16



「言うつもりなかったんだけど、ずっと前から好きだったんだ。秋彦のこと」

知ってた。超知ってた。
だって俺と理想の恋愛論を話してたら
「秋彦が恋人だと幸せそうだな」
って言うし、髪切るにしても服選ぶにしても
「秋彦の好みな感じにしたい」
って言うし、更には去年のクリスマス
「イルミネーションが綺麗なとこ行ってみね?」
なんてお誘いかけてくるし。

けれどこの男、宮間は見た目も性格もチャラついてはいるが、恋人候補なんてたくさんいるし、どんな髪型も服装も自分のものに出来る容姿も兼ね備えているし、イルミネーションなんて見に行ったそばから逆ナン間違いなしだというのに、何でわざわざ・・・っ!

そしてその度に俺は
「でも実際、理想と現実は違うよな」
「自己主張は大事だと思うぞ」
「リア充見に行くの辛いからなぁ」
って、ことごとく回避してきたのに!のにだ!

「なぁ、俺との事、考えといてくんない?」

そう言って踵を返し、大学構内へと奴は姿を消していった。
おい!言い逃げかよ!フリーズした俺を見たら返事は聞かずともわかるだろう!

思考が働き出したところで、急いで奴こと宮間が消えてった方へずかずかと向かった。
返事を長引かせるとダメだ。期待を持たせてしまうから──って、姉ちゃんの少女漫画に書いてあったから。ちくしょうちくしょう、人生初の告白がこれかい。

一歩、構内に足を踏み入れて、さぁどこ行ったと辺りを伺った俺は止まってしまった。
宮間が構内入ってすぐの壁際に座り込み、つまりは俺の足元で、赤い顔して泣いた目で、俺を見上げていたからだ。
俺もビックリしたけど、宮間もまさか俺がすぐ来るとは思わなかったようで、心底驚いた顔をしていた。顔から少し離した両手が濡れている。

「宮間・・・あの・・・」

いざ断ろうと意気込んでいたが、まさか泣いてるとは思いもしなかった。
慰める?詫びる?ちゃんと振る?
どうしたらという状況に、言葉が詰まってしまった。

「わりぃ、足、すくんじゃって」

先に口を開いたのは宮間の方だった。
鼻を啜って苦笑しながら襟足をかく。そこまで伸びてる髪を弄るのは、色々考えてるときの宮間の癖だ。
あぁ俺、追い詰めちゃったのかって、ちゃんと思いを告白してくれた宮間に胸を打たれた。そりゃそうだよな、男同士でガチ告白するってなかなかの勇気だ。

「大丈夫、考えといてって言ったけど、返事わかってるから。・・・変なこと言って悪かった」

ついには俯いてしまった宮間の正面にしゃがみ込んで、二人して小さくなって、互いの靴先を見つめる状況。

「好きってのは、変なことじゃないから、謝らなくていいよ」
「・・・うん」
「俺、宮間のこと、普通に友達だと思ってたから」
「・・・うん」
「付き合うって言われても、よくわかんないけど」
「・・・ん」
「それでもいいなら、よろしく」

しばらくの沈黙のあと、宮間は赤い顔をして大きく見開いた目からポロリと涙を一筋こぼした。




「秋彦!」
「トモ」

宮間の願いにより、宮間呼びからトモ呼びになった。ちなみに宮間の名前は智則だ。
今日はまだ友達だった頃に約束していた映画を観に行くという日で、トモ曰く「初デート」らしい。
まだ予告ばかり流れているので場内は少しざわついて、電灯は微妙に明るくついている。

「秋彦、こういうの好きそう」
「うん、おもしろそう」
「じゃあ、これもまた観に来ようね。春に公開かぁ」

シアターの大画面をニコニコしながら見つめてる宮間、じゃなかった、トモに、そんなに楽しみか?と内心疑問に思いながら、もしかして俺と行くから?という考えに辿り着いて顔が赤くなった。

「秋彦、映画良かった?」
「うん、良かった」
「ふふっ」
「トモは?面白かった?」
「うん」

映画は面白かった。最近原作を下手に弄ってコケるものが大半だけど、監督と原作者が話し合ってお互い納得いくまで煮詰めていったとの売りは多いに当たりだ。

「昼なに食べよっかー?何がいい?」
「あーそんな時間か」

朝イチの回を見たので、時刻は十二時少し前。
トモが映画館が併設されてるモールの案内板を指さして聞いてくる。

「うーん、何でもいいけど」
トモは?と聞こうとしたら、先に腕をひかれた。

「じゃあ、ここ、この間パスタ食べたとこにする?秋彦、他の種類のピザも食べてみたいって言ったろ。前とは違うピザはんぶんこしよ」
「トモは?何か食べたいの──」
「俺はなんでもいいから」

時間が時間だから急ごうと、腕をそのままに先を歩くトモは映画館で見たようにニコニコしていた。
イタリアンレストランで通された席では当然のようにソファー側に促され、俺の分も普通に注文してくれて、すごいスムーズにエスコートされてることに気恥ずかしさが沸いてくる。

「そうそう、秋彦さ、古代文明好きじゃん。博物館で今やってる展示のやつ、今度はそれ観に行こうよ」
「え、でもトモ興味ないだろ?つまんないよ」
「いいじゃん。秋彦が好きなら、俺も観てみたい」
「俺、そういうのじっくり観るタイプだから、時間かかるよ?」
「いーよー。せっかくなんだから、じっくり観なきゃ勿体ないっしょ」

運ばれたピザをきれいに小皿に分けて、俺の手元に置いてくれる。
パスタを巻く手を止めて見上げると、ニッコリと微笑み返されてまた意味もなくパスタを巻いた。

それから幾つか店を冷やかして、たまにイケメン店員にトモが親しげに声をかけられてるのを見て、類は友を呼ぶっていうか、こいつやっぱりカッコいいんだなと改めて思ったりもした。勧められてた服をそれとなく断ってるトモは、俺の視線に気付くと慌てて「ごめん」と謝った。
いや別に、謝ることは何もないけど「つまんなかったっしょ、ごめんね」と顔を覗き込むように言ったトモに、俺は今日の“デート”に結論が出た。

駅に向かう帰りの道すがら、俺はトモを公園のベンチへと引き止めた。
不思議そうにしていたけど、「まだ一緒にいてくれるんだ」と照れ笑いするトモと並んで座る。
・・・一緒にいてくれる、ね。ふーん。

「トモさ、俺に気ぃ使ってるね?」

なんの前置きもなしにそれを言えば、トモが首をかしげて襟足をかいた。

「・・・そんなこと無いけど・・・」
「あるよ。映画も飯も、博物館も、俺の意見ばっかじゃん」

うーん?と口を曲げて視線を落とすトモは考えてはいるものの、不満が顔にもろに出ている。

「・・・俺は秋彦のこと好きだからそうしたいんだけど、それってダメなわけ?」
「ダメ」

断言すると、トモが息をのむのが聞こえた。
そうして俺は、今日の結論をトモに告げる。

「俺だってトモの喜ぶことしたい」

トモの襟足をいじる指が止まった。

「今日一緒いて改めて思ったけど、トモ、俺が喜んだり楽しんだりしてんのみて嬉しそうだったから、これでいいのかなって。そりゃトモがいいって言うならいいかもしれないけどさ、俺は嫌だよ。だって俺ら付き合ってんだろ?それならお互い平等じゃないとダメだ。だから次はトモが行きたいとことかじゃないと、デートしない。二人が楽しいことしたい」

一息に伝えて、そこでようやくトモの表情を伺って、ぎょっとした。トモははらはらと涙を溢していた。

「え、ちょ、どうした」
「なにそれ、秋彦、俺のこと超好きじゃん・・・う、嬉し・・・」

耳まで赤くして、泣き顔を両手で隠すトモに開いた口が塞がらない。つられてこっちまで顔が赤くなっているのが発熱みたいでよく解る。

「な、なんでそうなる!」
「だって今言ったことって、そういうことじゃん。秋彦、俺と真剣に付き合ってくれてる・・・」

そう言われれると、そうなのかもと返事につかえてしまった。

「つ、付き合ってくれてるとか言うな。ちゃんと付き合ってるよ、俺達」
「・・・うん」
「とにかく、次のデートはトモの行きたいとこ。博物館はその次。わかった?」
「わかった」
「・・・ん。よし」

自分より骨格がしっかりした手で顔を覆う男に、告白された日と同じく胸が苦しくなる思いがするあたり、俺はもうこいつに惚れているんだろうなと認めざるを得ない。

「今年のクリスマス、一緒にイルミネーション見に行こうな」

ピアスが光る耳元にそう囁けば、服の袖でぐいぐいと目をこすって顔を上げたトモは泣き止んではいたものの、少し目尻を赤くしたまま、それはそれはきれいに微笑んだ。

「ほら、やっぱり秋彦と付き合うと幸せだ」



おわり

小話 16:2016/11/28

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