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※「36」の続編




JKこわい。
饅頭こわい的なやつじゃなくて、リアルにこわい。

そう実感したのは、親戚も集まる正月の実家で、いとこの現役女子高生がごく普通に「彼氏とは仲良くやってるの?」と聞いてきたからだ。
ドキーンと心臓が跳ねた。
一応、家族達から離れた台所、飲み物を取りに来た俺のあとをついてきたらしく周りに人はいなかったけれど。ビビった。マジビビった。

「ちょっと、小百合っ」
「大丈夫、大丈夫。皆酔ってるし騒いでるから聞こえないよ」

けろりとして言うものだから、一人でわめく方がバカらしくなってくる。ここは大人としての威厳を保つ為──と言ってもふたつしか違わないが、落ち着き払って「仲は良いよ」と平然と言ってのけた。
小百合と出掛けていたのを偶然目撃されて浮気と勘違いをされてしまったが、それはそれで無事仲直り出来たし、しかも小百合のくれたアイテムのおかげでちょっといい雰囲気にもなったし・・・。まあそれは絶対に言わないけど。

「光君にさ、渡すものがあって」

そう言って、小百合がポケットの中からパッケージに入った何かを差し出してくるので受け取った。
チョコレート・リップ・クリーム。
一番始めに目についた文字を読む。パッケージも台紙も中のリップクリーム本体もチョコレート色で、本当にチョコレート押しなのが窺える。
・・・まさか、と過去の俺が今の俺へ警鐘を鳴らす。

「これねぇ、チョコレートの香りと味がするんだって。色は赤茶色かな。塗りすぎは変だから気を付けた方がいいみたいだけどね、口コミもいいんだよ」
「いや、ちょっと、あのねぇ」
「だって光君、こないだのグロスについて何も言わなかったから、楽しんだんだなーって思ったんだけど、違った?」
「っ!」

図星である。
唇ツヤツヤになるからキスする時に盛り上がるよ、と前回貰った仲直りのきっかけとなったアイテムのグロス。あれ以来使うことは無いんだけれど、ぶっちゃけイチャイチャ出来たアイテムだ。

「ねえ、光君」
「・・・はい」
「お正月が終わればバレンタインなんてあっという間だよ」

リップを持った俺の手を上からぎゅっと握って、小百合は冷蔵庫からリンゴジュースのペットボトルを取り出すと、その去り際にグッと立てた親指を向けてきた。グッドラックじゃねぇよ。人のこと楽しんでんじゃねぇよと言い返したかったが、俺は小百合からのそれをパーカーのポケットに突っ込んで、そそくさと家族の元に戻っていった。
「あんた何か取りに行ったんじゃなかったの?」
と母に聞かれてまた立ち上がったのを、小百合が懸命に笑いをこらえていた。




「まーた変なの貰ってきたのか」

手の中のリップに崇文が笑った。
もう小百合に妬くことはないが、色んな意味で「お前のいとこやべぇな」と言ったのは激しく同意しかない。

「JKは人の恋バナが楽しいんだよ・・・」
「彼氏と仲良くやればいいのになぁ」
「彼氏がいないから人の恋路に首を突っ込むんだよ・・・」
「やべぇな」

と崇文がまた笑う。
いとこが男と付き合ってるってのに驚きも拒絶もしなかったことには有りがたいが、前のめり過ぎて逆についていけないし、何だか心配になってくる。

「よっし。来い、光」

ポン、といい音を立ててキャップを外し、崇文がカムカムと手招きをする。
その顔は新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。

「やっぱり俺が塗るの?」
「お前が貰ったんだろ」
「でも二人でって意味だから、崇文が塗ってもいいじゃんか」
「俺は食べる専門だから」

食べるって!
思わず口を手で隠す。崇文は興味深そうにリップを繰り出し匂いを嗅いでいた。もう完全にやる気モードじゃないか。

「甘い匂いはするけど、チョコレート感はあんまりしないな」
「カカオ成分配合とは書いてるけど」
「へー?」

パッケージにはカカオ成分のほか、美容オイルや保湿成分なども記載されている。チョコレートと謳っているが、さすがリップクリーム。
崇文の隣で破かれた台紙を眺めていると、顎をくいっと持ち上げられた。

「な、塗っていい?」

嫌だけど、その嫌ってのは恥ずかしいのが嫌だってのが大半なので、俺も大概乗り気だよなぁとどこか他人事のように呆れてしまう。

「ん〜〜、よし、はい、どうぞ」
手と目をぎゅっとして、崇文の方へ身を乗り出す


「・・・お前さぁ、リップ云々より何が一番ヤバイかわかってんの?」
「ん?」

ぬるっとした感触が、唇を撫でていく。そして微かにふわっと香る甘い匂い。スルスルと伸びよく唇を一週したところで、俺は小百合からの助言を思い出した。

「あ、待って、これ塗りすぎない方がいいんだって」
「ふぅん?」

一仕事終えた崇文がマジマジと見てくる。色つきリップを塗ると言うのはやはり恥ずかしいのであまり見ないで欲しいところだが、崇文はお構いなしに顔を近づけてきた。

「あー、ちょっとチョコレートっぽい色、か?」
「赤茶色って」
「ああ、そんな感じ。・・・体感で匂いが変わるとかもないのか」
「そーなの?」
「いただきます」

台詞に脈絡がない。
唇に鼻を寄せてリップの匂いで嗅いだかと思えば、急に口を開いて唇を食べられた。

「ん、んむっ」
かぷっと唇を食む、舐める、吸う。
ぢゅっ、ぢゅるっ、と何だかいやらしい音がする。
途中何度か口が離れて、崇文の甘い吐息にくらくらしそうだ。チョコレートの匂いとは言えないけれど、このリップ独特の甘い匂い。
仕上げに口の端を舐められて、崇文が身を引いた。

「っ、はぁ」

唇を拭おうとした手を捕まれて、いつの間にか再びリップを片手にした崇文が、軽い酸欠に陥って、肩で息をする俺をギランギランの目で見ている。

「光」
「ふぁい・・・。はあ、チョコのあじ、したぁ?」

ゴクリと崇文の喉が鳴る。


「一回じゃわかんねえから、おかわり、いいよな」
「・・・あぃ」


リップクリームひとつに踊らされ、結局バレンタインも大盛り上がりだ。

JKやばいけど、俺らも大概バカだしやばいよなぁ。





おわり




バレンタインリクエスト「チョコレートリップでいちゃつく」でした。検索してみたら色んなチョコレートリップなるものがあって賢くなりました。色んなフレーバーでちゅっちゅさせたい。

小話 128:2020/02/15

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