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『トリック・オア・トリート〜!いぇ〜い!』

血みどろなミニスカナースとミニスカポリスが、カメラに向かってピースサイン。
その他に映るのは西洋の吸血鬼やフランケン、アニメキャラ、芸人のコントキャラ、なぜか野菜の着ぐるみ。まさに、カオス。これがジャパニーズハロウィン。ハロウィンってなに。

『ご覧の通り!まだ早い時間ですがすでにたくさんの人が!これから夜にかけてますます盛り上がっていきますよー!』

カボチャのランタン帽子を被った女子アナが中継を終えると同時に、俺もテレビを切った。
最近のハロウィンはおかしい。もはやコスプレ大会だ。海外から疑問視されるわけだ。はずかしー。

「あれ、テレビ見ないの?」
「うん、なんか嫌」
「ふぅん?」

隣に座った湊がマグカップを渡してくれる。湊の一人暮らしの家にいつの間にか定着した俺専用の白いマグ。中身は少し熱めの緑茶だ。
この間までは冷えた麦茶をがぶ飲みしてたのに、今じゃ温かい緑茶をゆっくりと飲むなんて、もう冬間近だなぁなんてしみじみ思う。

「あー、お茶うまー」
「よかった」

コーヒーだったり、紅茶だったり、この前は沖縄のさんぴん茶。湊は食にはこだわらないけど、飲み物にはこだわるらしい。本人いわく「こだわってる訳じゃないけど、あんまり間食しないから、そのかわり」。なんかおしゃれ。
そう、湊はおしゃれだ。着る物、持つ物、置く物すべてが高そうで、そのくせ「これ?ジーユーで980円」「この鞄は高校生のときから使ってるやつ」「その置物百均だよ」なんてケロリと言う。元のつくりと持ち前のセンスがいいと全てが完璧に見えるという湊。
そんな湊はこのマグカップを女子がよく行くような雑貨屋で買ったんだと照れ笑いして言った。

「ペアカップなんだ。くっつけるとキスするの。可愛くない?」

湊の黒いマグカップには横顔の某ネズミ♂キャラクターが目を瞑っていて、俺の白いマグカップには♀キャラクターが同じく横顔で目を瞑っている。カチン、とくっつければ確かにキスをしているようになる。
「これ、使おうよ。ね?」
物には無頓着なくせに、俺なんかとの為にわざわざ雑貨屋に出向き、もう購入しちゃって、はにかみながら言われたら、俺は頷くしかない。その時の自分の耳がじわりと熱を帯びていた記憶はある。しかしその後、俺が黒のがいいと言ったが湊はそこを断固として譲ってくれなかった。変なとこだけこだわる男だ。

「さっきのテレビ、ハロウィンだった?」
「だった」

テレビ台に小さな多肉植物が増えている。こないだはなかったけど、多分あれも百均で、植木鉢代わりにしてるブリキのバケツっぽいのも百均だろう。ほんといちいちおしゃれだ。
それをじーっと見ている俺に、なぜか湊はそわそわしている。

「あのさ、楓」
「ん?」
「楓がこういうの嫌がるのってわかってるんだけど」
「え、なに?」

多肉植物から湊へ視線を戻せば、湊はひとつ咳払いをして、それはそれは真剣に言った。

「トリック・オア・トリート」

・・・・・・え?

まばたきをして湊を見ても、まだ真剣な顔をしている。
トリックオアトリート・・・お菓子かイタズラか。ハロウィンが苦手でも意味はわかる。

「あー、ちょっと待って」
「え?」
「はい」

鞄の中に手を突っ込んで、湊の手のひらに落としたのは蜂蜜のど飴。
湊は手のひらの飴と俺を交互に見やる。

「え、え?」
「え、って、こういうことだろ?」
「あ、うーん・・・」

飴玉ひとつを両手に乗せて、心なしかしょんぼりしている。
俺もそんなに甘いものを食べないし、持ち歩いたりしないから意外だったのだろう。しかしちょっと喉がいがらっぽくて、湊んちへの行きしなにドラッグストアでのど飴を買っていたのだ。蜂蜜のど飴は一袋分まるっとある。ちなみに味に飽きた場合の為に、ミントミルクの飴もある。

「飴、持ってたんだね・・・」

本格的にしょんぼりしている湊は包みを破いて飴を口にいれた。口内で転がす度に歯にあたる音や唾液と絡まる音がする。

「欲を言えば、エッチなイタズラしたかった・・・」
「欲丸出しすぎだろ」
「まさか楓が飴を持ってるなんて・・・」
「俺いま30個はある」
「えええ。じゃあ30個食べなきゃかぁ」

眉を下げて湊が笑う。・・・こいつ、飴玉食ったらもう一回、いやイタズラ出来るまで言うつもりだったのか。
って言うか、ハロウィンってそんなやらしいイベントじゃないし。子供たちの行事だろ?なのに日本中いい歳した連中がワーキャーして。

「バカみたい」
「うう、ごもっとも」

マグをとって緑茶をすする。
白いマグカップに描かれてるキャラクターは片割れとのキス待ち顔だ。テーブルに置かれてる片割れも同様。湊は飴を舐めながら毛足の長いラグをいじいじしている。

「・・・あのさぁ」
「うん、お茶おかわり?」
「エッチなことしていいけど、エッチなイタズラは嫌だ」

元気なさげに笑いながら検討外れなことを言う湊を無視して、俺は黒いマグカップを見ながら言った。

「焦らしたりとか、恥ずかしいのとか、痛いのは嫌だ」

テーブルの上に俺のマグカップを置いて、カチ、と控えめに湊のマグカップにあてる。

「やるならちゃんと、して、ほしぃ・・・」

尻窄まりな言い方になったのはさすがに俺とて恥じらいが生じるからで。しおしおとしていく俺とは打って変わって、湊の目はみるみる生気が宿っていく。生気・・・いや、精気?どっちでもいいけどあからさまに明るい雰囲気をまとった湊がこっ恥ずかしくて直視できない。

「か、楓・・・!」
「い、言っとくけど!俺はハロウィンに踊らされたりしたくないだけだからなっ」
「うん。うん、そうだね。だって俺達恋人同士だもんね。ハロウィンなんて関係ないもんね」
「・・・うん」

湊が伸ばした両手に捕まってしっかりと抱き込まれる。俺のシャツの中に手を差し込んで、背中を撫でながらガリッと飴玉を噛み砕いた。窓の外はまだ夕方にも早い明るい時間だってのに、俺は何をやってんだと目が回る。
結局、俺も大概のバカ者なんだなぁと実感したところで湊に首筋をベロリと舐められ押し倒された。



おわり

小話 11:2016/10/30

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