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※「10」「12」の千葉君と瀬名君のその後の日常。





「千葉は勘違いしてるけど」
「ん?」

小さな台所でフライパンを揺する俺の隣で、瀬名が睨みをきかせてきた。
一瞬だけ、そんな瀬名の顔を見て、目線はすぐに手元に戻す。

「なに?」

具材に火が通ったら、ケチャップ、ソース、砂糖やらをあらかじめ混ぜていた液体を流し入れて少し煮詰め始める。

「え、味付けってケチャップだけじゃないの・・・」
「なんか色々、適当」

何かに怒ってたみたいな瀬名は、俺の行程に毒気を抜かれたように目を丸くしてきた。
一旦調理過程に間が出来ると、その間に使った器具を手早く洗う。瀬名は「出来る奴はすぐ適当とか目分量って言うんだよ」「それが解んないんだよ」と再びぶつくさ言いながら、テレビ前に引っ込んでった。
何をしに来て、何がしたかったのか。

二人揃った休日、昼飯は瀬名のリクエストでナポリタンスパゲティ。何が食べたい?って聞くと「スパゲティ」って返された。パスタじゃなくてスパゲティって言うあたり、瀬名っぽい。
高卒の俺の仕事とバイトを入れてる瀬名の給料じゃあんまり贅沢できないし、この前でかいベッドを購入したからなるべく質素に、それでも貧しくならないように、使う食材は冷蔵庫の残り野菜ときのこと魚肉ソーセージでボリュームを出す。
ソースで煮詰めた具材に茹でたパスタを絡めて完成。サラダもスープもないけど、俺も瀬名も気にしない。

鍋とフライパンを水につけて、皿に盛ったスパゲティにフォークを差し込んでをテーブルに持ってくと、お茶とコップがすでに置かれていた。
揃ったところで手を合わせて「いただきます」を言えば、瀬名は食べてすぐにうまいと言ってくれた。

「で。俺は瀬名の何を勘違いしてるって?」

食も半ばまで進んだ辺りで冒頭の台詞を尋ねた。

「千葉って、俺が料理が苦手って思ってるだろ」
「えっ」

違うのか。

「俺はどっちかつーと、料理は好きな方」
「えっ」

それは確かに勘違いしていた。

「好きだけど、上手じゃないだけ」
「あぁ」
「あぁって言うなよ。納得すんな」

痛くない肩パンをされた。
いや、今納得したのは瀬名が料理上手じゃないってところじゃなくて、苦手なりに毎回行程が面倒なやつにチャレンジしたり、献立のレパートリーが増えてるよねって思ったからで、決して瀬名をバカにした訳じゃないと弁明しようとしたら、瀬名はソースの余りをフォークに集めて、

「千葉の為に愛情込めてこれでも一生懸命作ってるよ」

パクリと食べた。
一人でご馳走様でしたまで言っちゃって、反射的にお粗末様でしたって返してしまう──って、そうじゃない。
ああもう、えっと、どこから言えばいいのやら。

「それなら瀬名も俺のこと解ってないと思うけど」

瀬名の口元についてたソースを親指で拭いとり、そのまま舐めれば、瀬名は変態だなとまじまじと俺を見据えながら言った。

「変態ではないでしょ・・・」
「ん、で?俺は何を解ってない?」

軽く流されてちょっとショックだけど、我ながら瀬名は俺の扱いがうまいと思う。

「・・・俺は瀬名が作ってくれるなら、例え焦げてても生焼けでも嬉しいし、全部美味しいって思ってる、よ」
「千葉・・・」

瀬名が眉を下げて、俺の手をぎゅっと握った。

「いや、焦げも生焼けも体によくないから。その都度食べんの一旦やめろよ」

体壊したら居たたまれねぇよとわりかし心配そうな顔で言われてしまった。
あれ、今ってそういう雰囲気だったかな。でも瀬名が心配してくれるのは嬉しいから、まぁいっか。


食器を片付けて、ぐだぐだと話しながらテレビのチャンネルをいじるけど、日曜の昼間はこれと言って面白いものもない。
瀬名は電源を切ってリモコンをテーブルに置くと、ぐっと背伸びをした。

「夕方からスーパー行こう。タイムセールって四時だっけ?五時?」
「五時」
「んじゃ一回昼寝して、洗濯物とりこんで、それからだな」
「うん」
「寝よ。ベッド行くけど、千葉は?」
「・・・行く」

立ち上がった瀬名が俺に尋ねてきて、俺も立ち上がる。ベッドまですぐそこなのに手を繋げば不思議そうに顔と手を交互に見られたけど、瀬名は「うん」と頷いてから先を歩いた。

「あー、天気よくて腹一杯で昼寝できて幸せー」
「瀬名はよく、幸せって口にするね」
「なんか自分の中で留めとくはずが、口から溢れる」

ふあ、と欠伸をして、こてんと横になって瀬名が目を瞑ったので、携帯のアラームを四時にセットして、俺も目を閉じた。
窓から入る日差しも悪くはないが、安心できるのは瀬名の温もりの方だ。


時刻は四時半。近所のスーパーまで歩いて十五分。俺と瀬名は洗濯物を取り込んだあと、ゆっくりと歩きながら目的地まで向かっていた。

「夕飯何がいいかなぁー」
「瀬名は何食べたい?」
「千葉が食べたいの食べたい」
「うわ」

瀬名の切り返しに言葉につまった。瀬名がにやにやしている。
えーっと、昼に麺食べたから米のがいいだろ。煮物系だと時間かかるから、簡単に出来る炒め物だろ。ナポリタンでケチャップもソースも使ったし、味薄めのがいいよな。あ、でもスーパー行って何が安いか一回見てから決めた方が・・・はぁ、俺一人だとカップ麺でも全然問題ないけど、瀬名にはちゃんとしたご飯食べてもらいたいし・・・難しいなぁ。
ってのが顔に出たのか、瀬名がついに噴いて笑った。

「じゃあ肉か魚なら、魚がいい」
「あ、うん。魚ね、いいね」

結局、いつでも安い子持ちのししゃもを焼いて、セールで買い足した葉物野菜や根菜を沢山いれた味噌汁に、奴豆腐と白いご飯。相変わらず豪華とは言い難いけど、腹は満たされる。
そして瀬名は今、俺がししゃもを焼く時にオーブンシートをフライパンにひいてから焼いてたことに対して「意味が解らない」とぼやいている。身が引っ付かなくて便利なんだよって教えたら教えたで「何でそんなこと知ってんの」と再びぼやいて首をかしげてる。

「だって瀬名、俺はほら、一人暮らししてたから」
「うーん」
「あの、えっと、徐々に上手くなるから」
「徐々にか・・・先は長そうだ」
「楽しみにしとく」

そう言うと笑った瀬名に、
「先々までずっとよろしく」
と返された。

あぁ、そっか。
長い先までずっと一緒なんだから。

ふいに笑みがこぼれた。

(あ、ほんとだ)

昔は乾いて二度と満たされることはないと思っていたのに。

(確かに、幸せは溢れるようだ)



おわり



仲良く幸せにやってますよって話。この二人は一旦ここまで。

小話 15:2016/11/23

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