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04



 次の日の朝というよりも昼過ぎに少女は目を覚まし、昨夜のことを思い出して顔を真っ赤に染め上げる。横でその様子をにやにやと観察する男の胸元に輝く、少女が付けたキスマーク。
 すべてが少女の羞恥心を煽り男のもとから逃げ出そうとするも、全身が気怠くてベッドの上から動けそうもなかった。それもそのはず。あれだけ激しく愛された体は体力をかなり消耗しているだろう。


「おはようさん、なまえ」

「お、おはよう。テスカトリポカ」


 一切合切男と視線を合わせようとしない少女に、男もこの時はまあ仕方ないか、と軽く考えていたのだ。あんなにも乱れた自分は初めてだっただろうと、男を求めて甘く啼いたことを自覚してただただ恥ずかしがっているのだろうと。

 ――しかし、その状態が数日続いてしまえば流石に、男の堪忍袋の緒も切れてしまうというもので。


「ねえ、最近テスカトリポカと一緒に居ないけど、なんで避けてるの?」


 純粋な立香の疑問に、少女は顔を真っ赤にして狼狽える。それを見て一瞬で何かあったなと察してしまった少女は、なんとかして少女を言いくるめないと、と決意した。
 最近の男はかなり不機嫌で周りに当たり散らしている。少女が視線に入る場所ではその様子を見せる事はないが、少女がいなくなった途端の雰囲気が周囲に怯えを与えてしまうもので。とてもぴりついた雰囲気を醸し出しており、冗談一つ言おうものなら心臓を撃ち抜かれてしまうだろう。
 原因が少女にある事は丸わかりの為、こうして事情聴取に駆り出された立香だったが、これに首を突っ込むとよくないのでは……?と本能で悟ってしまう。恐らく痴話げんかみたいなもの。馬に蹴られてなんとやら、になるのでは……?


「え、えっと、ちょっと恥ずかしくて。顔を合わせづらいの」

「何があったか聞いてもいい?」


 その言葉にぶんぶんと首を振って拒絶し、じわじわと羞恥の涙がにじんでいく少女に立香はぎょっと目を向いてしまう。まずい、これをテスカトリポカに見られたら殺される……!と焦るばかりで何も解決策は思い浮かばない。


「い、言えない……! 私がその、ただ、テスカトリポカを見られないだけで……」

「なあ、お嬢。無理やり秘密を暴くのは良くねえだろ」

「テ、テスカトリポカ!」

「なまえもなまえだ。恥ずかしいってだけでどれだけオレを避け続ける。流石のオレも傷つくってモンだ」

「ご、ごめんなさい……」


 男の怒りが一瞬立香に向けられてひゅっと息が漏れるも、すぐにその対象は少女へと移り変わる。しかし少女に怒りが向けられるのもまずい、と立香は二人を監視するが、男の瞳は甘く柔らかなものに変貌して腰を抜かしそうになった。
 ちらり、と視線を向けられ――その視線自体は甘さもない冷たいものだったが――立香はその意味をしっかりと理解しその場から立ち去る。


「好きな女に避けられるオレの気持ちを考えろ。オマエの二の舞になるところだったぜ」

「あ……。ごめん、なさい……。悪気はなくて、ただ、テスカトリポカを見るとあの夜を思い出して、どうしようもなくなっちゃって」

「もういい。理解したようだしな。だが、もちろん詫びは入れてもらおうか」


 少女も男が帰って来ない事に寂しさを抱えていた。それと同じことを――しかも同じ場所にいるというのに――男に味わわせてしまうところだったと反省する。お詫びは何をしたらいいのだろう、と不安に思い眉を下げ男を見上げれば、はあ、とため息をついた男がこつんと額を合わせてきた。


「オレが無理難題を強いると思ったか? 今日からは一緒のベッドで寝てもらう。後は……そうだな、明日は一日一緒に居てもらおうか」

「そんなことでいいの……?」

「そんなこと、ねえ……。ならもっと吹っ掛けてやろうか」

「ううん! それがいいです! ありがとう、テスカトリポカ。大好き!」

「はいはい、オレも愛しているぜ」


 絶対に逃がすまいと少女の体を抱き上げて、男は部屋へと歩みを進める。
 いつものようにいちゃつきながら二人が一緒に居るところを目撃した立香はほっと胸を撫で下ろした。これで男の不機嫌も解消するだろう、と口元を綻ばせ踵を返す。
 きっちりとその様子まで観察していた男は、変に少女への関わりを増やさないように気を付けないといけねえな。と少々反省しつつも、久しぶりに少女の唇に触れて満足そうに口角を上げるのだった。





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