04
――すべての約束は果たされなかった。
彼は自分でスマートフォンを返してくれなかった。ミクトランを案内される日は、永遠にやってこない。
少女はあの日デイビットからスマートフォンを託されたのだ。どうして、なんで、と驚きのあまり固まっていると、中を見ろとだけ告げたデイビットは足早に立ち去っていく。
きっとあの人は、テスカトリポカはここにくることはないのだろう。なぜかそう思えてしまった少女はぽろり、と涙をこぼしながらスマートフォンのロックを外す。文字化けが直って時間や日付が見えたが、それはここに来たときから一秒たりとも進んでいないことにぞっとした。
それに気が付いた瞬間めまいに襲われ、ぎゅっと目を瞑ってめまいが治まるまで待つ。
目を開くと、あれほどまでに焦がれていた元通りの日常が戻ってきていた。帰ってこられたという安心感と、とてつもないほどの喪失観に号泣しながら登校すれば、友人たちが口々に慰めてくれた。少女にとっては友人に合うのも久しぶりで、それだけでまた泣けてきてしまうのだ。
それからというものテスカトリポカや、マヤ・アステカに関する書物を読み漁るようになり、関わったテスカトリポカがあまりにも強大な存在だったことに自分の不敬すぎる態度でよく殺されなかったな、なんて少女はぼんやりと考え込むことになる。
また会いたいとは口が裂けても言えない。過去の、それこそ神と出会うなんて、叶うはずのない夢だ。早く忘れてしまいたいと願うのに、スマートフォンに収められた彼の動画が少女の心を締め付ける。
――また会おう、なんて。叶うはずのない願いを抱いたのはお互い様か。
お金を貯めたら南米に行って、彼のいた土地を見ればこのまとまらない気持ちに整理は付くのかな、と甘いため息を付いた。
そろそろ図書館も閉まってしまう。読みかけのマヤ・アステカ文明の本は借りて帰ろうと椅子から立ち上がったら、くらりと立ち眩みがした。前も似たようなことがあったなあと苦笑して目を開けば、先ほどとは全然違う場所に少女は立っていた。
もしかして!と期待を込めながら辺りを見渡すも近代の建物にしか見えず、外はジャングルでもないためミクトランではなさそう、と肩を落とす。いつも影を追いかけている金髪の彼がここにいたらいいのに、なんて淡い期待を抱いては頭を振って誤魔化した。
ここはどこなんだろう……と不安をひた隠し少女はさ迷い歩く。