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※「101」の続編
攻めの元カノ視点で受けが出てきませんがBL展開です。苦手な方は閲覧注意してください。



十二月某日、いつもの喫茶店。
うちの気分はイライラマックスだった。


「お前マジなーにやってんだよ!もうクリスマスだよ!年末だよ!年越しちゃうよ!」

流星のことをお前って呼ぶ女なんて、きっと世界にうちだけだと思う。
こんなトップアイドルみたいななりした男に世の女はメロメロだけど、うちはそうはならない。昔はそうだったけど、今はもう全然ならない。

「なーんで宮田君クリスマスに誘わないの!」
「いや、タイミングが・・・うぅ」

しおしおと塩かけられたナメクジみたいな流星を誰が想像できようか。
片想いの相手(フツメン)をクリスマスデートに誘えなくて、すっっごい気落ちしている流星は見てて気の毒な感じもするけど、誰かがケツを叩かなくちゃこの男はいつまでたってもウジウジしているだけだ。だからうちが叩く。ってゆーか流星が男に片想いしてんのを知ってんのはうちしかいないから、必然的にうちがケツ叩き役になるしかないし、くっついて貰わなくちゃフラれた意味がない。
十一月半ばくらいから、距離を一気に詰めるならクリスマスがいいよって、そしたらお正月とかバレンタイン楽しくなるじゃんってアドバイスしたげて、流星と一緒にデートプランとか、誘い文句とか、なんなら告白の内容まであーでもないこーでもないって相談のってあげたのに。

「流星がそんなんだと、うちだって次に進めないじゃん・・・」
「そんなことないよ、加南子はとても素敵だよ。いい人はきっと近くにいるはずだよ」
「ふった相手にキラキラ振り撒いてんじゃねぇよ」

これを本心から言っているのがマッジでタチが悪い。
白熱した体にアイスのレモンティーが爽やかにリフレッシュしてくれる。向かいに座る流星はミルクココアなんて可愛らしいもんをゆっくり飲んでいるけど、心ここにあらずみたいでぼんやりしている。
ああ、ちょっと言い過ぎたかも。流星いまポンコツだから、うちがどうにかしてやらないと。

「んじゃ、うちから宮田君に大晦日の予定聞いちゃおー」
「え?連絡先、何で知ってるの・・・?」
「だって流星ウジウジウジウジしてっから、焦れったくてうちが仲介役に入るしかないじゃん。普通に廊下で取っ捕まえてお友達なろーってラインゲットしたの。あ、でもちょいビビってたかも」

なはは、と豪快に笑えば、流星はさらにがっかりしながら「うらやましい行動力」と呟いた。流星だってうちよりずっと前に連絡先ゲットしてんだから、普通に「今日ひまー?」とか「クリスマス出掛けなーい?」とか送ればいいのに。

「そだよ。行動力って大事だよ、うちだって流星に告った時超勇気いったもん」
「・・・そっか、ありがとう」
「流星だってうちにホントのこと言うの、頑張ったじゃん?宮田君にもさあ、もう一歩踏み込みなよ」

うちの見立てじゃ、流星と話してる時の宮田君は、仲の良い友達レベルだ。男同士だからそれ以上を考えてないのかもしれない。だからこそ、もっと流星を意識させるような何かを、グッとアピールする何かを、流星には頑張って行動に起こしてもらわなくちゃいけないんだよ。

やほ!31日何してるー???

のメッセージに、すぐに返信がきた。

「ふーん。宮田君、家にいるって。流星、初詣誘いなよ。年越しカウントダウン」
「えっ、いやでも夜遅いしご家族での団欒を乱すようなことはちょっと」
「まじめか!そこは流星が迎えにいって宮田君の家族に挨拶してポイントゲットだろ!」
「ああ!」
「なんだその目から鱗みたいな反応は」

こいつマジで大丈夫なんだろうか。仮にもし宮田君と付き合えたとして、エスコートとかちゃんと出来るんだろうか。うちと付き合ってた頃は、買い物に付き合ってもらったり、映画観たり、それなりには出来てたけど・・・。

(マジで好きだから、なにも出来ないんだろうな)

下手して嫌われたくないから。
流星のポンコツの根底ってこれだと思う。羨ましいような、羨ましくないような謎感情がまた生まれてしまった。

「・・・どする?うちが流星とカウントダウン初詣するんだけどーって、一緒いこーって誘って、当日二人になれるようにうちパスしようか?」
「ううん、そこまでしてもらわなくても」
「じゃあ流星、自分で誘える?」
「・・・やっぱり、クリスマス今から誘ってみるよ」
「うん、え?今から?」
「加南子ばかりに頼ってちゃ申し訳ないし、加南子と話したら勇気出てきた」

眉を下げて笑う流星に、母親が初めて子供をおつかいに出す時みたいな心配をしてしまう。変なの。流星が宮田君と話してる姿だってちゃんとみたことあるのに。
レモンティーを飲みながら、流星の行動をじっと見つめる。深呼吸してスマホを操作する時の顔がめちゃくちゃ緊張感伝わってくる。

「──あ、もしもし宮田君?今いいかな、うん。あのさ、あの、二十四か二十五のどっちか、あしょ、遊ばない?」

噛んだ!マイナス十五点!でも初々しさプラス三〇点!トータル十五点!
ハラハラしながら電話する流星を祈るように見守る。ってかいつの間にか両手組んでガチで祈ってたけど。

「・・・え、ほ、ほんと?ありがとう!あ、ううん、うん、えっと、じゃあ今夜また連絡してもいいかな、うん」

パッと顔色を明るくした流星のまわりに、気のせいかお花がポンポン飛んでるように見える。
ゆっくりと通話を切った流星が、信じられないと言わんばかりに若干震えながらこっちを見返してきた。

「い、いいよって、宮田君が」
「えっ!オッケー?オッケーもらったの?やったじゃん!すごいよ流星!」
「ありがとう、加南子!」

思わずお互いに差し出した両手でガシッと握手すると、流星の手汗が半端なかった。
あー。めちゃくちゃ頑張ったじゃんって泣きそうよ。

「色々言っといてアレだけどさ、やっぱり流星の初恋って大変なこと多いと思うの。だからうち、マジで友達としてすごい応援するからさ、とりあえずクリスマス楽しんできなよ」
「加南子には迷惑ばかりかけて申し訳ない・・・でもこんな俺に愛想つかさないでたくさん話聞いてくれたりして感謝しかないよ、ありがとう」
「やめれ〜!泣きたくなるじゃん〜!まだ付き合ってもないのに〜!」
「確かにそうだね」

二人してうるうるしながら情けなく笑って。こんな二人の形なんて誰が予想したよ。
それにホントに宮田君と流星が付き合うことになったら、うちも流星も、目が腫れまくるほど泣いちゃうんだろうなって簡単に予想出来ちゃうからさらに笑える。

あ〜、でも早くそんな日来ないかなって思えるうちはホントマジでイイ女だわ。




おわり




BLだけどこの話の主人公は加南子ちゃんです。


小話 119:2019/12/18

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