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※モブ視点





俺は絶対認めない。
学力と上っ面がそこそこ良くて、そこそこ普通の高校に入学して、静かで普通な毎日に飽きた根は最っ悪の秋津さん。入学した高校に悪いグループなんてあるわけもなく(調子乗ってる奴はいたらしいが秋津さんにとっては興味の対象外)(でも目障りだから裏で潰したらしい)、とにかく一度目覚めた悪意をおさめる為に一夜にしてここら一帯を占めた秋津さんはやっぱカッケー。
残念なことに俺は学力足らずで秋津さんと同じ高校に入学は出来なかったけど、同じ中学の先輩としてこれからも慕っていくつもりで、俺は俺でこの底辺高校でも秋津さんの舎弟として堂々と胸を張り、猛威を振るっていた。


「・・・なんすか、そいつ」


ある日の溜まり場で、久々に現れた秋津さんが見慣れない男を連れてきた。
秋津さんの隣に並ぶにふさわしい屈強な肉体でもなく、イケメンでもない。かと言って、ゆすりや遊びの対象っぽい弱そうでヒョロガリってわけでもない。
THE・フツー。
運動部のスタメンではない、って感じの男で、秋津さんと同じ学校のやつってことが分かるのは着ている制服が秋津さんと同じたがらだ。
どう見たって不釣り合い。
どうもって感じで頭を下げられたけど、いやいや誰だよお前。普段の秋津さんなら眼中にすら留めないような男を、俺がなんだこいつって睨むように眺めたら(正直に言うと眺めるように睨んでたんだけど)、秋津さんは思い出し笑いみたいにクッと小さく笑って肩を揺らした。

「うちの学校でタバコ吸ってんのこいつに見つかってよ。チクられる前に一発絞めとくかって思ったら、こいつが先に俺に一発ビンタかました挙げ句、説教たれやがって」
「はあっ!?」

秋津さんにビンタだと!?
こいつマジ許すまじって睨むと、男は悪びれるわけでも恐縮するわけでもなく、しれっと俺から視線をそらしやがった。

「こんななりだから、まさか手ぇ出してくるとか思わなくて食らっちまったわ」

そう言った秋津さんは、笑いながら叩かれたであろう片方の頬を無骨な手でさする。
すると隣の男もムッとしながらようやく口を開き、俺を見ながら秋津さんに親指を向けた。

「いや、だって、こいつだって学校じゃ普通の奴だからさ、説得したら反省してどうにかなるかと思うじゃん?ってか、え?俺あの時絞められそうだったの?悪いのそっちなのに?」
「未遂の話だ」
「おい」

ドスッと秋津さんの鳩尾に拳を男がいれた。
今のは遊びみたいな軽いやつだけど、こいつ、秋津さん相手によくそんな事できるな。そして秋津さんもよく笑ってられるな。
秋津さんにはもちろん心身ともに相応しい類友はいる。並ぶとマジで眩しい感じの人達だ。そんな方々とは全然違うこの男の存在に、俺はピコンと頭に電球が浮かんだ。

「あー。そいつ、お気に入りなんすか」

普通の癖に腕っぷしがいいとか、物怖じしない態度とか、面白い性格とか、そんなところが秋津さんのツボにハマっての“お気に入り”なんじゃないか。俺だって、密かな自慢だけどそういうところが秋津さんに買われているんだし。
じゃなきゃ、なんでこんな奴。

「そ。お気に入り」

秋津さんは憮然としている俺にニカッと笑って頷いた。そして嫌がる隣の男の頭をワシャワシャと撫でながら言った。

「だから今、付き合ってんの」


──俺の絶叫が溜まり場に響いたのは、言うまでもない。




俺は絶対認めない!

「ダメージはほぼゼロの腕っぷしも守りたいと思った」
「自分に正面切って説教たれたのはこいつが初めてだった」
「裏の顔を知っても態度は変わらなかった」

ってことを筆頭に、普通男──名前は確か平野、を好きになった理由から付き合うまでになった過程をつらつらとあげて言った。俺の推理はほぼ正解だったが、お気に入りの方向性がまさかの方向へ向かっていた。途中から意識がぶっ飛んでうろ覚えだが、平野が同情的な目で俺のことを見ていたのは覚えている。見んなよチクショウ。

(なんっで!なんっでなんだ秋津さん!)

あれからちょくちょく、秋津さんは平野を溜まり場に連れてくる。
楽しそうにちょっかいをかけては、冷たくあしらわれている姿に俺はどうすればいいんだ。
男同士なんてのはどうでもいい。正直秋津さんの友達なら男だけど並んだら絵になるビジュアル的にお似合いな人はいたし、それこそ言い寄る女はごまんといる。男が絶対女と付き合うとか言う考えはジダイサクゴってやつだし、そこは本当にどうでもいい。
でもだからって!なんであんな普通男!秋津さんにはもっとこう!華やかで!ゴージャスで!きらびやかな!人が!似合うじゃないか!
秋津さんの魅力がた落ちだ。うそ。秋津さんの魅力は落ちない。ただ俺が面白くないだけだ。

「平野、これからどうする?」
「帰るけど?」
「は?夜だぞ?」
「え?夜だから帰るけど?」
「ん??」
「俺、日付変わる前には風呂入って寝たいんだよ」
「はあ!?」

秋津さんが驚きの声をあげた。
無理もない。今日は金曜。明日は休み。今時小学生だって起きてるし、若者なら・・・恋人同士なら、夜こそある意味本番じゃないか。
だと言うのに、平野は平然と、いやちょっと引きながら秋津さんから距離をとる。

「あり得なくね!?お前それマジで言ってんの!?」
「いや普通に18歳以下の学生だし。え、何?秋津って束縛タイプ?俺そういうの無理〜マジ無理〜」
「ぐ・・・っ」

胸元でバツ印を作りながら、あからさまな拒絶を見せる平野に秋津さんは唇を噛んだ。
殴っちまえよ、秋津さん!
しかし俺の願いむなしく、折れた秋津さんは「こいつ送ってくる」と肩を落としながら扉に向かってしまった。

「新学期からの選択決めた?」
「あー、美術」
「あ、俺書道だ」
「は?じゃあ俺もそっちにする」
「やりたいのやんなよ」

なんてごく健全な学生的会話をしながら二人は出ていった。
らしくないぜ、秋津さん。年上のお姉様からのお誘いも鼻で笑ってムゲにするか、黙って腰だいて消えていくか、どっちかだったじゃないか。それがなんだ。あんな男にノコノコついていって。情けない!そんな姿は見たくない!
秋津さんをあんな風にした男を、俺は絶対認めない!




「こんにちはー」

今日も溜まり場に向かう途中、平野に声をかけられて普通にビビった。いつも一緒にいる秋津さんはいない。平野が一人でいるのをみるのも、平野に話しかけられたのも初めてだ。

「・・・ッス」

無視をしたいとこだが、一応秋津さんの連れだ。失礼をするわけにもいかないので、渋々挨拶をする。

「ごめん、名前知らないんだけど、秋津の後輩なんだよね?いつもお邪魔してごめんね」
「いや・・・」
「でももう行かないから、また皆でいつも通りしててね。あ、これあげる」

そう言って平野は買い物したであろうコンビニ袋の中からひとつ数十円のチョコレートを三つくれた。確かコンビニ・期間・数量限定のチョコレートで、ネット記事で最近読んだやつだ。

「じゃあね」
と平野は軽く手をあげて、颯爽と俺に背中を向けて溜まり場とは逆方向へと去っていった。

なんだ!いい奴じゃん平野!
自分が邪魔してる自覚もあったし、しかももう来ないと言うし、安い気もするけど迷惑料もくれたしで、俺は一気に晴れ晴れとした気持ちになって、その足で溜まり場へ向かった。

「ちわーッス・・・っええ!秋津さん!どうしたんすか!?」
「平野と・・・ちょっと・・・喧嘩を・・・」

果たしてそこには、頬に真っ赤な紅葉をつけた秋津さんが、ガックリと項垂れていた。
今の秋津さんに紅葉をつけれる犯人なんて、そりゃ一人しかいないけど、喧嘩って、え?

「平野・・・さん、ならさっき会いましたけど」
「あ?」
「や、でもスゲー機嫌良さそうだったし、俺にここにはもう来ないっつってましたよ?喧嘩したとか、そんな雰囲気、全然・・・。てかむしろ、清々しそうな?」

思い出しても平野は、秋津さんと喧嘩して悲しんでたり、怒ってたりはしていなかった。マジで普通に、いやスッキリした感じだった。喧嘩なんて気配は微塵も見せなかったよなって思っていたら、血走った目の秋津さんに胸ぐらを掴まれて息がつまった。

「平野どこ行った?」
「え?いや、そこまでは」

ぱっと手を離されて、舌打ちをつかれた。
ああ、すんません秋津さん、お役に立てなくて。
掴まれたところを撫でながら息を整えていると、秋津さんはスマホを操作して耳に当てていた。誰に電話、なんて馬鹿でもわかる。

「あ、平野──」
「うっせーーっ!!二度と俺に関わんな!テメェなんか絶交だ!ふざけんなバーーカっ!!死ねっ!!」

スピーカーにしてなくても聞こえる平野の大音量に、俺や離れていた周りの奴等もボーゼンとしてしまった。
は、平野ってあんなに怒鳴んの?さっき普通にニコニコしてたけど?
秋津さんは眉間を押さえながら、深いため息をついている。スマホからはツーツーと無情にもコール切れの音しか聞こえてこない。

秋津さんがあんな悩んでいる姿なんて初めて見た。

「〜だ、大丈夫っすよ、秋津さん!平野さんもほら、言ってたじゃないッスか!説得したらどうにかなるかと思ってたとかなんとか!秋津さんがタバコバレした時!だから平野さんってちゃんと話したら気持ち伝わるタイプなんじゃないッスかね!」

いや全然知らねーけど!平野がどんなタイプの人間とか全然考えたことねーけど!
とにかく秋津さんを元気にしたい一心な俺は、持てる限りのボキャブラリーと気遣いで秋津さんを持ち上げた。

「そうか・・・」
「そうッス!えーっと、喧嘩の原因はわかんねッスけど、セーシンセイイ謝れば秋津さんの気持ちきっと伝わるッス!」

覇気はないけどやんわりと秋津さんが笑う。
とりあえず明日学校でいの一番に謝り倒すって事で話はまとまったけど、その日の秋津さんはほぼほぼ脱け殻状態だった。

平野のヤ・ロ・オ!秋津さんにこんな思いをさせるなんてとんでもねー奴だ!早いとこ仲直りして恋人に戻って秋津さんを元に戻しやがれ!平々凡々のくせに秋津さんを振り回すなんてあんな奴!

(やっぱり俺は認めないっ!!)




おわり




喧嘩の理由は溜まり場で無理矢理コトに及ぼうとしたからとかそんな感じ。

小話 108:2019/02/13

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