可能性


一限目が始まる十数分前。あくびを噛み殺すことなくくぁ、と大きく口を開いた。

親にも少し良い方法がないかちょっと相談してみたけど「団員ってたくさん人数いるし、もっと細かい情報無いと困らない?」と言われて納得した。日本人では恐らくないといっても、それでも山程いるし。

もう少し、探し方を変えた方がいいかもしんねぇなぁ。悩みだすと思わず一つため息。
俯きながらスケートボードを滑らせていたら、横ふとで誰かが歩いてる気配がして上を向く。

「やぁやぁスケートボードに乗った可愛い子ちゃん。一体何に悩んでいるんだい?」
「げっ、梶原……」

そこにいたのは俺よりも身長のでかい……女子。一応女子だ。バーテンダーの服を着てにこにこと笑っている梶原が横を歩いている。

「げっ、とは酷いなぁ那智くん。悩んでいたみたいだから声をかけたのに」
「お前は声の掛け方がむかつくんだよ。なんだよ可愛い子ちゃんって。女子にやれよ」
「いやいや、もちろん女の子にもやるよ?ただ那智くんも可愛いからつい言っちゃうんだ。可愛いは正義だよ那智くん」
「可愛い可愛い連呼してんじゃねえ!」
「いたいいたい!!」

梶原のすねを思いっきり蹴ってやる。こいつと初めて会ったのも今みたいに声をかけられてからだが、声を掛けた理由が可愛かったからと言うなんともむかつく理由だ。このナンパ女が。
なんで俺の周りにはナンパ好きが多いのか。梶原を見ていたら一人の親友が浮かんできた。知り合いなのかはしらねぇけどこいつら話したら絶対気が合うだろ。

「え、どうしたんだい那智くん、私の顔をじっとみちゃってさ。思わず見とれちゃった?」
「誰が見とれるか!」
「嫌だなぁ、冗談じゃないか」

へらへらっと笑う梶原にむかついてもう一発すねを蹴ってやる。見事に弁慶の泣き所に当たったようで、地面に座り込み膝を抱えながら悶え出した。ざまあみろ。
このまま行ってやろうかと思ったけど、ふとこいつは女の知り合いが多いのを思い出した。あと確か……討伐団の奴と仲がいいって話を聞いた気がする。

「おい梶原」
「私が痛みに悶えてることに謝ってはくれないんだね那智くん……っ」
「それは梶原が悪いからな。つかお前討伐団に知り合いいるよな。そいつと仲良いのか?」
「…………えっ?」

膝を抱えていた梶原はぴしりっと固まって、俺を見上げた。その表情はなんかこう……言葉に言い表しにくい、笑ってるのか引きつってるのかよくわからない顔だった。
慌てたように立ち上がってこほんこほんと咳払いを始める梶原。何してんだこいつ。

「うん、いや、まあまあ、確かに知り合いはいるよ?確かにいるけれどそのほら仲がいいかと聞かれるとねうん。いやいや仲が悪いわけじゃないし寧ろって感じだけど……いや別に変な意味じゃ、」
「……何慌ててんだよ」
「うん?何を言っているんだい那智くん?私はこれっぽっちも慌ててないよいつも通りだよ全然何も変わってないよ?別に響明さんのことで特に慌ててるわけじゃないよ。慌ててないからね?」
「分かったから俺に話をさせろ梶原!」

俺が怒鳴ったことで口を動かすのをやめて、どこかぼけっとした感じに「ああ、うん」と返された。
確かにいつもよく喋る奴だと思っていたけど、今は妙に早口だしこっちが口を挟むタイミングがわからない。多分討伐団の知り合いは「響明さん」とやらなんだろうが、本当なんだこの慌てよう。昨日の郁さんみたいな聞いちゃいけない感じではない。けど、これは聞いたらめんどくさいやつだ絶対。

「ええっと、それで那智くんはどうしてそんなことを聞くんだい?」
「いや……頼み事出来る知り合いいんなら、人探しの手伝いしてもらおうと思っただけなんだが…」
「ああ、なんだ。そんなことか。那智くんまでもが私をこの話題でいじめてくるのかと思ったじゃないか。もう優真くんでいっぱいいっぱいなんだよ私は」

はぁあっ、と珍しくため息をつく梶原。この話題っつーのがどの話題なのかは、慌てっぷりからなんとなく察しが付いてきたけど突っ込んで聞いたらめんどくさそうだからやめとこう。

落ち着きを取り戻してきた梶原は、腕を組み手の甲を口に当てて、人探し……と呟いて唸り出した。こいつがこういうポーズをすると、女子なのに妙に様になっている。しかも着ている服はバーテンダーの服だし。
何か名案が浮かんだのか、そうだ!と大きく声を出してにっこりと俺に笑いかけた。

「人を探しているなら、うちの店長にも聞いてみようか?」
「店長?バーのか?」
「いやいや、カフェだよ那智くん。ほら、学院の近くにツバメの巣ってカフェがあるじゃないか」
「ああ、劉院とかがバイトしてる」

主に学院の奴らがバイトしてるカフェがあるのは知っていた。けどそうか、こいつあそこでも働いてんのか。……バー以外にも雑貨屋でもバイトしているとか言ってた気がするけど、梶原はいくつバイト掛け持ちしてんだ……。
目の前にいる奴が少し心配になってきたけれど、梶原はそれには気づかずに話を進めていく。

「そうそう。そこの店長が結構色んな人と顔見知りっぽいからね。特徴とか性格を教えてくれたらもしかしたら見つかるかもしれないよ。那智くんはどんな人を探しているんだい?」
「いや、俺じゃなくて……」

「那智!」

梶原に探している本人の名前を言おうとしたら、聞き慣れた声が俺を呼んだ。声がした方へ顔を向けると、レティとフィオナが少し小走りでこっちにきている。フィオナはレティに手を引かれて走っている感じに見えるな……。
俺を呼んだのはレティのほうだな、と思いつつ、丁度人を探している本人のフィオナがきた。と梶原に言おうとした。

……けど、梶原はぱあっとあからさまに喜んでいる表情をして二人を見ている。俺は眼中に無いみたいだ。別にいいけど、なんだこの敗北感。

「おはようございます那智。それに龍樹」
「…お、おはよう……」
「やぁやぁおはようレティちゃんにフィオナちゃん!二人とも見るたび可愛さが増して驚いちゃうよ」
「えっ、えっと……」
「……龍樹、そういうのはある馬鹿を思い出すのでやめてもらえません?」

額に手を当てて、少しため息をつくレティ。ある馬鹿というのは多分俺が梶原を見て思いついた奴と同じだろう。
やっぱり思い出すよな。と心の中で同意しといた。

しかし、梶原はレティのその反応をみてにこーっと楽しそうな笑みを浮かべた。

「すぐに思い出すだなんて、レティちゃんは本当に彼氏くんが好きなんだねー」
「なっ!?ち、がいますわよ!!」
「あれ。違うの?そうか大好きだったねごめんごめん」
「お黙りなさい龍樹!!」

顔を真っ赤にして怒鳴るレティを楽しげに煽る梶原。お前さっきそういう話題でいじられるの嫌だみたいなニュアンスのこと言ってた癖に他人にはやるんだな……。とぼんやりと眺める。
フィオナは相変わらずオロオロとしているから、あんま気にすんなと声をかける。表情はいつも通り不安げだった。

つか本人来たからフィオナの話してやりたいのに、いつまで続けるつもりなんだ梶原のやつ。

「怒るレティちゃんも可愛いなぁ。彼氏くんがめろめろになるのもとてもよくわかるよ」
「少し!!お黙りになったら!!!どうなんですの!!」
「照れて真っ赤になってるレティちゃんも可愛いよ。もうずっと見ていたいな」
「からかうのもいい加減にして欲しいですわ!」
「そうだぜ梶原。レティからかってねぇで俺の話聞けよ」

俺の言葉にやっと反応して、あぁごめんごめんと満足そうな笑顔を見せてきた。……なんか、中々の変態だなこいつと思えざるを得ない。
真っ赤になって頬を膨らませ拗ねているレティは置いといて、人探しのメインであるフィオナを指差す。

「人探してんのはこいつなんだよ」
「な、那智……!?」
「あ、フィオナちゃんが探していたのか!私も協力させてもらうからどんな人か教えてくれないかい?」
「そ、そんな……!私、なんかのことに……きょ、うりょく……なんて……」

いつも通り申し訳なさそうに、ぼそりぼそりと小さく呟く。しかも相変わらずの「私なんか」だ。いつになったらこの考え方なおんだよこいつ。

「あーもう!早く見つけたいんだろ!気にすんなよ!!」
「う……っし、しかし……」
「私が手伝いたいだけだからさ。あ、お礼ならフィオナちゃんを抱きしめさせてもらえたら」
「フィオナに触らないでくれます!」

梶原からフィオナをばっと離して、庇うように抱きしめるレティ。それを見て梶原はふにゃっとした顔で「もう本当可愛いなぁ」と呟いた。
いや、お前完全警戒されてるけどいいのかそれは。

「まあとにかく、どんな人か教えてもらえないかい?性格とかさ」
「せい、かく……。
………私、なんかの……命を助けてくれた…優しい人で、…強い人…だ……」

ぽつりぽつりと言うフィオナは、その人の説明をするだけで嬉しそうだった。性格なんか分かるまで会話をしていないらしいのに、その言葉は確信を持って言っていた。
自分の恩人はそうであって欲しいとかの願望じゃなくて、絶対だと言っているみたいだ。

梶原はそれを聞いてなるほど……と頷き、容姿の質問を始めた。なんだかんだで真面目に探す気はあるんだなこいつ……。

レティと俺でフィオナの説明が終わるのを待っていたら、後ろから「はよっ」と声がかかって振り向いた。そこには眠たげな淳史と……梶原のチームメイトの高良が立っていた。

「おはようございますお二人とも」
「はよっ…つーか、なんで一緒に登校してんだお前ら」
「倫太郎は俺と同じアパートに住んでんだよ」
「淳史には勉強を教える代わりに戦い方についてよく教えてもらっている」
「あれ?倫ちゃんおはよー」

フィオナの話が終わったのか、こっちにチームの高良がいることに気付き、ひらひらと手を振る梶原。それに対して高良はおはよう。倫ちゃんと呼ぶなと返した。温度差が凄いな……。
少しの間、梶原が淳史と高良を眺める。と、突然ふっと笑い出した。

「さほど年変わらないのに、淳史くんと倫ちゃんが来ただけでここの平均年齢上がった気がする…!」
「老けてるっていいたいのか梶原!!」
「いやいや、大人びていると…」
「そんなことより龍樹。その格好…貴様また徹夜してきたな」
「あっればれちゃった?倫ちゃんが怖いから私もう行くね。じゃあね四人とも、店長に話はつけておくよー!」
「あ、こら逃げるな龍樹!!」

だっと走り出した梶原をそのまま追いかけて行く高良。まるで嵐が去って行った気分だ。
俺とレティは梶原がいなくなったことに、はぁとため息をつく。淳史は今来たばかりだからか状況がいまいち理解出来ていない。

ただ、フィオナは探し人が見つかる可能性が増えたことで、明らかにいつもと違う表情をしていた。




近づく希望

(その人がみつかったら、こいつの性格少しは前向きになったらいいな)

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