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※全体的に下っぽい。



気持ちだけ盛り上がって、お互い男同士は初めてで、本番が上手く出来ないのが何度も続いた。
それでも若いから血気盛んで、相手の萎えないモノを扱きあったりとビギナーらしく慎ましく処理をしあったり。
けれどそれで満足できるわけもなく。
精力旺盛と言うか、探究熱心と言うか、浅い満足を知れば更なる快感の高みを欲するわけで。ネットもゲイビも一緒に見たりして、今思うと何やってんだって話だけど、俺も瀧本も大真面目で「指どこで曲げんの?こう?」「入んの?俺もこんなんなるの?」って青くなったり赤くなったりの研究会を開いたりして。
だから初めて奥まで繋がって、それだけでも感動なのに、これまでのマッサージの賜物か、中だけの快感でイケたのだから、ハマらないはずがない。

たがしかし。

「いやだ。もうしない」

瀧本の二回目が終わった後、泣いた俺に珍しく眉を下げてきた。

「え、よくない?どっかいてぇの?」

毛布を頭から被ってへたり込んだ俺は静かに首を横に降る。涙がぱたたとシーツに落ちた。
よくないかと問われたら、よい。
痛いかと問われたら、痛くない。
それほどヤって、ヤって、ヤったということだ。ローションや体液でベタベタな下半身は砕けて立てないほどだが、身体はすっかり瀧本に馴れた。

そう、馴れたから、最近の瀧本は好きじゃない。

「会うとヤるばっか」
「え?あ・・・」
「俺、今日はずっと嫌だって言ったのに」
「あー・・・」
「どーせ嫌よ嫌よも好きのうちとか思ってんだろ」
「うっ」
「・・・瀧本、最近、優しくない」

毛布で涙を拭い、隙間から瀧本を睨んだ。
言葉につまった瀧本が目をそらすのは、身に覚えがありすぎるからだろう。むしろ無いとは言わせない。

「上手く出来なかった時は、俺の身体の心配とかしてくれたのに、出来るようになってから、遠慮なしっていうか、そりゃ俺も出来て嬉しいけど、だからって、毎回すんの、違うと思う」
「・・・や、あのな、菅」
「しばらくヤんない」

そのままベッドに倒れ込めば、長時間の無理な体勢が祟って腰に違和感が走った。もう徹底的に全身揉みほぐしマッサージ受けたい。整体にも行きたい。あと普通に疲れた。
事の最中はエンドルフィンとかドーパミンのせいで気にもしないどころか気持ちいけど、やっぱり負担は受け入れる側の俺にかかる。
寝たい、でも風呂に入りたい、けど疲れた。頭の中、それだけだ。

「は!?しばらくってどんくらいだよ!?」
「そういうの聞くところが嫌だっつーの!」

ごめんな、わかった、体と気持ちが落ち着くまで待ってる、くらい言えねぇのかバカ野郎!
体に鞭うつ間もなく怒りの反動で起き上がると、瀧本のバカ野郎に枕を投げつけた。柔らかいから痛くないだろうけど、顔面にもろヒット。

「いつでも出来るとか思ってんじゃねぇぞ!」

風呂場に逃げ込み熱いシャワーを勢いよく浴びてると、しばらくして玄関からガチャンと音がした。
・・・帰った?
ここで急いで出ていくほど、俺の怒りはまだ落ち着いてなくて、排水溝にベタつきと涙も一緒に流した頃に部屋に戻れば、やはり瀧本はもういなかった。
シーツは取り替えられていて、使用済みは洗濯機に突っ込まれたまま。まぁ俺がシャワー使ってたから、さすがに洗えよとは言わないけどさ。置き手紙もメールもなし。新しいシーツは冷たい。

「・・・ムカつく」

この件に関して、俺は一切謝らない。
なんだか「私の体だけが目当てなの?」っていう女みたいだし、そうじゃないって解ってるけど、俺は絶対に謝らない。

そう決めた6日後。
帰ろうとしていた足が止まった。大学の門のところに瀧本がいたからだ。
自慢のバイクに跨がったまま長い足を放り出してスマホを弄る瀧本の姿を、すれ違う女子がじっとり見ている。
それも何だか面白くなくて、回れ右しようとした途端に顔を上げた瀧本と目があった。何でこのタイミングで顔上げんだよ。ここで逃げたら負けな気がして、そもそも俺悪くないんだしと開き直って、素通りしようとしたら、瀧本にメットを投げられた。
反射的に受け取ってしまった両手が憎い。

「乗れ」
「・・・」
「デートするぞ」

・・なんだか久々に聞く単語を瀧本が発した。

「・・・なんで」
「恋人はデートするもんだろが」
「デートしたあと、すんの?」

あ、今の意地の悪い言い方だったかも。
顔面を片手で押さえた瀧本が、はぁぁ、と深いため息をついた。

「マジか、そんな信用なくなったか」
「そうだね」
「あ〜、自業自得ってやつだけど・・・さすがに・・・」

ぶつくさ言ってる瀧本からは、多少なり反省の色は見える。謝罪の言葉はないけれど。

「なに、どこ行くの」
「海」
「海。冬に」
「恋人のデートは海だろが」

そうだろうか。
ヘルメットを持ったまま複雑な顔をした俺に、いいから乗れよと瀧本は促した。仕方なしに後ろに跨がると、無理矢理手を掴まれて前に回される。くっつくのも瀧本の腹に回った手に力を込めるのも、全部仕方ないことだ。


冬の海は人がいない。
そして寒い。潮風がきつい。恋人のデートは海説が覆った瞬間である。
さすがに砂浜までは行かず、散歩コースとして開拓している場所に出る。凸型に突出した先端には少し錆びた望遠鏡が鎮座して、同じく錆色の覗く手摺に両肘をついてから海をぼんやりと眺めた。海鳥すら飛んでいない。
話す事もなく、波間を行ったり来たりしているゴミをじっと見ていたら俺の後ろから覆い被さってきた瀧本が両手を握ってきた。
普通に接触してくる瀧本に、なんだの意味を込めて無言で胸板に後頭部を思いきりぶつけてやると「ぐっ」と低く唸ってちょっと気分がいい。

「・・・あのさ、俺、確かに菅と出来るようになってからヤりまくってたと思う。ごめん」

俺の肩口に額をぶつけ、謝ってきた瀧本はそれっきり顔を上げない。

「でも調子のってるとか、ヤりたいだけじゃなくて、菅が好きだから、菅とだからしたいんであって、菅、いつも良さそうな顔してるから、あー気持ちいいんだなーって、菅の体のこと解った気になってた。それでも気配りは出来てなかったよな。そこも、ごめん」

更にうりうりと額を擦り付けてくる。
これはかなり弱っている証拠だ。

「・・・女々しい事を言うようだけどさ、受け身としてはヤり過ぎると逆に不安になるんだよ。するのが気持ちいいからヤってるだけかなーとか、そういう捌け口に感じるっつーか」
「そりゃあ、好きなやつとすんのは気持ちいいだろ」
「毎回だし」
「耐えてた期間が長すぎたから」
「・・・瀧本が俺に飽きて、他の人のとこに行ったらどうしようとか実は思ってた」
「はぁ?な訳ねぇし!」
「うるさっ!」

俺の肩から顔をあげた瀧本が吠えたが、そこはちょうど俺の耳だ。しかも瀧本の手に力がこもって、俺の両手に圧力がかかる。

「瀧本、ちょっと手、離して」
「あ、わり、痛かっ──」

パッと離してくれたのと同時にくるりと反転して、瀧本の胸に抱き付いた。
一瞬、その体が強張ったのが伝わった。
解っていたけど、なんてことない、結局この男はただ俺が好きでじゃれついていただけなのだ。

「ごめん、ありがと、すき」



「・・・ちゃんと反省した上での発言なんだけど」

人気がないのを良いことに、しばらくその体勢のまま海が波打つ音を聞いていると、瀧本がポツリと呟いた。
顔をあげると、赤い顔をした瀧本が、じっと俺を見下ろしていた。

「ん?」
「これはもう、お互いの愛情を再確認しとくべきじゃねぇか?」
「・・・」


それから。
世間が言う仲直りエッチがめちゃくちゃ燃えると言うのを初めて体験してしまい、さらに気配りがおかしなベクトルに向いた瀧本は、逐一現状の説明や俺の感想を聞き出すという変な言葉攻めを覚えてしまった。

「ここ、こうすると中が締まって──」
「ぃあっ、ま、待って、それ、もう嫌」
「嫌?ん、じゃあ今日はもう止めっか」
「え」
「ん?」
「あ〜〜」

俺の幸せな悩みは尽きそうにない。



おわり



結局ただイチャイチャしてるだけってゆーね!

小話 100:2018/09/27

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