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み、見つけた。
見つけてしまった。
彼氏である愁二が台所に飲み物を取りに行ってる間に、正座したまま上半身を折り畳んで、ベッド下というド定番な場所を覗いた結果、見つけてしまった。

「エロ本・・・」

しかも洋モノ金髪美女の無修正。
マジか、マジでか愁二。

彼氏の意外過ぎる性癖の表れに、俺は──ニヤリと笑った。



「お待たせ、始。紅茶とコーヒーどっちがいいか分かんなかったから両方持ってきたけど、どっちがいい?」
「あー、じゃあコーヒーで。ありがとう」
「どういたしまして」

マグカップふたつに保温ポットとレトルトコーヒーの瓶、紅茶のティーバッグに焼き菓子が乗ったトレーを置いた愁二は、スプーンでコーヒーの顆粒をカップに入れてお湯を注いだ。
俺は改めて愁二の部屋を見渡す。
名前が解らない観葉植物に、基本的に低い高さで揃えてる棚(ってかきっとチェストとかお洒落な呼び方するやつ)に本がずらり、あとは机とベッド。すげーシンプルな部屋。
そんなシンプルな部屋に、ドエロいスケベ本が。

「はい、どうぞ。なんかニコニコしてるね、どうしたの?」
「え、いや?別に?」

おっと、いけねぇ。先の展開を予想して、ついつい顔に出てしまったけど、幸い愁二は俺以上に機嫌が良さそうで、たいして聞き入ってこなかった。
頬杖をつき、柔らかい笑みを浮かべながら俺を眺めてくる顔をみると、学園でプリンスの称号を得ているのは納得できる。
見た目はいいのだ、見た目は。

「嬉しいなぁ、始が俺の家に来てくれて」
「お前が腕つかんで離さなかったからだろー。みろ、この腕。お前の手形がクッキリついてんだからな。ホラーだろ、ホラー」
「始は色が白いねぇ」

シャツを捲って指の痕がついた腕を見せると、お門違いな発言をしながらうっとりとした熱視線を向けられて鳥肌がたったので、さっさとシャツを下ろして鞄に突っ込んでたカーディガンも羽織った。

「今日は二人きりだから、ゆっくりしていってね」
「・・・はい?」
「今月からね、父さんが単身赴任で母さんも同行してるんだ。普段は兄さんと二人だけど、兄さんは友達の所に泊まり行くって、今夜は帰ってこないよ」

じりっと、愁二が詰め寄ってくる。

「明日は土曜だし、泊まっていっても大歓迎だけどな?」

床についてた俺の手に手を重ねて握ってきた愁二に鳥肌が再来した。
俺ピンチ!

「ああああのさぁ!」

バッと手を振り払い、俺は背もたれにしていたベッドの下から、例の物を取り出した。

「勝手に見つけちゃってごめんだけど!これ!」

例の物──金髪美女の無修正ドエロ本を愁二の鼻先に突き付けるように前面に押し出して、俺は一気に捲し立てる。

「うわぁ〜悲し〜。俺一筋とか言っときながら、やっぱ女のがいいんだ〜、しかもこんな外国で金髪の〜俺とは完全真逆の〜」

正直全っ然悲しくもない上、棒芝居もいいとこだけど、芝居の出来はこの際どうでもいい!
俺はこれをきっかけに愁二と別れる!
そう!俺は別れの機会をずっと探り!窺い!狙っていたのだ!

この愁二、何をとち狂ったのか、ある日突然俺の教室に入ってくるや否や好きだの愛してるだのほざいてきたのだ。接点はない。同じ学年というだけ。あと、プリンスがいるって位には愁二は有名だったから、名前と顔は一応知ってたが、まさか、こうなろうとは夢にも思わなかった。だからその時の返事が「はぁ」の一言だったのだが、俺的には疑問系で答えたはずが、こいつには肯定的な返事ととられたようで、そこから始まる悪夢であった。現実だけど。
告白現場を目の当たりにしたクラスメイトや騒ぎを聞き付けた親衛隊に「え?断んの?プリンスの告白を?平民が?マジで?身の程を知れよ」と言わんばかりの視線が四方八方から突き刺さる俺の身は、ついにガクリとこうべを垂らしたのであった。

付き合い始めると、こいつの執着は半端ない。
一緒に歩くときは何処であろうと手を繋ぎたがるし、一緒にいない時は所在地、用件、帰宅時間を尋ねるメールがじゃんじゃんくる。これが相思相愛ラブラブカップルならまだいいだろう。だがしかし。俺は違う。違うからストレス溜めまくりだ。

これは早くに手を打たねば身が持たん。貞操の意味も含めて、早くに手を打たねば身が持たん!
そこに湧いて出たドエロ本。今の俺にとっては聖書や読経本より神々しいドエロ本。
愁二、お前も男だ、理解はあるぜ。けれど今、お前と付き合っている以上、俺はこれを盾に俺という恋人がありながら、浮気だ不潔だなんだと喚いて、俺は今日、愁二と別れる!

「これ、兄さんのだ」

しかし現実は容易くなかった。

「・・・へ?」
「兄さんの」

愁二は再び言った。
顎に手を添えて、うんうん頷いて一人納得している。

「う、うそだ!言い訳すんなよ!」
「うそじゃないし、言い訳でもないけど」

眉を下げて、愁二は笑った。

「兄さんの部屋、汚いからしょっちゅう母さんからガサ入れはいるんだよね。俺はほら、こういう部屋だから、全然。だから兄さんの避難場所になってんの」
「・・・ハァ」
「なんなら兄さんの部屋見る?探せば似たようなの出てくるよ」
「・・・イヤ、サスガニ、ソレハ・・・」
「まぁ、始に誤解されたままも嫌だから、ちょっと待ってて」

そう言うと愁二は部屋を出て、隣だろうか、やたらガサゴソと音を立ててから雑誌を数冊片手に颯爽と戻ってきた。

「ほら」
と言って並べられたアダルト本、どれも俺が見つけたやつと同じところ発刊の、金髪美女の無修正・・・お兄さんの趣味が丸わかりだ。

「この前まとめて回収していってたけど、忘れていっちゃってたのかな」

腕を組んで、ふむ、と愁二が考えている。

「ま、そんなことより」

ギクーリ。
雑誌の前でいつの間にか縮こまり正座していた俺の体がビクついた。チラリと愁二を伺えば、それはそれは綺麗な笑みを。

「あぁ、始がヤキモチ妬いてくれて嬉しいなぁ。正直、始には強引なところあったから、嫌われてるかなぁとは思ってたんだけど、まさか、ねぇ?逆だっただなんて。あ、もちろん僕は一切見てないからね、安心してね?こんな露出狂の商売女より始の方がずっと魅了的だから」

酷い言いぐさとは裏腹に、お前はどこの国の王子だと言いたい程スムーズに、掬われた指先にキスされて抱き締められた。
鳥肌たちすぎて羽生えそう。

「でも嬉しい誤算だったとは言え、一歩間違えたら始に軽蔑されて嫌われるところだったんだから、兄さんにはちゃあんと、言っておかないとねぇ」

低く笑うように耳元で囁いた愁二に、背筋がヒヤリと凍る。
勝手に秘密を暴いてしまったお兄さんの安否も心配ではあるが、今の俺はお泊まり回避の言い訳を考えるのに必死で仕方がなかった。



おわり


小話 20:2016/12/13

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