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※「96」の続編



恋人になるというのは友達の延長線ではないというのを俺が改めて認識し、雪城は俺のことをもう少し見守り信頼していく。
というのが縒りを戻す際に話し合った条件だ。
お互いそれに納得したのを念押してから、俺はあの本革のキーホルダーがついた合鍵を雪城の前に差し出した。
その時の雪城の顔と言ったら。
まるでずっと欲していた長年の探し物をようやく見つけたような、疲れと安堵を織り混ぜた、おかしな笑みを浮かべていたので俺は不覚にもちょっとだけキュンとした。

ま、とにもかくにも俺達は元鞘というのに収まったのだった。




「え。俺との写真消したの?全部?」
「え。別れたから普通そうするじゃん?」
「え〜〜ちょっと冷たくない?傷付くな〜」
「逆に別れた奴の画像とかいつまで持ってんだって話なんですけどぉ??怖いわ〜」

二人でお互いのスマホのフォルダーを漁りながら、あーでもないこーでもないと軽口を叩きあう。主に雪城が勝手に自分のスマホで撮影をしていたので、その数は圧倒的に多いし、撮られた覚えのない写真もいくつかある──って。

「いやこれ盗撮じゃん!マジ怖い!」
「と、盗撮じゃなくて!日常の一部を形に残しただけじゃん!」
「洒落乙な言い方してんじゃねえよ」

ストロー咥えながら別の方向を向いていたり、肘をついてうたた寝してたり。そんな俺の写真をいつの間にか捉えずっと保存したままだったのか。ちょっと引くわ〜と思ったものの、これ移動販売のタピオカ買った時のじゃんとか、大学で雪城を待ってた時に寝落ちたやつじゃんとか、ちょいちょい覚えているのが恥ずかしい。

「・・・怒った?」

無言でスクロールしていく俺の機嫌を気にした雪城が、さっぱりした内容の俺のスマホをテーブルに置いてこっちを見てきた。眉が下がって情けない顔だ。

「嫌なら消すし」
「不細工なやつだけ消して。あとは、まぁいいや」
「じゃあ消すやつ無いけど?」

心の底から疑問そうに言う、この本物のイケメンの発言の方こそ逆に嫌味かよって普通なら腹が立つのだが、俺に対して本気でそう言うのだからこっ恥ずかしい。
俺は話題をそらすべく、視線を泳がせて捕まえたものに指を差した。

「そういや、あれ、どーすんだよ」





──遡ること二時間前。
先に俺んちに上がっていた雪城は、施錠の音に気付いたからかドアを開けるともう廊下まで出てきていた。

「お、おかえり」
そしてあからさまにホッとしている。
そりゃ帰ってくるよ、俺んちだし。

「ただいまぁ。外超さみぃ」
俺だって別に出ていけとか言わないし。
だからまた、鍵だって渡したんだし。

玄関に荷物を置いて靴を脱ぎながら、そういう態度にちょっと一言物申そうかと思っていると、その荷物を雪城が二度見した。お手本のような二度見だった。

「えっ!なっ、俺というものがありながら!」

おまけに背景に稲妻を従えて、衝撃を受けているのが丸分かりである。
その荷物、紙袋から溢れんばかりの包み紙の山──2月の目玉、バレンタインデーの贈り物である。

「・・・何考えてるか想像つくけど、これ全部おまえのだからな」

え?と途端に表情を変えた雪城を放っておいて、俺はさっさと手洗いうがいを済ましてリビングに向かう。暖房が暖かい。遅れてきた雪城が、何か言いたそうに俺の隣に大人しく座る。

「雪城が女の子達からバレンタインの全部断るし、大学にも来ないから、オトモダチの俺に押し付けてきたんだよ」
「だって俺は後期試験は無事パスしたから顔出す必要もないし、箕浦も断ってくれて良かったのに。知ってるだろ?」
「う・・・」

バレンタインは絶対に何も貰わない、受け取らない、応えない。
雪城が謎の三原則を唱えてきたのは2月に入ってすぐ、街もテレビも周りの雰囲気もバレンタイン色強めになってきた頃だった。
はじめはイケメンだからって貰える前提で何をほざいているのだと白い目を向けていたが、
「だって恋人いるし」
と言われては、「あぁ、そう」としか返せなかった。ちょっとだけ照れくさくなったのでこの話は終わり。だけどつまり、俺は雪城がバレンタインに何も受け取らないというのを知っていたわけだ。だがしかし。

「いや、あのハイエナの軍団は怖かった・・・。雪城、よく毎回あんなんに囲まれてもシレッとしてんな」
「〜〜なんかごめん。もう慣れだよね。扱い方に慣れてきたって感じ」
「飼育員かよ」

初めて雪城を見たときも、ハイエナもとい雪城に群がる女子達を上手に誘導していた姿から飼育員みたいだと笑ったのを覚えている。そこから雪城と仲良くなったわけだし。

「あれ、どうしようか」

あれ──バレンタインのプレゼントは、雪城が不要と言っていたのを知っていたが、女子達からの圧に屈してしまった手前、俺も罪悪感がある。モテる奴とは知っていたが、思ってた以上にモテる奴だと初めて知った。

「実家に持ってこうかな。姉さんと妹が毎年処理するし」
「え、雪城姉妹に挟まれてんだ。知らなかった」
「かなり気が強いよ〜。俺が女の子の扱い方慣れたのって、こっちの影響もあると思うな」

ははは、と乾いた笑いをする雪城が「ちなみに姉さん雑誌モデルだよ」と言ったから、俺の興味は俄然沸く。雪城の姉妹なら絶対美人だ。
だから見てみたいって言った俺の為に、雪城がスマホを渡してくれて、その中にいまだに残る俺の写真を見つけて話は元に戻る。


「あー、ごめんごめん。明日持ってく。今日は泊まってっていい、よね?」
「普段聞かないくせして」

ありがとう、とベタッと引っ付いてくる雪城に、以前ならウザいって思っていたところだけど、今は少しだけ「悪くない」と思っている俺がいる。意識の改革のせいだろうか。きちんと「雪城と付き合ってる」と再確認すれば、逆に恥ずかしさだって沸いてくる。

「俺の部屋さ、もうほぼ姉さんと妹の服とか物置き場になってんだよね」
「悲惨だな」
「俺もそろそろ家出ようかなぁ」

雪城はいまだ実家住まいだ。
大学へ通うには申し分ない距離というのもあるが、実は生活面がちょっと不安なんだと薄情したわりに、俺の部屋で生活するにはそこそこ家事もしてくれる。必要にかられたら出来るタイプなのだろう。

「いーんじゃね?何事も勉強ですよ」
「・・・そこは“このまま俺んちに住む?”とか言うとこじゃん」
「やだよ」

何かを夢見た発言を一蹴すると、雪城はガックリと項垂れた。
改めて室内を見渡すけれど、やはり一人暮らしの学生向けアパートはこじんまりとした必要最低限のコンパクトサイズだ。

「ここ二人だと狭いんだよ。どうせならもうちょい広いとこがいいじゃんか」

出来れば湯船に足を伸ばせてゆったりと入れるくらいがいい。
なあ?と雪城に聞けば、項垂れたポーズのまま、頭を抱えていた。

「・・・なんか、突然チョコレートよりスゴいものを頂いた気がするんですけど」
「・・・」

さりげに「チョコレート貰ってないこと気にしてます」アピールを挟んでくる鬱陶しさを残しつつ、雪城は少しだけ頬を赤くして「そうだね」と嬉しそうにはにかんだ。


「部屋は一緒に見つけに行くぞ」


ちゃんと恋人になった俺の覚悟に戦くがいい。





おわり



バレンタインリクエスト「チョコレート用意してない箕浦」でした。意外な二人にリクエストきて嬉しかったです!

小話 127:2020/02/15

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