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──今なにしてる?
この文面にゾッとして、飽き飽きして、苛立って、何となく自分は恋人と時間を共有するのに向いてないんだなと思い始めた。
それに気づくと、そういえば歴代の彼女達と一緒にいる時や声をかけられた時、めんどくさいなと思うことはよくあった。友達といる時は邪魔をしないで欲しいし、ゲームをしている時は静かにしていて欲しいし、約束をしてない日に急に接触しようとメッセージを飛ばしてきた日には、それを既読スルーしたりもした。会ってない時に自分が誰とどこで何をしていたか把握しようとする束縛根性も嫌だ。好きなら相手の全てを知りたいと言われたこともあるが、とんでもない。ストーカーかよ。プライバシーの侵害だろうが。一人の時間くらい好きに過ごさせろよ。と言う気持ちが今思えば口にも態度にも出ていたようで、彼女達との別れは早かった。

「これ以上の被害者を出さない為に、お前もう誰とも付き合うなよ」

ははっと軽く笑う青ちゃんが、俺の部屋のソファーで寝そべりながら、スマホを弄くっている。ついでに枕にしているのが俺の太股だってことはもう気にならないらしい。

「うん。俺、付き合うの向いてないって解った」
「俺はずっと前から気付いてたけどね」
「そーなの?」

俺は長年のモヤモヤについさっき気付いたばかりだと言うのに。さすが幼馴染み。親より俺を理解していると感心してしまう。
青ちゃんの目にかかる前髪を横に流してあげると、くすぐったそうに少し笑ったけど何も言わない。俺も、青ちゃんに膝枕を提供してても何も言わない。

「中学ん時にリュウ、背が伸び始めたじゃん?そっからモテるようになったけど、目がいつの時代もウザ〜って言ってたよ」
「だって、小学生の時は邪魔が入らないで青ちゃんといつも遊べてたのにさ」
「いや、お前常に俺と遊んでるよ」
「そう?」

そうだっけ、と過去を思い漁るけど、いつも青ちゃんと一緒だからどれがいつの思い出かももうよく解らない。今まで食べてきたご飯の内容を覚えてるかって質問と同じくらい、解らない。

「青ちゃんと一緒にいるのが一番楽だし落ち着くし、楽しいんだもん」
「別にもう、一緒にゲームもすること無いのにな」
「ほんとにねぇ」

昔は一緒に外で遊んだり、ゲームをしたり、街ブラしたりもしたけど、二人でやることに飽きてくると、各々の楽しみに没頭することが多くなる。ただ、その時間を共有するのは変わらない。むしろ青ちゃんが側にいるのが当たり前だし、いないとスカスカした感じがして、寂しくて、寒い気がする。彼女達とは正反対だ。

「一応、ちょっとは好きではいたんだけどね」
「あ?」
「彼女のこと」
「そりゃ好きじゃなきゃ付き合わんだろ」
「でも、会うのはしんどかったな。会うのも、喋るのも、連絡するのも」
「じゃ、最初から好きじゃなかったんだろ」

青ちゃんに言われると、それが正解だと言わんばかりにストンと言葉が胸に落ちる。確かに、告白されたから、好きじゃなかったけど、断ったらかわいそうかなって。それに一応男だし、経験として、付き合おうかなと思ったっていうのは、ある。

「あ、俺、やっぱりすごい嫌な奴だ」
「大丈夫、それがお前だ」
「誉めてる?」
「誉めてはねぇよ」

笑う青ちゃん。
今日はずっとご機嫌そうだなぁって、ズボンの上から膝小僧を擽ると、昔からここが弱い青ちゃんは、ぶはっと勢いよく笑った。

「一緒にいる時、彼女優先してやれよって言わなくてごめんなぁ」

薄い腹筋を使って起き上がった青ちゃんが、にんまりと笑った。ごめんなって言ってるのに、嬉しそうで、楽しそうで、その顔に、やっぱり俺は納得するしかない。

「なーんだ」

俺には端から青ちゃんしかいないって、青ちゃんはずっと気付いていたんだね。



おわり



ツイッターに載せてたのを改編。

小話 174:2022/12/25

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