自己紹介


俺とレティを「痴話喧嘩している」と言った奴は、俺達を指さしていち、に、さんし……ご?と数を数えて首を傾げていた。

「もう和馬!先輩を指さすなんて失礼なことしないの!」
「1人多いのすげえ気になんね?え、このうち誰か実は守護霊的な?」
「発想が馬鹿」
「こらこら、碧もそういうこと言わないの〜」

女子達に注意される男子二人に、なんとなく関係性が見えてくる。
話を聞いている俺達……というか、凪は心底申し訳なさそうな顔をしながら淳史の影に隠れた。それを見ていた一人が確信を得たような顔をして、冷めたような口調の男子に耳打ちをしている。

「ほら碧俺のこと馬鹿って言ったけど見てみろ、絶対あの二人のどっちかがあの人の守護霊だって」
「守護霊があんな顔で隠れてどうするんだバ和馬」
「あ!お前!またそうやって俺の呼びやすいあだ名増やして!」
「耳元でうるさい……」

やいやいと騒いでいる様子をどうしたもんかと眺めていると、全チームを呼び終えた櫻井先生の声がメガホンで少し大きめに流れてきた。

「それじゃあ演習の場所に移動するぞー、今回はチームの組み合わせはこちらから発表したが、次回からは自分達で組んでもらうからな。移動する間に各自自己紹介など済ませておくように。移動するぞー」

櫻井先生の合図によって、大人数がぞろぞろと移動を始める。

「取りあえず俺達も移動しながら名乗ろうぜ、俺は五十嵐那智。チーム五十嵐のリーダーで能力は水色だ。竜巻とかを纏って突撃する感じの戦い方してる。……で、ややこしいから一応先に紹介させてもらうぜ凪」

凪に声をかけると、びくりと肩を跳ねさせてからわかりやすくあわあわとした身振り手振りをしている。
何も言わずに焦ってメモを書き始める様子に、四人が不思議そうに見ている。

「こいつ喋れねぇんだよ。佐倉凪、俺達チーム五十嵐とは別のチーム出雲ってところの奴で……あーまぁ、特別措置みたいなので今日は一緒に行動する感じだ」
『佐倉凪です、よろしくお願いします。能力は赤です。タガー使っています』
「見ての通り基本は筆談。俺はなんとなく身振りで言いたいことわからなくもないから凪は基本俺と一緒に行動するからよろしくな」
「えぇ、守護霊じゃないのか…」
「そこかよ!」
『普通の人間でごめんね……』

あからさまにがっかり、という様子をされて思わず凪も謝ってしまっている。
しかし向こう側は特別措置とかしゃべれないことに対してとか、それ以上追求する様子もないようでほっと凪は胸をなで下ろしていた。

「で、凪がさっきから盾にしている奴が…」
「京極淳史だ、今日はよろしく頼む。俺は能力は持っていないから剣と肉弾戦で戦っている」

淳史の能力が無いという言葉に、「碧」と呼ばれていた男子がぴくりと反応を示した。
じっと淳史を見つめ始めていて、淳史もそれに気付いて不思議そうに首を傾げたが特に何かアクションが起きることも無かったので淳史が「次はフィオナ、いけるか?」と声をかけた。

「ふぃ、フィオナ……です。その、……よろ、しく」
「能力も言った方がいいぞ」
「あ…、ええと……青、き、む…ええ、と…むらさき、です」
「悪いな、フィオナは日本語話すのまだ苦手なんだ。能力の使い方は俺達の中で一番上手いのと色々できるけど、説明は……難しいかフィオナ?」
「すまない……」
「謝るのだけメチャクチャ流暢にいってるっすけど」

言い慣れてしまってるからなぁ、という心の声が俺達の中で一致してしまう。
最後にレティの方を見ると、少しだけ先に前に出てスカートの裾を片側だけ広げ、もう片方の手は胸に当てて頭を下げた。

「レイティア=アディアス=イグレシアスですわ。どうぞレティとお呼びになって。能力は緑で、弓使いですわ」
「えっっめっちゃ貴族」
「すごい!お人形さんみたい!」

わぁ、と二人が盛り上がってレティが頭を上げた。
茶髪の女子がきゃあきゃあといいながらレティの方へ駆け寄った。

「レティさんすっごく綺麗!髪のお手入れとかお化粧とかってどういう風にしてるの!お洋服もドレスみたいで可愛い〜!」
「お褒め頂き光栄ですわ。演習が終わったあとでよければお話しましょう。えぇ…っと」
「あ、ごめんね。私南条愛里紗。レティさん何度か年齢別で見かけたからきっと同じ17歳だと思うんだけど私同い年の女の子の友達まだいなくて仲良くなってくれたら嬉しいなって……」

レティの手を握って一気に喋っていた女子……南条はぴたっと突然とまり、みるみると顔を赤くしてからレティの手を離して大きく手を上下左右に動かし出した。

「あっ!ごめんねいきなり!違うのここに友達を作りにきたとかじゃないし通うからにはちゃんと真面目に討伐団目指してがんばろうと思ってるけどほらそのね!あのね!」
「愛里紗ぁ〜、誰も何も言ってねぇから落ち着けって」
「うぅ…勝手に自己紹介も始めてごめんね……」
「というわけで先に名乗りとられたチーム東西南北リーダーの北川和馬っす」
「もぉ和馬!慰めるなら最後までちゃんとしてよぉ!」

南条が真っ赤になりながら北川の事を軽く叩く。
いや軽くじゃなくて結構べしべしといい音がするから割と痛い奴だなあれ。

「二人とも元気でしょ〜?私は東西梨理でーす。で、こっちが弟の」
「……東西碧、よろしく」

東西弟はそれだけいって頭を軽く下げてから何もいわなくなった。。
北川に比べてかなり口数がすくないのと、東西姉の方は話し終わるまでがのんびりとしていて南条とのバランスがすごいな……。

「東西って呼ばれるとややこしいし名前で呼んでね〜、碧もその方がいいでしょ?」
「姉さんがそれでいいなら俺は別に」
「あ、じゃあ俺も俺も。名前で呼んで欲しいっす。あと名前で呼んでいい?」
「わ、私も私も!名前で呼んだ方が仲良くなれると思うし!」
「名前で呼んでもいいからお前等能力か戦闘の仕方を言え!!」

はいはいはい、と元気よく手を上げて言い出すチーム東西南北に思わず叫んでしまう。
元気なのも仲良くするのも俺は構わねぇがせめて能力名乗ってくれ!

「なるほど確かに。えー俺は茶と水で、戦闘の仕方は今のところまだちゃんと決まって無くてとりあえず学院から短剣借りてる。能力の使い方はん〜〜…今のところ得意なのはレーダー的なやりかた?FPSのミニマップ的な」
「えふぴー……なんですの?」

レティとフィオナ、淳史の頭に「?」が付いている状態になっている。
俺は何となくあれか、みたいなところはあるが三人は全くピンと来ていないようでそれの説明にうーんと和馬が唸った。

「こう、能力つかったらばーって感じで回りのふいんきとか何か生き物とかいたら分かる」
「……地形把握と周囲の生命反応の感知が出来る」
「そー!それ!!さっすが碧いい感じにまとめてくれるぅ〜」
「うざい、あと雰囲気だ」

碧にだるがらみをしていく和馬が一蹴される。最後に訂正されたことはよくわからないのか「ん???」と聞き返しているが、碧はそれ以上は喋るつもりが無いしく無視を決め込んでいた。

「えっと、私は赤の能力で一応ちょっと小さい火の玉が出せて…それを飛ばしてって感じかな…。まだちょっと命中とか上手くできないけど数はそこそこ出せるようにはなってるから!」

二人の話を聞いて、まだそこまで戦闘の仕方がはっきりと決まっていない事に少しだけ不安にはなってくる。
ここで東西姉弟もどうなるかなと少し悩む。そこまで俺も上手に人に教えられるわけでもないしなぁ……。

「私はねぇ、能力を使うときはこれで戦うよ〜」

梨理が取り出したのは30cm程の杖だった。
杖の先端には緑色の宝石が埋め込まれて、それを囲うように装飾されている。

「杖の増幅器ですわね」
「あ、ううん違うの。これね〜、杖じゃなくてこうやって使うの」

えい、と軽くゆるく言った梨理の声と同時に杖の先端に一気に植物か絡まった。
ものの1秒もしないうちに、先端にあった宝石を中心に植物ががっちりと固まって杖と言うにはあまりにも凶悪な雰囲気になった。

「……鈍器じゃねぇか…」
「え〜っと、碧ーこれなんていったけ?」
「メイス。棍棒系統の武器だ姉さん」
「そうそう、緑の能力はこれでえーいって感じでするの。後はね水色の能力もあるよ〜。ちょっとした風で太めの枝とかなら切れるから、中距離か近距離も私はどっちでも大丈夫だからね那智くん」
「え、あ、はい」

柔らかく笑う姿と、手に持っている鈍器やはっきりとした戦闘方法だったり自分の立ち位置を伝える戦闘慣れしていそうなギャップにびびる。
……なんとなく、俺よりも強い気がしなくもない雰囲気だった。というか、勘だけど多分強いなこの人……。

「ほら次は碧だよ」
「……俺は能力がないから、銃で戦う」
「ああ、だから俺の能力のこと聞いて見てたのか」

やっと腑に落ちた顔をした淳史。淳史の言葉に、こくりと無言で碧は頷いた。

「確かに能力無い奴はそんなにいないからなこの学院」
「……寧ろ俺以外にいると思っていなかった」
「そんな極端な発想によくなったな……」
「会わなかったからな」

素っ気なく言う碧に、淳史は「まあ気持ちは分かる」と頷いていた。
大体の奴が戦闘の話になると能力から聞くところあるしな……。俺もだけど。

「そのでかい銃で戦うんだよな?」
「スナイパーライフルだ。命中率なら自信がある」
「あとね、碧は体術も一通りできるよ〜」
「姉さんの方ができる」

……東西姉弟スペック高ぇな?
二人とも戦闘慣れしている感じなのはなんとなく伝わってきた。緊張もまるでしていない感じもあるし……。

「四人は魔物を見たことはあるのか?」
「俺と愛里紗は昔魔物に襲われたから、まあ見たことはあるっちゃあるな」
「俺は倒したことある」
「倒した!?」
「あ〜、家がねお山一個もってるんだけどね。いのししさんかな〜って思ってたら魔物だったらしいの。私も何回か倒したことあったよ〜、見かける度に一応討伐団さんに連絡してたなぁ」
「えっ、まて碧に梨理さん俺もそれ初耳なんだけど!?」
「言ってない」

和馬に対してだけやたらと冷たい碧の態度になんだよぉ!と文句をいっている。
それはまあ置いといて……。倒したことがあるというのと、家の山……?

「あ、ご先祖様の土地なだけで大きなお家じゃないよぉ」
「那智騙されるな、この二人の家くそでかい道場で親父さんはむっきむきの人だったぞ」
「むっきむきの情報いるか?」

親父さんのことは置いといて、つまりは二人とも学院に入る前からそれなりに鍛えられていた……というか、魔物と戦闘経験がある。
それなら割とさっきまでの強そうだな、と思ってたことに納得した。

とにかく一通り自己紹介も戦闘の仕方も話し終わって、じゃあ次は……と考えていたところ人の動きが止まった。

「さー、お前ら気を引き締めろよ」

櫻井先生が声をだすと、今まで雑談で盛り上がっていた周囲の人達が一気に喋るのを止めた。緊張した空気が漂ってくる。

「それではこれより、実践演習を開始とする!」

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