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「夏だよ!サマー!遊びに行こうよ!」

ビカッ!と晴れた夏休みど真ん中の真夏日。
シャッと開けた舟斗の部屋の遮光カーテンは、すぐさま舟斗によってシャッと閉められた。見上げた幼馴染みの舟斗は俺の発言にもの凄〜く嫌そうな顔をしただけで、それは答えを聞かずとも聞いたようなもんだ。

「え〜、めっちゃ顔が物語ってんじゃん」
「だってこの日光ヤバ過ぎでしょ。出歩いていい日射しじゃないよ。消滅する」
「吸血鬼かよ」

案の定の返答に突っ込むも、黒い遮光カーテンによるガードの固さと冷房で適度に冷えた舟斗の部屋は、彼の主張の強さを後押ししている。
しかし俺とて十代の夏を楽しみたい。暑いのは好きじゃないけど、夏なら許せる仕方がない。周りは夏期講習や部活やバイトで慌ただしいので、同じく暇なのはこの引きこもり幼馴染みの舟斗しかいないのだ。ボッチ行動なんて寂しい事はしたくないから熱心にお誘いをかけているのだが、舟斗は頑なに首を縦に振らない。

「無理。絶対無理。なにこの天気。紫外線ヤバイ。日焼けヤバイ。絶対外でないから」
「じゃあ室内は?映画とか、なんかブラブラ」
「家から出るのが嫌。汗かくのが嫌。髪乱れるしベタベタすんの気持ち悪い。てか彗、よくウチまで来れたね」
「隣なんすけどね」

お隣の舟斗の家まで歩いて十秒だ。それすら嫌がる少女漫画に出てきそうな容姿のわがまま王子・舟斗は、リクライニングチェアに腰掛けだるそうに真ん中分けの前髪を掻き上げた。
同じ男で散々見てきた舟斗の顔は、相変わらず美しくて見飽きることはない。顔だけじゃなくて、高身長に見合った適度に引き締め鍛え上げてる身体は世の女子のストライクど真ん中だろう。
そしてそれが、舟斗の絶賛引きこもりキャンペーン実施中(〆日未定)の由縁なのだ。肌荒れもない美肌、青白いってわけでもない美白、そんなお肌の持ち主である舟斗は、その容姿へのこだわりが人一倍強い。美容に悪いからと、夏は勿論(っていうか多分一年中)日焼け止めは欠かさず、体育の前なんて「女子かよ」と何度突っ込んだのかわかんない程、むしろ今では「今日ちゃんと塗った?」なんてこっちが気に掛けてしまう程入念塗り込んでいる。
泊まりに行った日の風呂上がりのパック姿やナントカクリームでマッサージしている姿にももう慣れた。それに顔だけじゃなくて、舟斗の部屋にはヨガマットや筋トレ、美容グッズが転がっているし、朝早く、もしくは日が落ちた時間帯に走り込んでいるのも知っている。
そうした努力と手間隙をかけて、もともと質が良かった舟斗は、自身の手によって日々磨かれて、今やキラキラ宝石級だ。

「外に出ないし誰にも会わないで、その美貌は何の為に築き上げたの」
「自分の為でしかないでしょ」
「女の子が放っておかないのに、もったいないな〜」
「大多数であろうと見ず知らずの人間の評価なんていらない。俺は俺のなりたい人間になるだけなの」

は〜やれやれ、と蔑んだ目で見てくる舟斗は本当にムカつくけど言ってることは最もだ。舟斗が美意識高いのも、その為にしている努力も、結果として身に付いているのだから、俺は口をつぐむしかない。そうして大人しくなった俺を畳み掛けるように、ビシッと指を向けてきた舟斗はさらに続ける。

「筋肉つけてんのも美容に気を付けてんのも勉強してんのも全部俺の努力、全部俺の為、全部俺の自己満足、文句ある?」
「文句はないけど、疲れない?」
「全然。むしろ全部身に付く感じが気持ちいい」
「超絶ストイック」

ナルシストもここまでくると尊敬の域だ。
思わずパチパチと拍手を送ると、ふふんと得意気になる舟斗は意外とチョロい。そう、チョロいのだ。それを知っているのは幼馴染みゆえ、とも言える。

「っていうか、外に映画行かなくてもネットでいいじゃん。なんかホラー特集とかやってなかった?」

来い来いと舟斗が手招きしながらタブレット端末を弄り出すので、俺は背筋を正しながら両手を振った。

「あ、いえ、結構です」
「何、彗まだホラー怖いの?」
「鮫にしよう。夏は鮫映画だよ」
「鮫とホラーは別物だよ。ホラーにしよう。ピエロがいいな」
「ピエロはお断りです!!」

バツを両手で作ってるのに、舟斗はそんな俺をケラケラ笑いながら床を蹴ってキャスターを利用しこっちに寄ってくる。持ってるタブレットの液晶には、ホラー一覧がズラリと並んでいて思わず目を背ける。鮫がダメならせめて蛇か怪獣、そう交渉しようとする前に、空いてる舟斗の手に引かれて膝の上に招かれる。さすが、身体に負担をかけない設計が売りのリクライニングチェア。二人分の体重も難なく受け止めやがる。

「さー、どれにしようかな〜」
「人の嫌がることすんなよな」
「何それ。慧が言えるやつ?」
「か〜っ!十分前の俺ぇ〜!」

舟斗の肩に頭をのせて仰け反るように嘆くと、また楽しそうな笑い声が耳に近いところで聞こえた。腹に回った手に、ぐっと力が入る。

「つーか、こんないい男を独占してるって自覚、もっと持ってくんない?他の女がどーのこーの言われて腹立つんすけど?」
「う・・・っ!」

あざとく、そして破壊力抜群に、キラキラしている舟斗が顔を覗き込んでくるから勘弁してほしい。幼馴染み兼彼氏の舟斗は、腕力や言葉だけじゃなく美貌をも武器にする──そして俺はそれに本当に弱いので、本当に勘弁してほしい。

「でも外、行きたい・・・」
「秋になったらね。慧も熱中症なりたくないでしょ?」
「・・・くっついてると汗かくじゃんか」
「んじゃ冷房もっと下げようか」
「こらこらこら!」

地球にも身体にも悪い発言をする舟斗の手から、エアコンのリモコンを死守する。もちろん本気じゃないし、もっとくっつくだけの口実だとは解っている。

「俺は彗に好かれてたら、それでいーの」

最初の不機嫌もどこかへ飛んでったみたいで、俺の髪にスベスベの頬を擦り付けてくる。

こうして俺の夏は、この暗く冷たい部屋でお熱く過ごすなんて事は、考えるまでもないのであった。



おわり



暑いし日に焼けたくないし外に出たくない。

小話 145:2020/08/01

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