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※「10」→「12」→「15」の続編



50cmの小さなクリスマスツリーがお気に入りだ。
同棲をはじめて初めてのクリスマスを迎えるにあたり「部屋が狭いし、男だけだし」って理由で、瀬名が家具屋にて購入した一番小さいサイズだが、俺は毎年十二月一日になるとすぐにそれを飾りにかかる。


「そろそろ買い替えようか。もうちょい大きいのに」

テレビ台の横にちょこんと立つツリーは、社会人数年目のボーナスで購入したワイドテレビをさらに大きく見せてくれる。
ソファーに座りながらコーヒーを飲んでいる瀬名は、そんな対照的な二つを見比べながらしみじみと言った。

「いいよ。俺、これ好きだし」
「そう?」
「瀬名が買ってきた時、俺結構感動したんだよ」
「知ってるよ。千葉、目がキラキラ〜ってなったもん」
「ええ、そうかな」

ケーキもチキンもすっかり食べ終えて、洗い物を終えた俺も千葉の隣に腰を下ろした。ついでに肩に寄りかかる。

「千葉のくっつき虫はなおらねえなぁ」
「瀬名にしかくっつかないよ」
「そうじゃないと困るけど」

顔を見合わせて笑い合うと、唇が触れ合うのはもう自然なことだ。

──あれから、俺と瀬名は生活環境がちょっと変わった。
大学を卒業した瀬名は就職して、俺も一度転職をした。こんな俺を元の職場の取引先が気に入ってくれて、いわゆる引き抜きにあったのだ。給料も上がったし、瀬名も喜んでくれて、その日はちょっと良いワインも飲んだけど、二人して酒のよさは解らないから首を傾げて終わっただけだった。今は会社と瀬名に応援されつつ資格の勉強もしている。
それに収入が増えた事で、一度引っ越しもした。前の部屋は、もとはと言えば瀬名の一人暮らし用の部屋だから、貯金ができた頃にマンションに移り住んだのだ。名残惜しさもあったけど、
「ずっとこのままって、ないんだからな」
って瀬名が言った。少し冷たい気もしたけれど、
「生きてくにはその都度環境を変えないとダメだろ。それにこれはいい変化だ。解るだろ?」
って俺に言い聞かせてくれて、ちょっと泣いた。
それに新しい部屋は大きくて部屋数も増えたけど、寝室にはあの大きいベッドもきちんと収まるし、お風呂も大きくなったし、嬉しいことも増えたと思う。今はインテリアを集めている最中だ。

「ね。クリスマスプレゼント、用意してるんだけどさ」
「うん?なに、あ、こら」

少し気分が盛り上がって、瀬名の首筋を噛む。
クリスマスは毎年一緒に過ごすことにしているのは、瀬名が家族行事だからって言ってくれるから。
お互いに交換した指輪も堂々とはめている。誰とは知らないが、俺と瀬名に「イイ人」がいるのは公然の秘密と互いの職場で広まっているようだ。

「瀬名、毎年誕生日だってなにも要らないってゆーじゃん」
「こら〜噛むな噛むな〜」

噛んだところを仕上げにヂュッと吸い付いても、瀬名は困った顔をして笑うだけだ。やさしい。好き。瀬名のやさしさに、俺の心が暖かくなる。

「温泉、いかない?」
「温泉?」
「うん。会社の忘年会の景品なんだけどさ」
「へえ、当てたの?」
「先輩がね。でも先輩、最近赤ちゃん産まれてさ、ペア宿泊券だし、それどころじゃないから俺に彼女と行っといでって」
「彼女とぉ?」
「瀬名は俺の奥さんだけどね」
「わははっ」

目録を見せれば、瀬名は面白そうにそれに目を通した。パンフレットは鞄の中だけど、それはまた後ででいい。瀬名から離れるより優先するものはないのだから。

「あ、知ってる。すげーいいとこじゃん。豪華バイキングが有名なところ」
「しかも部屋に温泉ついてるんだって」
「はー、千葉んとこの会社、景気いいのな」
「ん、だからさ、こういう痕つけてても、誰にも見られないから大丈夫だよね」

れろ、と昔より太くなった瀬名の首に舌を這わせてまた吸い付いた。ケラケラ笑う瀬名が引っくり返ったから、ソファーの上で瀬名を押し倒すような形になったけど、どのみち押し倒すつもりだったから好都合だ。

「千葉は衰えないねー」
「瀬名にだけだよ」
「だからそうじゃないと困るってば」

顔に手を添えられて、瀬名から唇をくっ付けてくれた。角度と深さを変えて何度も何度も口づけをされると、本当にもうたまんなくなる。

「んぅ、瀬名、ベッドいこ?」
「耐え性ないなあ」
「瀬名だからじゃん〜っ!」

泣きを入れれば、瀬名は今日一番に楽しそうに笑った。





「なあ、やっぱりさー、ツリー大きいの買おうと思う」
「えー・・・」

乱れたベッドの中、裸でくっついていると、瀬名が少し眠そうにしながら言った。
さっきは俺のこと解ってくれてると思ったのにって、駄々をこねる子供みたいな不満を口にすると、ごろんとこっちをむいて寝転がる。目がとろんとしてる。

「あー、買い替えるんじゃなくて、あれはこことか玄関に置くとしてさあ、リビングに大きいやつ」
「それ必要?」
「だって千葉が毎年一人で飾り付けんじゃん?俺もやりたいし」
「え、そうだったの?ごめん・・・」
「じゃなくて、一緒に」

くあ、と欠伸をした瀬名がモソモソと毛布の中に縮こまる。冬用のマイクロファイバーは薄くて軽いのに暖かいので、瀬名はすぐこれに潜り込んでしまうのだ。

「クリスマス、家族行事なんだからさ、一緒にやりたいじゃん?でもあれ小さいからなぁ〜」

毛布の中でモゴモゴ言ってる瀬名に倣って、俺も毛布に潜り込む。家の中は既に二人きりなのに、まるで子供の小さな秘密基地みたいで、声を潜めてくっついて話してしまう。

「25日過ぎたらさ、ツリーって季節外商品ってことで安売りしてないかな?」
「ははっ、ナイス千葉。週末見に行こ」
「うん」

瀬名は毛布の中で身動ぎすると、落ち着く格好になったのか健やかに寝落ちした。息苦しいだろうから、もう少ししたら毛布を捲ってあげる行為は毎度俺の役目だ。

(・・・変なの)

クリスマス終わったばかりなのに、もう来年のクリスマスの話をしている。明日はツリーを片付けなくちゃいけないけど、次はきっと二つのツリーを開けることになるんだな。

(貰ってばっかりだなぁ・・・)

物も、心も、毎日も、瀬名に貰ってばかりで俺はなにも返せていない。一生をかけても、大枚を叩いても返せない恩義がある。何を与えることが瀬名の一番の喜びだろう。
俺にとってはまさに瀬名がそれだったけど。

(一生、ずっと、隣で考えさせてね)

寝ている瀬名の額に唇を静かにあてた。

(それが、俺だったら嬉しいけどな)






おわり



クリスマスリクエストでした。ありがとうございました。この二人はすごい仲良しさせたい。(瀬名が奥さんって言われてるのはSS参照→これ

小話 117:2019/12/14

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