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※攻めの彼女視点ですがBLです。苦手な方は閲覧注意。



流星の良いところはイケメンなところ。
デートしてる時、マックス15社からスカウトされてたし。でもその中には映画とかドラマにバンバン出てる有名俳優の事務所もあったのに、流星は全部断っちゃう。歌って踊れるアイドル事務所とか入ればいいのに、そういうのに全然興味ないってマジもったいない。
そう、流星って歌もマジうまい。
カラオケとか金払ってもいいレベルだし、文化祭の時軽音楽部に頼まれてバンド組んでボーカルしてたけど超カッコよかった。体育館がライブハウスにジョブチェンした瞬間だった。
そんで運動神経もいい。
学年対抗リレーの時、うちのクラスの陸上部抑えてアンカーになって、やっぱりぶっちぎり一位になったし。皆、流星にバトン渡すためにマジ一生懸命走ったしね。
流星、男女関係なしに人望もあるから。
流星って高スペックイケメンなのに、スクールカーストがん無視して誰とでも平等に話すから、流星ファンはかなり多い。
だから流星と付き合えるってマジどんな神展開?って感じ。
話の流れで流星がフリーって知って、じゃあ彼女にして欲しいって言ったらいいよって。ビックリするくらい簡単に彼女になれちゃって、マジラッキーだった。
けど流星って軽い奴じゃないんだよね。
だってうちらまだキスもしてないもん。付き合って三ヶ月なのに、どんだけピュアだよ。くっついたり手ぇ繋いだりはOKだけど、それ以上はやんわりと「ダメだよ」って空気出される。
だから流星の噂ってマジなのかって思った。
噂ってのは、流星は来るもの拒まず、去るもの追わずらしい、ってやつ。告白した時に彼女がいなかったら彼女にしてくれるし、別れたいって言ったらあっさり別れてくれる。彼女がいるときに告白したら、ちゃんと「今付き合ってる人がいるから」って理由で断るようだし。二股かけたりとかはないし、簡単に手ぇ出さないあたり、ヤリ目じゃないみたいだけど。
でもそれって、何て言うか寂しくない?
流星はきっと、優しいから告白は被らなかったら受け入れてくれる。好きじゃなくても付き合ってくれる。好きじゃないからキスもそれ以上も絶対にない。好きじゃないから簡単に別れてくれる。
歴代の彼女らも絶対に気づいてる。じゃないとこんな高物件、逃すはずがないじゃん。裏を返せば「誰でもいい」って言ってるみたいな流星のスタンスはある意味怖いけど、やっぱり流星カッコいいから、うちは別れるなんて絶対に言わない。って決めてたのに。


「ごめん、別れて欲しいんだ」

いやいや、どんだけ〜〜。
まさかの流星からの別れて発言に、マジ意識ぶっとびそうになった。そんなん言わせるとか、ある意味流星の初めての女じゃね?

「え、な、は??」
「・・・、本当にごめんっ」

頭を下げられるお洒落なカフェ。
イケメンに謝らせてるうちの図に、周りからの変な視線が突き刺さる。いや、うち悪くねーし。むしろフラれてる最中だし。

「うち何かした?」
「・・・何もしてない、って言うか、何もない」

何もないって何だよそれ。流星マジでうちに興味ねーのな。付き合ってくれてるとはいえ、うち、彼女なのに。

「じゃあなんで?うち、別れたくないよ」

引き留める為にちょっと可愛く拗ねるみたいな顔を作ったら、流星、真面目な顔して下向いてた。見てないんかーいってこっちこそ真顔になるわ。

「・・・好きな人が、出来てしまって」

顔をあげない流星が、ちっちゃく言った。
え、え、え、好きな人!?

「は?え、誰?」
「隣のクラスの、宮田君」

意外と流星は簡単にゲロった。
宮田?宮田って誰だっけ?宮田・・・宮田・・・宮田・・・君!?

「は?男?え、流星ホモだったの?」
「さあ。初めて好きになったのが宮田君だっただけ」
「おい。それ今カノに言う台詞じゃねーだろ」
「うん。最低なことを言ってる自覚はあるんだけど、もうどうしたらいいか自分でも解らなくて」
「はあーん?」
「初恋・・・なんだと思う」

しょぼん、としながら流星が肩を縮こませる。
よく見たらうちより白くてきめ細かい肌が、耳まで赤くなっている。いつもは優しく穏やかな線の眉毛も、困ってますと言わんばかりに下がっている。アイスティーに伸ばした手が滑ってコップが倒れると、テーブルの上はびしょ濡れで、すぐにウェイトレスさんが飛んできた。すみません、とテーブルを片付けるウェイトレスさんに謝る、らしくもない流星に目が点になる。流星がヘマするのなんて初めてみた。

え、流星マジなんだ。
マジで流星、初めて好きな人できて、戸惑ってんだ。

ウェイトレスさんが片付け終わってテーブルから離れると、普通の水をチビチビ飲む流星の姿に、恋とは違う意味で、胸がキュッとなって、悲しくなってきた。何て言うんだろう。慈愛?母性?むしょーに流星の初恋を応援してあげたくなってきた謎感情。
お人好しだなぁ、うちって。
はぁ〜〜って深く溜め息をはくと、流星は仔犬みたいにビクって体を揺らして上目遣いで恐る恐るうちを見てきた。やめろ可愛い。

「しょうがないから、別れてあげる」

ぱあっと流星が気持ちを隠しもしないで、晴れやかな顔をした。失礼な奴だ。そんなに嬉しいか。
でも、うちだってそんなに聞き分けのいい子ちゃんじゃない。

「けどね!」

人差し指を流星に向けた。
うちと別れる為の絶対条件だけは飲んでもらわなきゃ、やってられない。

「絶対に宮田君とやらと付き合ってよね。じゃないとうち、報われないじゃん」

ぽかん、とした流星は、うちの言葉の意味を徐々に理解したようで、一番眩しい笑顔で頷いた。

「ありがとう・・・!」

笑う顔は何度か見てきたけど、心からの笑顔ってのは初めて見たのが別れの日ってのは、どうなんだろうか。





──それから。

「全っ然、進展がない」

と、あの日と同じお洒落なカフェで項垂れる流星を前に、うちは温かいミルクティーをチビチビ飲んでいる。
どうやら唯一同性を好きになったとカミングアウト出来たうちを、流星は友達ってか恋愛相談役ってか、とにかく誘っては宮田君との状況を報告してくる。その度に励ましたりアドバイスしたりするうちってばマジ偉くね?健気じゃね?

あれから宮田君を見てみたけど、何て言うか、可もなく不可もなく、普通。流星いわく、笑顔が可愛くて一目惚れしたらしい。あっそ、ふーん。
不思議なことに、強がりじゃなくて、今は普通に流星の恋ばなを聞いて応援してあげてる。相変わらずイケメンで、優しい流星だけど、恋するとちょっと頼りないって知れたのはおもしろい。
うちもうちなりに流星のこと好きだけど、友達に戻ってからの流星の方がずっといい。だから頑張れーって感じ。

うじうじしている流星を尻目に、限定のアップルパイを追加注文しようか店内のポスターをじっと眺めていたら、一面ガラス張りになった向こう側に見たことある姿がのんびり歩いているのを見つけた。

「ん?流星、あっち!あれ!いま本屋から出てきたの宮田君じゃね?」
「え?あ!」
「ゴー!流星ゴー!お茶誘え!」
「うん、あ、お会計」
「いーから!出しとくから!早く行け!!」

申し訳なさそうに詫びながらカフェを出た流星を目で追ってると、さすがの足の速さで簡単に宮田君に追い付いたけど、宮田君、後ろから肩叩かれて超ビビっててマジうける。ビビった宮田君に流星もビビって、二人して何してんの。
でもちょっと話したら二人して同じ方向に歩き出したから、流星ちゃんと誘えたっぽい。やったね流星。良かったね。

・・・もし、流星が宮田君と付き合うようになったら、流星が元カノといつまでも仲良くしてんのって宮田君にとっていい気はしないだろうから、もしその日が来たら、うちはちゃんとフェードアウトするつもり。

「あ、すみませーん。アップルパイひとつ、お願いしまーす」

そんな日が来るのは寂しい気もするけど、流星の初恋が実るのは嬉しいから、応援してあげたい。

あーあ、こんないい女がフリーなんだから、うちにも早く本物の王子様こないかなぁ。
なんて思いつつ、今はアップルパイの登場をわくわくと待つしかない独り身の秋なのであった。



おわり

小話 101:2018/10/14

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