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※第三者・女子視点です。








あからさまじゃないのに「ソレ」に気付いたのは、私が三木君を見ていたからだ。
先に言うけど見ていたのは決して恋心を抱いていたからじゃない。彼の顔が良いからっていう理由。顔が良いというのはありがたい。目の保養、心の潤い、日々のときめき、尊さに感謝、合掌。・・・なんて私の心情はどうでもよくて、この際私のことは気にせずモブ子とでも呼んでほしい。話をイケメン改め三木君に戻そう。私が彼の何に気付いたかって、彼こそが抱く恋心にだ。

(・・・また見てる)

くじ引きで三木君の隣と言う神席をゲットした私は、ここぞとばかりにこっそり彼を盗み見みた。
頬杖をついて外を見ている素振りだけれど、私は知っている。その視線の先には窓際の席でうたた寝をしているクラスメイトの武田君がいて、その武田君に、 三木君が惚れているということを。
三木君をよく見ている私が彼の視線を辿ると大概武田君に行き着くのだから間違いない。
しかも、

(ひぃっ。笑った)

彼を見ている三木君は、いつも目を細め口元だけで優しく笑う。これがまた、憂いを帯びて、儚げで、まぁ〜〜〜かっこいい。
しかし私は三木君が武田君と話しているところを見たことがない。クラスメイトだけど、親しい友達ではない、みたいな感じだと思う。それでも、三木君は隙あらば熱心に武田君を見つめているのだから、私もひっそりと(三木君の顔面を拝みながら)応援したくなるものだ。
別に三木君が男子を好きだって、私は特に思うところはない。女子を好きだったとしてもだ。好きな人を自由に好きになればいいじゃないか精神だし、その好きな人が存在しているおかげで、私は恋に焦がれるイケメンを今日も愛でることが出来るのだから。
なんて思いを馳せてると、今日はつい、長くあからさまに見すぎたみたいで三木君が不意にこっちを振り返った。きゃ、目があっちゃった☆なんて思う間もなく、三木君は整った顔をおもいきり歪めて言い放つ。

「何見てんの。キモ」

・・・これだ。
私が三木君がいかにイケメンだろうと絶対に惚れない一番の理由は、この口の悪さだ。しかし口の悪さをカバー出来るほどの圧倒的顔面の良さ。歪めた顔も迫力あってカッコいいじゃないか。
ぐぬぬ、と私はキモいと言われたことには忍び耐え(事実だろうから)、不躾に見ていたことは確かに失礼だからと素直に謝る。

「ごめんね、何でもないです」

言うと、三木君は不審者(あながち間違いじゃないかもしれないけど)を見る目で私を一瞥し、そしてもう興味をなくしたようでスマホを弄り出してしまった。
今日はもう大人しくしていよう。
身を縮ませた私は次の授業の用意をしながら、チラリと武田君をみた。相変わらず微動だにせず眠りこけている。彼の何を見て三木君は笑ったのだろうか。恋とは不思議なものである。







「ねえ、これ三木に渡しといてくれない?」

理科室の帰り道、後ろから声をかけてきたのは武田君だった。
振り向いて渡されたのは、一冊の教科書。今まで受けていた授業の教科書に記述された学年、クラス、名前は確かに三木君の物で、忘れ物であろうそれと、それを持ってきた武田君に対して私は目が丸くなってしまった。

「さっきの教室に忘れてたからさ」
「え、なぜ、わたしが」
「席隣じゃん?俺、昼休みはこのまま野球部に顔出すから、お願いしていい?」
「あ、それなら、はい」
「よかった。よろしく」

じゃ、と武田君が爽やかに去っていく。憧れの人の憧れの人に話しかけられて、同い年のクラスメイトだってのにポンコツみたいな返事しか出来なかったのが恥ずかしい。
教科書、武田君が渡してあげた方が三木君喜んだだろうなぁ。そんな三木君をガン見したかったなぁとテクテク教室に向かい、幸か不幸かいきなり三木君に忘れ物を渡すというイベントに苛まれた私は、軽く身嗜みを整えて、無駄に発声練習をしてから笑顔を作り、教室内に足を踏み入れた。口の悪いイケメンと言えど、たかがクラスメイトに話しかけるだけでこの入念な準備である。

「三木君。これ、忘れ物」

既に昼食のパンを噛りながらスマホを弄っていた三木君は、不審にじろじろ見ていた前科持ちの私を警戒しているらしく、差し出した教科書と私を見比べてから恐る恐る引き取った。

「・・・あ、ほんとだ」

そして自分の名前を確認して、机にしまった。
いや、ありがとう無いんか〜い。ってか疑っとったんか〜い。
あんまりな態度に作った笑みが引き攣ったけど、まぁ忘れ物見つけたの私じゃないしねと内心舌を出し、席に着きながら私のいうことを聞くか解らないけど、サラリと呟いてみた。

「それねぇ、気付いたの武田君だよ」

鞄からお弁当を出した私の隣で、ガタッ、と三木君は椅子から半分落ちる程、面白いくらいの反応を示していた。そんな予想以上の彼の姿と、私の発言に両者ともビックリし過ぎてしばし見つめあってしまった。

「え、な、なに?」
「え、た、武田?」
「え、あ、うん、そう、武田君が、忘れ物見つけたみたいで。・・・昼休みは部室に直行するから、席が隣の私に渡してもらえないかって頼まれたんすよね」
「へ、へー・・・」

目が泳ぎだした彼の白目まで綺麗だなとか、ついまたジックリ見てしまった私に三木君は今度は悪態をつかずにモゴモゴと口を動かした。

「つか、お前さぁ」
「はい」
「武田と何話す?」

武田と、何話す?
なんだその質問はと、今度は私が三木君を不審げに見た。私だって、あんまり武田君とは話さない。クラスメイトだから、必要にかられた時だけだ。それこそさっきみたいな。

「特に話さないけど・・・?」
「いや、こないだの外体育の時」
「え?」

体育の時とは?何か話しただろうかと必死に記憶を辿ると、脳内の電球にピコンと明かりが点いた。

「あ〜。あれはただそろそろ陽射しがきついから日焼け嫌だな〜って話してただけだし。いや、武田君野球部だから既に日焼けすごいじゃん〜って雑談を」
「ふーん」

もちろん二人きりで話したわけじゃない。待機時間に数人のクラスメイトと混ざり合って雑談していただけだ。まさか私と武田君の仲を誤解されてるんじゃと心底慌てたけど、三木君は自分の白い腕をさすっただけで、空返事をしただけだった。
・・・まさかこの人、その新たなエピソードを知っただけで満足してるんじゃ・・・。
やだ!不憫!!話し掛けず見つめるだけの三木君は、他人(自分のこと他人って言うのもむなしいけど)が武田君と何を話していたか聞くだけで満足しちゃうと言う事実。
私は心の中で流した涙をそっと拭った。

「武田君のこと、ほんと好きだねぇ」

昼休みのざわついた教室内で、私のしみじみとした発言を拾えるのは隣の席の三木君本人だけだろう。
手をつけたお弁当の卵焼きをゆっくり味わう。お母さんは最近だし巻きがブームのようだ。──なんて私が食欲を満たしていると、ポカンとしていた三木君が遅れて、爆発した。

「はっ、はあぁぁっ!?」
「わっ!ビックリした!」
「んなわけねぇだろ馬鹿かよお前っ!!」
「むっ!」

馬鹿ぁ?
カッチーンと私のこめかみに小さな怒りマークが張り付いた。そりゃ同じクラスだし話したことも無い仲ではないし、なんなら隙あらばご尊顔を拝もうとチャンスを窺ってる不審者ではあるけども、そんな特別親しくもない相手に馬鹿とは。あとついでに私の事さっきからお前って呼んでるし。
急に大きな声を出した私達に、クラスからの視線がチラホラと集まってしまった。こほん、と咳払いをして、私は意地悪く声を潜めてぼやき返した。

「だって三木君、よく見てるじゃん」
「見てねーし!ってか見てんじゃねーし!!」
「そんなムキにならなくても」
「なってねーし!!」

再びこっちに視線が集まった。
今度は三木君が、んんっ、と喉を整えてからトーンを落として話し出す。

「お・ま・えっ!マジでなんなの、脅してんの?」
「あ。私はただの黒子ですので、ご心配なく」
「はあ〜?!」

いつもとは逆で、三木君からの遠慮ない警戒心を込めた視線を浴び、小言の応酬を繰り返すランチタイムは最高に落ち着かなかったけど、予鈴近くに教室に武田君が戻ってきた事で事態はまた動き出した。
三木君がご自慢であろう長い脚で、お弁当を片付ける私の椅子をガンと蹴ってきたのだ。私は遠慮なく睨み付ける。こいつ、口だけでなく足グセも悪いのか。

「なんすか」
「なあ、武田に教科書ありがとうって言ってきて」
「なんでよ、自分で言いなよ」
「いいじゃんかあ!」
「急な駄々っ子!」

わしゃアンタのお母さんか!
ああっ、でも私に追いすがるイケメンなんて今後一生拝めない!イケメンからのおねだりもっと欲しい!くっそキュンキュンするわ!

(・・・人の恋路にいらんことするもんじゃないな)

そこそこ知っていたつもりでいたけど、三木君は中々に面倒くさい。イケメンはやっぱり観賞するだけに留めておくべきだった。
仕方がないので私は席を立つ。三木君の懇願顔はなかなかに良かったので、報酬前払いとでも思えばいいだろう。私はゴミ箱にゴミを捨てるふりをして、自分の席に戻る途中、あくまでさりげなく、世間話でもするような、そんな芝居を打ちながら、私は武田君の席に寄り道をした。

「武田君、三木君に教科書ちゃんと渡したよ。ありがとうって感謝してたよ」
「あ、うん」

私の棒演技を気に掛けることもなく、武田君が三木君の方に振り返った。私も続けてそっちを見たら、あの野郎、わざとらしくそっぽを向いてやがった。いつもこっち(武田君)みてんじゃんかよ。今ならバッチリ目が合うのに、な〜にを気取ってんだあの野郎、横顔かっこいいなちくしょうめ。
私が唇を噛みながらフェイスラインに釘付けになっていると、武田君が不意に振り返って照れくさそうに頬を掻いた。

「あのさぁ」
「あ、はい」
「もしかして、三木と仲良いの?」
「・・・はい?」
「や、なんかさっき三木と仲良さげだったし、三木って普段どんな話しすんのかなーとか、ちょっと、興味本位って言うか・・・」

そう話す武田君の目が、普段武田君を見ている三木君の優しい眼差しとダブって見えて私は絶句した。

「あ、教科書どういたしましたって伝えといてもらえる?なんか三木って雰囲気あるから話しづらくて・・・って、え、なに?どうしたの?」


いや、お前もか〜〜い。

私が白目を向いた理由なんて、武田君が知るよしもなかった。



おわり



BLサンド。


小話 155:2021/07/25

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