対抗戦 後半


二戦目、俺達からは淳史とフィオナが組み、向こうは黒髪の女と凪が組んできた。予想通り向こうのリーダーは三戦目にくるようで、内心ガッツポーズを取る。
それはそれとして、同い年だが八年目……つまりは、10歳の頃からこの学院にいる凪の実力もそれなりに気になっていた。あいつのことを見たことがあるのは座学の時だけだったし、もしかしたら日常のイメージから丸々雰囲気が変わるのかもしれない。


………なんて、ちょっと思っていたところもあった。

「…おーい、大丈夫か凪?」
「………」

開始数十秒、俺の前にはひっくり返って目を回している凪の姿。声を掛けても全く反応がないところ、完全に伸びている。
淳史のパンチ一発喰らってぶっ飛んで柵に頭ぶつけりゃそりゃ俺でも目も回すとは思うが……まさか初手の攻撃を避けられないとは俺も淳史も思ってはいなくて、完全に呆気に取られている。
審判の試合終了の声と、淳史の焦りながら謝る声が重なって聞こえてくる。

「おい大丈夫か!わりぃまさかここまでぶっ飛ぶとは…!」
「……っ……!」

淳史がかけよって声をかけると、頭を抑えながらやっと凪が目を覚ました。
少し呻くような声を上げるわけでもなく、大丈夫だと言うわけでもなく、ただ首と手を横に振って『問題ない』ということを主張する凪に、少し淳史が怪訝そうな顔をした。

「あー淳史、こいつ声でねぇんだよ。な?」

凪は後ろに俺がいたことに一瞬驚いたような顔をしたが、こくん、と首を縦にふって肯定した。事情は詳しくは知らねぇけど、声が出せないらしい凪とは普段なら筆談をして会話している。が、まあこの状況で筆談は無理があるからから、ジェスチャーをして淳史になんともないことを訴えている。
柵を乗り越えて中に入り、凪の手を掴んで引っ張り上げる。立ち上がった凪は俺よりそこそこ身長が高いのに、俺よりも小さく見えるぐらいに縮こまって両手を合わせて「ごめんね」と言いたげな表情をしていた。

「この子、弱くてびっくりしたでしょ。最近なんて開始0.5秒で投げられて終ったことあるのよ?」
「……!」

クスクスと笑いながらやってきた、凪のチームメイトの黒髪の女。
そいつに向かって凪はぺこぺこと頭を下げて謝っていたが、全く気にしてない様子で笑いながら「私は動かないで終ったから逆に感謝してるわ」なんて言っている。
戦わなくて楽出来た、なんて台詞レティが聞いたら絶対食い付いていただろうな…。

フィオナもこっちに駆けてきたタイミングで、二人はそのまま向こうのチームの方へと戻っていった。

「す……すまない…」
「何いきなり謝ってんだよフィオナ」
「淳史……いや、その……何もして、いなくて…」
「あれは淳史もフィオナも予想外だろ。気にすんなよ」
「う…しかし……」
「那智も気にすんなっていってんだろ。俺も気にしてねぇしそんなしょぼくれるな」

淳史と俺がそういってもやっぱり小さな声ですまない、申し訳ないを繰り返すフィオナ。そろそろこいつのこの謝り癖というか、自分の自信のなさなんとかなんねぇかな。
フィオナの能力はかなり優秀の方に入るのに、本人が自信持って戦ってくれなきゃもったいねぇたらありゃしねぇよ。

こっちの言い分を中々受け止めようとしないフィオナに少しため息を付きながら、向こうのチームの方へと目をやる。向こうも向こうで、こんだけ早く終ったなら何か話し合いでもしてんじゃねぇかな…と、思っていたけど、そういうわけでもなく、向こうのリーダーは既にフィールドの中央に佇んでいた。
腕を組んで、静かにこっちを見据えている姿を言葉にするなら、あれがまさに凜々しいというのかもしれない。腰には鞘に収まった日本刀があり、女でありながら武士のような奴だなと純粋に思った。
本来一試合ごとに数分の休憩を挟んで、次の試合という形になるから、まだ三戦目の開始時間には余裕がある。
あるにはあるんだがあんな準備万端、いつでも来いみたいな待ち方されたら、行くしかねぇだろ。

フィオナと淳史にフィールドから出てもらい、俺も中央へ向かう。
既に二戦俺達のチームが勝っている時点で、チーム戦としてはこの試合は消化試合だ。チームとしての評価は、既にチーム五十嵐の勝利が確定している。
ただ、だからといって適当にやるわけもなく、寧ろ俺からしたら今日の一番楽しみにしていたところだ。

明日ある実践演習に向けても、今の俺が卒業出来る奴に対してどれだけ食らいつけるかの目標も、ある程度は分かってくるはずだ。

真っ直ぐ、目をそらすこと無く、ぴくりとも動かない出雲に少し息をのみながら、こっちもその群青色の目を真っ直ぐに捉える。


審判の「試合開始」の声が響き渡った。


向こうの武器は日本刀、能力を使うにしても近距離武器なことには変わりが無い。
相手の間合いから離れる為にも、一度距離を取って−−−

「………え、」

始まる前から、すぐに乗れるようにと足元に能力で浮かせてあるスケートボード。それに足を乗せるのも、乗って距離を開けるのも、いつも通り試合をしているの中の動きで、遅かったはずはない。
なのに、俺よりも先にスケートボードには出雲の足が掛けられていた。

一瞬で距離を詰めてきたそのスピードに焦ったのと、いつもの力の調整だと二人分乗っているスケートボードを動かすことも出来ず、思わず「どけ!」と大声と共に出雲が足を掛けている側へ風を強く起こした。

まるで、俺がそうすることが分かっているかのように、出雲は俺が声を出すとほぼ同時に、俺から距離を開けているなんて思考も追いつかず、片側にだけ強い風を受けたスケートボードはひっくり返り、それに足を乗せていた俺も見事にバランスを崩してひっくり返りそうになる。
流石にそこで尻餅つくほど戦闘初心者なわけでもない。なんとかバランスを持ち直して、体制を整えて、

なんて、バランスを取り戻した時には既に遅く、俺の眉間には日本刀を突きつけられ、視界はその刃でいっぱいになっていた。後一歩、出雲が前に出ればそれは俺の頭を貫く。

「………っ」

あまりにも一瞬で、声もでない。動くことも出来なかった。
審判の試合終了と、勝利者の出雲の名前が告げられたところで、その凶器は綺麗に鞘へ収まった。

「………俺の、戦い方、凪にでも聞いたのか?」
「そんなもの聞かなくても分かる。お前が何をするか最初から私に教えていただろう」
「は、」

あまりにも早い、というよりもそもそも俺の戦い方を熟知した上でのような行動だったから、凪に聞いたとばかり考えていた。そうじゃないとあのスピードはおかしいと。
だけど返答は予想外すぎるもので、いつ、どうやって俺が教えた。

「お前は最初から私では無く私の刀を見ていた。最初から自身のその武器を浮かせていた。
私がそれに足を乗せた後、お前の目線は私の足元しか見ていなかった。
敗因は全てお前が次の行動を私に教えていたからだ」
「………」

その答えに、言葉が出ない。
間違っちゃいねぇ、確かにそれはした。だけど、それを理解したからといってあの早さは化け物かと言いたくなる。
それに、と色々言いたくなるが、負けた手前全て言い訳だ。ぐっとあふれ出てくるものを堪える。

「強くなりたいのなら、次の一手は隠し通せる程になれ。それが出来たらまた相手をしてやろう」
「………」

試合前と変わらず真っ直ぐ見据えてくるその目は、やっぱり息をのむ。こうも完敗だと、本当に何も言うことがない。
試合終了の礼と、他の意味も込めて頭を下げる。


とりあえず、今の実力じゃ食らいつけるなんて言える実力に到達してない、なんて情けないことが分かっただけだった。

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