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※「29」の続編




付き合ってからの初めてのバレンタインは、京からチョコレートと一緒にバラの花を貰った。
あまりにもキザで恥ずかしいそれにマジかよって笑いそうになったけど、あまりにも自分を見つめる京の表情が、慈しみというか、愛おしいとでもいうか(自分で言うのも恥ずかしいけど)そういう感情を含んだ優しく甘い表情だったので、こっちもボッとバラみたく赤くなって「ありがとう」と素直に受け取った。受け取る以外の選択肢はなかった。

「利一には毎日愛情を伝えてるつもりだけど、こうやってイベントに乗じるのも楽しいね」
「俺、バラとか初めてもらったよ。照れるな。ビビったけど」

俺からのチョコレート(市販品)を嬉しそうに摘まんで言う京に対して、俺はやっぱりこういうのは女性とか外国人とかが貰うもののような気恥ずかしさが勝ってしまって、笑った顔は引き攣ってしまった気がした。





そういえば、バラの花には数によって意味が違うと聞いたことがあるのを、ふと思い出した。花瓶に挿した3本のバラ。思い立って、検索をかけてみた。

『愛してる』

おぉっふ。
思わずソファーに倒れて変な声が出た。

「利一、お風呂先にありが──どうしたのかな?」

ソファーの上でひっくり返っている俺に、風呂上がりでタオルを首に掛けた京が怪訝そうに尋ねてきた。

「京・・・。あのバラの、3本の意味、狙ってた?」

スマホの検索結果の画面を見せると、京はニッコリ笑って「どうかなぁ」としらを切る。絶対狙ってたし、それを知った俺の反応も楽しみにしていたに違いない。ニッコリ笑顔がうさんくさいからだ。

「なんだ。この通りの意味だったら嬉しいな〜って思ったけど、違うのか。ざんねーん」

と言うのは、結果として引っくり返るほど驚いてしまった俺からの、せめてもの強がりだ。「ごめんごめん」と慌てる京が見れたら十分だと思っていたけれど、京は一枚どころか二枚も三枚も上手で、おや、と珍しくおどけた表情を見せたかと思えば、俺の頬を両手で挟み、首を傾げて眉をひそめた。

「僕も残念だよ。愛してるって気持ちはいつも伝えてるつもりだったのに、伝わってなかったみたいだね」

そうして白々しくしょんぼりした顔を作るのだから、本当にずるい。俺はいつだって京には勝てない。

「つ、伝わってます・・・」
「本当?それは良かった」

いつもいつも両手でも全身でも受けとめきれない、溢れんばかりの京からの愛情を疑うなんてあり得ない。





それから、京は毎年バレンタインになるとバラをくれるようになった。
翌年からはバレンタインだけじゃなく、誕生日にもホワイトデーにも、プレゼントに添えてバラをくれるようになり、俺はいつの日にか100本のバラの花束を貰っちゃうんじゃないかと変にドキマギしてしまっている。
だってそんな、おめめキラキラ、髪の毛サラツヤの少女漫画みたいじゃんか。
でも京ならあり得る。あのルックス、性格、財力からしてもう何をしても何をされても不思議ではない。どこの花屋で調達しているか知らないけれど、きっと店員から「バラの人」って影ながら呼ばれているに違いない。

「ああ。バラ王子って呼ばれてるみたいだね」
「ばらおうじ!」

俺が何とはなしにその話をしたら、京は照れるでも自嘲するでもなく、しれっと言うのだから中々に凄い。俺なら恥ずかしくて、その花屋には二度といけないし、誰かに話そうとも思わないのに。

「若い店員が注文していたのを受け取りに来た僕を見て、ぽろっと言ってたよ」
「すごい、バラ王子・・・ふはっ!」
「笑わなくてもいいんじゃない?」
「ごめ・・・っ、ふふっ!でも京はどっちかと言えば桔梗とか睡蓮とか和のイメージだな」

洋より和の雰囲気が似合うから、もし俺が京に花を贈るとしたら何だろうかと考える。京みたいに花言葉をかけてみても面白そうだと、あれこれ想定してみると自然と笑顔になってしまう。
京もこんな気持ちでバラを贈ってくれてるのだろうか。





「今まで何本のバラを贈ったか覚えてる?」

そう問われた本日、迎えた四度目のバレンタインデーだ。

「うん。覚えてる」
「書いてみて」

紙とペンを渡されて、何だと思いつつもすらすらかけるあたり、俺も京からのバラを大事にしてるんだなぁと再確認してしまう。今までのバラは枯れてしまったのもあるけど、ドライフラワーにしてみたり、花びらを押し花にしてみたり、京には内緒で写真にも残している。

初めて貰ったのは3本のバラ。
──愛してる。

翌年のバレンタインには5本。
──あなたに出会えて嬉しい。

ホワイトデーには8本貰った。
──あなたの思いやりや励ましに感謝。

三年目には誕生日に12本。
──愛が日増しに強くなる。

バレンタインに20本。
──真心。

ホワイトデーに11本。
──最愛。

この前の誕生日には1本。
──あなただけ。

書き連ねて、思い出と共に花言葉もすぐに出てくる。これら全て、イベント毎にプレゼントと共に添えられてきたものだ。
そして今日は大台40本。
花言葉はまだ調べてないのでわからない。俺は京から貰う度、その本数の意味しか見ない。他の本数の意味を知ってしまえば、変に期待したり、した結果、がっかりしたくないからだ。

「うん。あってる。すごいね、ありがとう」

書き出したものの数を見た京が、うんと頷く。

「じゃあ問題。これを全部足すと何本でしょうか」
「え?」

突然の算数だが、答えられない数じゃない。ぱっと計算して、出た数には驚いた。

「100本だ」

今までこんなに貰っていたのか。

「そう。今日で100本。意味は100%の愛」
「ひゃく、ぱー・・・」
「ちなみに今日の40本は、死ぬまで変わらぬ愛」
「し!」

愛の重さに返す言葉が見つからず、赤面しか出来ないでいる俺に、京は困ったような笑顔を見せた。

「・・・初めてバラを贈った時、利一はビックリしたって言っただろう?だから先に気持ちだけ、渡しておくね」
「先に?」
「そう。僕はこれからも僕の全部の愛は利一にあげる。そういう気持ちだし、いずれ100本、利一に贈るから覚悟しててね」

トン、と、白くて長い京の人差し指が、俺の左胸に触れた。
じわじわと恥ずかしい気持ちに歓喜が混じる。口元がむずむずして、カッコ悪くもにやけているのが解ってしまうのがまた恥ずかしい。

「利一には伝えたい気持ちがまだまだあるし、早く渡しちゃってもつまらないから、もうしばらくは少しずつバラを贈るよ。ふふっ。まずは今夜、バラ風呂にでもしようか」
「おー、ごーじゃす・・・」

バラ風呂とか、京は絵になるけど俺はどうだろう。
あまり思い浮かべたくない絵面に頭を振って、とりあえずテーブルに置かれた40本のバラを胸に抱いて京から隠した。

綺麗で香りいいバラを、まだ湯船に散らしたくはない。
京からの気持ちもバラも、俺は余すことなく堪能したい。

「勿体ないから、まだしない」

言えば、京にしては珍しく声をあげて笑ってくれた。



おわり




バレンタインリクエスト「ゴージャスなバレンタイン」でした。ゴージャス難しい・・・精一杯のゴージャス・・・。バラは貰う人や二人の関係によって意味がちょっと違うみたいなので、だいたいで。

小話 125:2020/02/08

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