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※「16」の続編





「ね、どうする?どこいく?」

そう言って嬉々としながらプリントの束を持ってきたトモは、チャラ男の癖に子供っぽく無邪気に笑って、うっかり可愛いなぁなんて思ってしまった。

「なに?」
「イルミネーション!」

人で賑わう大学の食堂で昼食をとりながら、トモが持ってきたプリントを一枚一枚めくっていく。
どうやら県内の有名なクリスマスイルミネーションをプリントアウトしてきたらしく、観光名所から遊園地、水族館などのテーマパーク、ショッピングセンター、はたまた穴場らしい一般の家庭がこぞって力を入れている住宅街のものなど、こと細かなところまでピックアップされていた。プランを練ったりと意外とマメなのは前からの付き合いで知ってはいたが、ここまでとは。

「へぇー。知らないとこが結構ある」
「俺も調べたらキリがなくなってきて。あ、こっちのから県外なんだけど、俺車出すし」
「あー、CMでよく見るやつだ」

隣り合わせで肩を寄せ合いながら、二人でひとつの紙に視線を落とす。俺は野菜たっぷりのチャンポンを、トモは日替わり定食を時々思い出したように食べていく。
そう言えば去年は、トモが俺にイルミネーションを見に行かないかって誘った時、やんわりと断ったんだよな。なんとなく、トモが俺を好きなのを感じてたから、距離をとったっていうか、避けてしまったというか・・・反省。それに今じゃ正式にお付き合いをしてるんだから、何がどう転んでどうなるか、世の中先のことなんて解ったもんじゃない。

「あー、でね、俺はココとかココね、行ってみたいなーって」

シルバーのゴツい指輪をはめた人差し指が何ヵ所かさしていくのを視線で辿るふりをして、こっそりトモの顔を見る。
ニッコニコしてる。
去年、俺と見たかったのが今年実現できて嬉しいんだろうな、って思うのは自惚れだろうか。いやでも、今年見に行こうって言ったら泣いて喜んでくれたし、やっぱりそういうことだろう。
そう思うと俺はまたきゅんときて、ハーフアップしているトモの頭を乱暴になで回した。

「お前は可愛い奴だよなぁー」
「えー、なにー?あざまーす」

ヘラヘラっと笑ってるけど耳が赤い。シルバーの指輪に合わせてつけてるシルバーのピアスが余計に目立つ。
俺もつい、ヘラっと笑ってしまった気がしないでもなくて、隠すようにトモの手元のプリントに視線を戻した。

「あれ、こっちのって駅んとこのツリーだね。じゃあ今日見に行く?」
「え?」
「ライトアップってもう始まってるよな?近場だったらさ、大学帰りとかに電車とか、遊び感覚でも行けるじゃん。せっかくだから、今年はたくさん見に行こうぜ。イルミネーション巡り、的な?」
「え!」

トモの目がキラキラしてきた。
罪滅ぼしって訳じゃないけど、こうなりゃ去年の事を払拭させる勢いで、今年は目一杯楽しみたいし、楽しませたい。

「んで、本番は──」
「ん、ん?待って待って、秋彦、本番ってなに?」
「え、クリスマス」

けろりと言えば、トモが俺を凝視して固まった。

「クリスマス・・・が、本番?」
「え、ダメだった?あれ、ごめん、てっきり・・・」

てっきり、付き合ってるからにはクリスマスは一緒に過ごすものかと・・・って、自然とそう思い付いていた自分に、徐々に赤面していく。俺もトモを見たまま固まっていたら、ふいにトモの目がキラキラからウルウルに変わってきた事に気付いた。

「ト──」
「ダメじゃない!」
「うおっ」

名前を呼ぶより先に、肩を強く組まれた。そのままトモの方に引き寄せられて、頭に頬をくっ付けてグリグリしてくる。なんだこれは。

「秋彦、バイトは?」
「24は入ってるけど、25は大丈夫」
「マジかぁ。イヴじゃなくてほんとに本番の方だね」

おかげでリア充認定されたわ。
やけくそで笑ってそう言えば、肩をバシバシ叩かれて、また元の、通常よりはちょっと近い距離に戻った。

「へへっ。いいね、俺らちゃんと付き合ってるもんね」
体を少し前に倒して口角を上げて笑うトモが、顔を覗き込んでくる。

「・・・熱が冷めない内は、こういうの大事にしたいじゃん」
トモの定食に髪がつきそうだったので、トレイをそっと奥に押しやった。

「という事は、秋彦、今は俺に熱あげてんだ?」
「お前はすぐ、そう言う事を言う」
「やべー、うれしーっ」

頬を両手で挟んで上体を元に戻したトモはユラユラ揺れている。子供みたいだなとつられて笑いそうになりながら、トレイを再び手前に引っ張ってやった。こいつも俺も、なんか忙しいな。

「っしゃ、さっそく計画たてよう!」
「なにー、トモ君どこか行くのー?」
「あ、イルミ!見に行くの?」

スマホを取り出して張りきりだしたトモに先に飯だと促していると、背後から軽い声が割って入った。
振り返れば化粧バッチリ、髪型バッチリ、服装バッチリの女子二人が立っていた。その出で立ち、いかにもトモの友達っぽい。
めざとくトモの手にしていたプリントを見た女子が嬉しそうに会話に入ると、トモはさっさとプリントを裏返しにして隠してしまった。その行動に自分達はかやの外だと察したのだろう、ちょっと顔を引きつらせて、トモの隣に座る俺に一瞥くれてから、トモと俺を交互に指差して首をかしげた。

「もしかして二人で行くのー?」
「そーなのー」
トモが笑って答える。

「え〜、男二人とか寂しくなーい?」
「なーい、全っ然寂しくなーい。むしろ楽しみだしぃ。俺達スゲェ仲良しだからぁ」

ね、と話をふられて、無言で頷く。トモの友達なら、ここの扱いは任せてもいいんだろうか。それに今のトモの笑顔はなんか、口を挟む隙と言うか、有無をも言わせぬものがある、気がするし。

「私らも、ねぇ?一緒に行きたいなー」
「だめぇ?」
女子二人が目配せして提案してくる内容は案の定だ。しかしトモは笑顔を崩さない。

「だめー」
「えー」
「絶対だめー」
「けち!」
「そうでーす」
「意地悪!」
「そうでーす」
「男二人とか怪し〜!変な噂たっちゃうよ!」
「全然おーけー、ウェルカーム」
「なにそれぇ」

何を言われても軽くいなすトモについ笑ってしまうと、女子にギロリと睨まれた。アイラインがっつりクレオパトラなだけにちょっとビビったので、大人しく麺を啜る事に徹する。
しかしあまりにもトモが脱力気味な、気のない返事ばかりをするものだから、女子二人も脈なしと判断するや「つまんない!」と最後に毒づいて踵を返して行ってしまった。・・・果たして彼女達は昼飯を食べに食堂に来たのか、トモを探しにわざわざ来たのか。後者だったら御足労である。
巻き髪やスカートの裾を揺らしながら去る後ろ姿を眺めていたら、トモに肩をつつかれた。

「・・・変な噂、たったらごめんね」

しゅんとしながら言うのは、さっきの男二人云々のことだろう。
そういうところを心配してなかった訳じゃないけど、トモが普通に、むしろ堂々と返すものだから案外簡単に相手は聞き流したし。

「いいんじゃない?実際仲良しだし──うぉっ」

振り返りながらそう言えば、俺は驚愕の叫びが小さく飛び出た。

トモが、ポロポロと涙をこぼしていたからだ。

「え、なに、泣く要素は一体どこに・・・」
「い、今の、怒られると思ったから・・・でも俺、秋彦と二人でイルミ、見に行きたいし、そこは譲れないから・・・そしたら秋彦、俺と仲良しって、仲良しってぇ・・・」
「あー、よしよし」

両手で目頭と鼻を押さえて泣くトモの目尻に、テーブルに備え付けてあるペーパーナプキンを慌てて当てた。湿り気を帯びてどんどん吸収していく様を見ながら、俺は周りに聞こえないようトモの耳に唇を寄せる。

「ちゃんと付き合ってるって、トモもさっき言ったじゃん」
「うん」
「俺達は、仲良しで、付き合ってて、クリスマスにイルミネーション見に行く仲、だろ?」
「うん!」

パッと上げた顔は、涙こそ流れていなかったが目尻は赤かった。

「お前、意外と泣き虫なのな」
「いや、そうでも無いはずだったんだけど、秋彦のことになると、そうなるっぽい・・・ごめん」
「いーよ。なんか可愛い」

可愛い。
俺のその台詞にトモは口元をモゴモゴさせてから、下唇を噛んだ。にやけるのを我慢してる、みたいな。表情豊かというか、表情筋がゆるいと言うべきか。
トモは結構さっきの女子達へみたくストレートにモノを言うし、行動にも出すし、顔にも出やすい。

(付き合う前はチャラいやつって思ってたけど、根っから素直なだけなんだろうな)

だから嘘もつけない。
俺に好きって言うし、人前でも一応ハッキリとは言わないが二人でいることを隠したりはしない。
そしてそれを、いつの間にか悪い気がしないと思っている、俺。
だいぶハマっているではないか。

「えーっと。じゃあさっきの続きね。俺、車出すから思いきって隣の県まで見に行っちゃう?」
「いーねー、楽しそう」
「午前中から観光地回ったりして」
「いーねー、美味しいもん食べよう」

そうして、すっかりぬるくなったチャンポンを啜り、確かに今はこっちの方が熱いなと実感しながら、観光名所を調べ始めたトモに再び肩を寄せ、実はクリスマスプレゼントに指輪がある事をいつ告げようかとわくわくしてしまった。




おわり


「続編を読んでみたい」で第二位。
クリスマスにイルミ見に行くところをかきたかったんですが、その前で力尽きてしまった…。





小話 24:2016/12/23

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