少女は森で迷う
ミスティックアイズシンフォニーイベントのネタバレ有。
鬼の居ぬ間に、というわけではないけれど、少女はこっそりと部屋を抜け出して図書館に向かおうとしていた。きょろきょろと辺りを見渡しつつ慣れたように廊下を歩いていたが、突然建物が激しく揺れ、少女は転ばないようにしゃがみこんでぎゅっと目を瞑る。
揺れが収まって恐る恐る目を開けばそこはまるで森の中のようで、またミクトランに辿り着いてしまったのか、と少女は一気に不安になった。けれど建物自体は変わらないようでほっと安堵しつつ、図書館に向かうドアを開ければ、そこは少女にとって全くの知らない空間で。え……と声を漏らしつつ少女はドアを閉じる。
「ど、どこ……?」
どっと冷や汗が流れる。男に部屋を抜け出したことがばれたら、またお仕置きをされてしまう。それだけは避けたい。けれど元に戻ろうにもまた見知らぬ空間につながっており、少女はどこにも行けずじまい。
――それはまるで少女の未来を暗示しているようで、勝手に体が震えだす。
少しでも不安を解消したくて、少女は男からプレゼントされたチョーカーを手でなぞる。確か迷子になった時はうろちょろせずにその場にとどまるのがよかったんだよね……?と、少女はテレビかネットで得た知識を実践することにした。体力を温存できるように座り心地の良い木の根に腰掛ける。
「テスカトリポカ……探してくれるかなぁ……」
無断で部屋を出てしまったバチが当たってしまったのか。ぎゅっと膝を抱え、少女は一人ぼっちの寂しさをどうにか紛らわそうとした。
どれだけの時間そうしていたかわからないが、少女はだんだんと気分が悪くなってきて体にうまく力が入らなくなってくる。気持ちが悪い。頭が痛い。そんな突然の不調に襲われ、少女はとうとう涙をこぼした。
異世界での体調不良は恐ろしい事なのだと、少女は男によって教え込まれていたのだ。
死んじゃうのかな、と最悪な状況が頭を過ぎり、ぼろぼろと涙を流しながら少女は縋るように呟いた。
「助けて、テスカトリポカ……」
――己が身を囲い誘う、男の名を。