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※「43」の続編



「うーん。キュアプリ変身セット・・・すみちゃんの存在だけで世界救えるから必要ない気もするけどなぁ。お姫様セットも、すみちゃんの存在がお姫様だし、子供用メイクセットなんかなくても充分可愛いし・・・」
「ああ、じゃあこのおままごとセットは?」
「大路さんには聞いてないんですけどぉ?」


クリスマス目前のショッピングモールはいたく賑やかだ。中でもおもちゃ売り場は夢と希望の眼差しをもった子供達と、疲れきっている大人達でごった返しである。
「じゃあサンタさんに、ちゃんとこれが欲しいってお手紙かいてね?」「うん!」という母子のやり取りのあとに、控えていた父親と店員がそそくさと会計をしているのも面白い。
そして例にならい、葵も溺愛する妹の為のクリスマスプレゼントを選びに来ていたのだった。大路と一緒に。


十二月頭に葵が妹の菫と飾り付けたツリーには、サンタさん宛の手紙がぶら下がっていた。菫がぐっすり寝ている夜中に両親と揃って開封してみると、 「すみれにいちばんすてきなぷれぜんとをください」と覚えた平仮名で一生懸命に書いてあったのだ。アバウトであり、悩ましい内容である。これには葵もさすがに唸ってしまった。
しかも後日、すみれは
「ねぇ、ママ。クリスマスパーチーには、王子さまもくるのぉ?」
なんて言い出したので、母と葵は「え?」と綺麗にはもってしまった。絵本の中の舞踏会みたく、パーティーと名の付くものには王子様が必須と思っているのか、キラキラの笑みで問いかける妹の可愛さに危うくノックアウトしそうになったが、これは負けてはいられない。

「すみちゃん、王子さま、クリスマスは忙しいと思うよ?」
「ええっ、そうなのぉ?」

菫は丸い瞳を潤ませた。罪悪感が半端ない。しかも母親ときたら

「そうねぇ。でも大路君、一人暮らしって言ってたわよね。ちゃんとご飯食べてるのかしら。あの子とってもスラーッとしてるじゃない?それにすみちゃんがお世話になってるし、一度食事にでもお呼びしましょうかねえ」

なんて言う始末。断固反対するよりも早く、「きゃあ!」とおしゃまな喜びの声をあげた妹の
「うれしいねえ、お兄ちゃん!パーチー楽しみねえ!」
なんて喜色満面の笑みを見せられては
「・・・ソーダネ」
としか返せなかった。

しかもあれから大路は、菫とも結局公園であっている。それは大路が葵に嫌われたくないからと避けていた行為であったのに、日に日に「王子さまにあえなかったの・・・」としょんぼりしていく菫の姿に背に腹はかえられぬと、渡されたアドレスへ葵直々に「会ってあげてもかまわないので」と連絡してしまったのだ。
なので今回も、葵が大路と連絡のやり取りをしている仲だと誤解(事実でもあるが)している 母に頼まれ、葵から我が家のクリスマスパーティーへのお誘いメールを送ることになってしまった。
「クリスマス、うちで食事しませんか。と母と妹が」
と短く送れば、すぐさま
「お誘いありがとう。是非お邪魔させて頂きます」
とのOKが来てしまった。
マジかよ最悪、とは妹の手前口に出せるわけがなかった。



(しかも何で!なぁんで!大路とプレゼント選ばなきゃなんねーの!)

母曰く、すみちゃんのプレゼント選びは難しそうだから、大路君さえよければすみちゃんのプレゼント、一緒に選んできてもらえないかしら。葵もすみちゃんのプレゼント選びたいでしょう?すみちゃん、大路君大好きだし、恋人はサンタクロースみたいで素敵じゃない。
父曰く、俺の謎センスですみちゃんがっかりさせたくないしなぁ。どうせ夜に枕元に置くんだから、誰が選んでも問題ないよ。

(問題あるわ!大路すみちゃんの恋人じゃねえわ!)

しかし確かにプレゼントは葵が選ぼうが両親が選ぼうが、結局は「サンタさんありがとう!」になるのだ。

(んぁ?じゃあ俺のライバルってサンタになるわけ?)

なんて思考が北欧あたりにぶっ飛んでいると、葵君、と大路に名前を呼ばれた。

「菫ちゃんって、今何が好きなの?」
「あー、まあ女の子向けのアニメは大体好きっすね。あ、でもアイドル部とかも見てるけど、うち子供が小さいうちはゲームさせない主義なんで、そっちはあんまりピンときてないっすね」

すみちゃんのこと何にも知らないのなと得意ぶって、つい口が滑る。
アイドル部とは、アイドルを目指す女の子たちの日々を描いたスマホアプリ派生のアニメだ。ゲームセンターやアプリの類いのゲームをさせないので、たまにスマホ連動企画なんかをやっていても、菫はいまいちピンときていないらしい。

「つーか、大路さん、よくうちに来る気になりましたね。ぶっちゃけ女の子からのお誘い多いでしょ?」
「え、そう見えるかな?でも葵君とクリスマスを過ごせる方が有意義だよ」

王子様スマイルを向けられて一気に鳥肌がたつ。
そうだ。日々の重心を菫に置きがちなので薄れていたが、葵はどうやら大路に好意を持たれてるらしい。その事についてもどうにかしたいが、どう話せばいいのかよく解らないので非常に困っているのであった。

「あ、これ知ってる?」
渡り歩いた広い店内の一角にある棚の中から、大路が一つの箱を手にした。

「・・・おもちゃのマイク?」
「うん。これね、この中に何曲か曲が入ってて、ボタンを押すとそのメロディーが流れるんだよ」

ほら、と見せられた箱の裏には定番の童謡から近年流行りのJ-POP、有名アニメの主題歌等が、さらにアイドル部の主題歌も入っていた。

「アイドルアニメ見てるなら、ゲームの方じゃなくて、こういうのでなりきっちゃうのも良いんじゃない?」

葵はハッとした。
菫はいつも調理器具であるしゃもじをマイクに見立ててアイドルの真似事をしているが、このマイクを使えばどうだろう。まさに千年に一人のアイドル爆誕では!?

「衣装もさ、こういう売り場のもいいけど、レディース売り場のアクセサリーとか、今はワンコインで買えるコスパがいいの揃ってるし、そういうので揃えてあげると可愛いんじゃない?」

さらに葵はハッとした。
すみちゃんが色気付くのは嫌だけど、量産型のお姫様よりオンリーワンのお姫様、悪くない!!

「お、大路さんすげー!」
「そうかな、役に立てたなら嬉しいよ」

初めて自分に好感を持たれた手応えに、大路も照れながらはにかんだ。周囲の主婦の視線が一瞬集まったが二人は知るよしもない。
それからおもちゃ売り場ではマイクを、大路に連れられたレディースの雑貨売り場ではイヤリングとそれとお揃いのネックレス、リボンのついたヘアゴムやバレッタ、大路のアイドバイスから髪にも手首にもつけれるヘアアクセ等着飾れるものを購入し、クリスマス用にラッピングしてもらった。

「いやー、ありがとうございました!」
「どういたしまして」

少し遅めのランチを取りながら、二人は休息をとっていた。
葵にとっても意外だが、気のあうまでとは言わないが、大路は話題も知識も豊富で話すと案外面白い。敵視ばかりしていたから気付かなかったが、年上でイケメンで、こんな人が自分を好きらしいというのは中々にすごいことだ。
少し視線を辺りに巡らす。女性客はもちろん、カップル客の女性も一度は大路に目を向けている。絵本から出てきた王子様までではないが、結構目立つ人物である。

「どうかした?」

そわそわしている葵に気付き、大路が顔を覗き込むように首を傾げた。

「あ、いや、なんでも。つか、大路さんって何であんな女の子事情に詳しいんすか」
「ああ。実は俺にも今小学一年生の姪がいてね。遠方だから滅多に会えないんだけど」
「へー、そうなんすね」
「うん。だから姪に重ねて菫ちゃんに構いすぎたかも。ご家族からしたら気分よくないよね、ごめんね?」
「え、いや、あー、すみちゃんが誑し込まれてるんじゃないんなら、良かったです」
「それはすごい誤解だよ」

肩を落として笑う大路は、テーブルの上の葵の手をそっと握った。

「それに、俺は菫ちゃんより葵君ともっと仲良くなりたいし、ね?」

それを聞いて、葵は顔を上げた。
なぜ、その一番大事な事実を忘れていたのだろうか。
この人が自分を好きだということは、そうだ、それは、つまり。

「え、もしかしてすみちゃんの事振るわけ?」
「え?」

思いもしなかった発言に大路が気をとられた隙に、葵はさっと手を引き抜いて自分の体を抱いてわなわな震えだした。

「え、ちょっと待ってよ。すみちゃん失恋させるってどゆこと?あり得なくないっすか?そこは大路さんが振られて身を引くんでしょう?」
「あ、う、うーん?」
「って言うか俺、すみちゃんが幸せになる日まで自分がどうこうとか考えたことないんで」
「ん、ん〜??」
「だってそれが兄の役割でしょう?」
「お、重い・・・」

まさかこんなにアレだとは。
前途多難な恋に額をおさえて考え込んでしまった大路は、一瞬既成事実という四文字を頭に浮かべた。

「だからですね、大路さん!」
「あ、はい」
「すみちゃんがきちんとまともな人と結ばれるまで、二人で見守りましょう!」

握手を求めるように葵の手が差し出される。

「え、二人で?俺も?」
「大路さんはすみちゃんの叔父さんみたいなものでしょう?じゃあ俺と似たような立場じゃないっすか」

ね、と握手を求める手が更にこっちに向けられる。
これは果たして一歩前進なのか。

「じゃあ、これからも仲良くしようね?」
「当然です!」

向けられた葵の手を無下になんて出来るわけもなく、大路はその手を握り返した。
今はまだ、遠くよりも近くにいられるならそれでいい。彼の家族にも気に入ってもらえるなら、まずはそこから漬け込むのも得策かもしれない。

(今は、まだ、ね)

大路の笑顔の裏の心理など、シスコン一直線の葵は気付くこともなかった。






おわり



クリスマスリクエストでした。すみちゃんのプレゼント選びとあったのでそっちをメインに書きました。ありがとうございました。

小話 116:2019/12/14

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