら起き上がれば、秋彦の顎を薄いチョコレート色した唾液がつたっていた。慌ててティッシュを引き抜いて口から顎にかけてを拭く秋彦にハッとする。

「ご、ごめんね。服汚れた?」
「平気。カーペットも無事」
「それはどーでもいいけど」

薄いベージュのカーペットはもふもふしててゴールデンレトリバーみたいで確かに気に入ってはいるけど、秋彦とのキスを中断してまで・・・ってほどじゃないし。むしろ染みとか全然構わないし。

「口、べたべた」

自分の口をぺろっと舐めながら、秋彦が今度は俺の口元を拭いてくる。
これは恋人同士ってより完璧母子。
がっついちゃって情けないと一人反省会の俺の世話が終わった秋彦は、四つん這いでティッシュをゴミ箱に捨てて、そのままテーブルの上のコーヒーを口に含んだ。
口直ししてる姿にますます凹んでると、今度は膝立ちで俺の前まで寄ってきた。

「ん、仕切り直しな」

顎をくいっと上げて、俺の顔をじっと見てくる。

いやいや・・・。
いやいや、秋彦・・・。


「好き!もー!すっげぇ好き!」

堪らなくなって、ぎゅううって抱き締めると不覚にも目頭が熱くなってきた。耐えるように秋彦の肩に顔を埋めると、既に悟ったらしい秋彦が笑いながら背中を撫でてくれた。

「バレンタイン楽しいなぁ」
「・・・うん」

返事が震えてしまったけど、秋彦が俺みたいに楽しいって思ってくれるなら、もうなんでもいいや。



おわり



この二人をどろどろに甘やかしたい。

小話 33:2017/02/14

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