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生徒会執行部や一部の人気ある一般生徒には親衛隊なるものがあるらしい。
男子校に入学した俺と希一は変なものがあるものだと笑っていたが、俺が首席で合格し新入生代表として全校生徒の前で挨拶をした際、なぜか俺にファンが出来た。
それが俺の悪夢の始まりだった。



「また相葉んとこの隊長さんに文句言われたんだけど。相葉に近付くなって」
「す、すまない・・・」
「別に相葉が謝ることじゃないけど・・・きっと今こうして話してるのも見られてんだろうな。じゃ、ばいばい」

ばいばい、なんて言ったわりに、希一はすぐに視線を外して手を降ることなく背中を向けて去ってしまった。本当なら、毎日一緒に帰っていたのに。今すぐその腕をとって引き留めたいが、俺の接触は今の希一にとって迷惑でしかないのだ。

「希一・・・」

入学してからちらほら、好きだなんだと言い寄ってくる奴が増え、待ち伏せやプレゼントの押し付けで辟易していた時だ。
いきなり現れたヤツに親衛隊の許可をと言われ、もちろん却下しようとしたら「許可して頂けると規律を設けるので迷惑行為も取り締まります」と笑顔で言った。
迷惑行為で希一と過ごす時間を邪魔されていた俺は、それならと許可したのが間違いだった。


「希一、帰ろう」

ある日の放課後、希一を誘えばひどく驚いて、視線を落とされた。

「なんか、祐樹と一緒に帰るのやめろって言われたんだけど」
「言われたって、誰に」
「親衛隊の人。祐樹、親衛隊発足したんだな」

驚愕した。
誤解だとか希一は別だとか言っても、その日は俺と別に帰ってしまった。俺が希一と距離をとったと思ったのだろうか、親衛隊にひどく何か言われたのだろうか。
その日から希一は他とは違うと親衛隊に何度も訴えたが、俺が特別を作ると他のヤツからのやっかみで希一に危害が及ぶと言われればそれ以上強く出れなかった。
始めは登下校を拒否されて、休み時間や昼食時間の接触も拒まれて、一言挨拶をするだけで希一は周りを気にするようになった。
俺を相葉と他人行儀のように名字で呼ぶ希一。
以前のように、俺に祐樹と笑いかける希一がもういない。


「相葉様、顔色が優れませんね」

希一が去ったその場から、俺は動けなかった。
タイミングよく現れた親衛隊の隊長は、希一の言う通りどこからか俺達を見ていたのだろう。

「お前、また希一に余計なこと言ったのか」

俺が問えば、隣に並んできた近すぎるヤツが小さくアイツ、と舌打ちをついた。
しかしすぐに顔を作り、にこりと笑う。

「お言葉ですが、友人は選ぶべきです。あなたは選ぶべき立場にあるお方だ。彼はあなたに相応しくない、もっとあなたに似合う人物がいるというのが解るでしょう?」

それはまるで自分だと言わんばかりに、ヤツは頬を染めて俺を見上げる。その言動に、沸々とたぎっていた血が一気に冷えていくのが解った。
こんなヤツに振り回されて、俺は、希一と・・・。
見下すように視線を合わせると、ようやく俺の異変に気付いたのか、ヤツは上げていた口角を強張らせた。

「なあ、お前は何だ?親衛隊長?俺より偉いのか?希一より尊いのか?お前が一番の害じゃないのか?」

そろりと手を伸ばして、ネクタイの結び目を掴んだ。俺が詰めた距離と発言に赤くなったり青くなったりと滑稽な姿は笑えるが、今の俺はいたく非情になり得ていた。

「俺に特別を作るなと言ったな。そもそも希一がお前らと同レベルのラインに成り下がるなんて永遠に無いうえ、希一と同じ位置でモノを計るのがおこがましい考えだ」

希一だけが俺の感情を揺さぶり、希一だけが俺の関心を引く。他なんてあり得ない。

「もういい。選ぶべき立場なら、俺はお前を切り捨てる。親衛隊なんていらない。解散」

ネクタイから手を離せば、ヤツは何か言いたそうに口を動かしていたが、ついには声を発することなくその場に崩れ落ちた。

「俺から希一を離そうとしたこと、覚えておけよ」

言い過ぎたとか哀れとか、同情の余地なんて一切無い。
そう言えばヤツの名前すら、俺は覚えていなかった。



その足で希一の家に向かった。
インターホンを押すと希一の優しそうな母親が家にあげて、希一の部屋に通してくれた。ベッドの上でだらりと携帯を弄っていた希一は俺の姿に驚いてたけど、起き上がってベッドの上をぽんぽんと叩いた。隣に座って乱れてる髪を撫で付ける。その手を振り払われないことが泣けるほどに嬉しい事実に笑えてしまう。

「親衛隊、解散させたって?」
「もう広まってるのか」
「ツイッターがまわってきた」
「そうか」

自嘲気味に笑った俺に、うんと頷いた希一が真っ直ぐに俺を見つめてくるのが気恥ずかしくて、撫でていた手を頬へ滑らせて目尻をくすぐると、その手に猫のように顔を擦り付けて希一が笑った。

「今までごめん。ちゃんと話つけて希一を守るべきだった。これで希一との時間がまたいっぱい増えるな」
「ばーか。何言ってんだ」

くしゃっと笑う希一に堪らなくなって抱き締めた。ベッドが軋む音がする。
確かにバカだった。大バカだ。

「希一、俺と付き合おう?俺もう、希一だけの俺でいたい。希一も俺だけの希一がいい」
「お前は別として、俺を独占したいヤツなんていないだろ」
「じゃあ誰に遠慮することなく希一を俺のものにする」

背中と後頭部をぎゅうっと抱いてより密着すると、希一が「苦しい」とくぐもった声で笑った。でもごめん。離してやれそうになくて、希一の肩に顔を埋めた。

「・・・うん、じゃあ、祐樹も俺のだ」

背中に手を回してきた希一が俺の胸の中で小さく呟いた言葉に、がらにもなく目頭が熱くなって俺はさらに希一を強く抱き締めた。



おわり

小話 14:2016/11/17

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