対抗戦 前半


対抗戦…つまりは、チーム同士の対人戦で、チームの年数実力関係なく、ランダムに組み合わされる戦闘系の演習だ。まだ魔物との戦闘も数回しか出来ない二年目の俺達にとって、実戦に近い戦闘面の実力を上げる大事な授業の一つ。

対抗戦用のグラウンドに足を運ぶ。俺の腰ぐらいの高さの柵が半径40メートルぐらいをぐるりと囲んでいるのがフィールドで、それがいくつも並んでいる。
今日の対抗戦の組み合わせが書かれたプリントを手に取りながら、俺達が戦うフィールドの場所に向かう。まだ授業開始時間じゃないからか、あちこちで準備体操や作戦会議をしているチームがいた。

「那智、今日のオーダーはいつもどおりお前が初戦でいいのか?」
「いや、今日は俺が最後でレティが最初に出て欲しい。淳史とフィオナはいつも通り二人で二戦目な」

対抗戦のルールは三戦、初戦と三戦目が個人戦で二戦目がペアでの戦闘。一試合は10分でその制限時間以内に相手を戦闘不能にさせるか、フィールド外に出せば勝ち。
ちなみに三戦あるけれど二戦連続で負けても三戦目も試合は行われる。チームの成績と個人の成績は別でつけられるらしいとかなんとか。

それで、普段は俺が初戦淳史とフィオナが二戦目、三戦目にレティっていうオーダーが一番安定して勝てているからそうしていた。けど、今日は俺とレティを逆にしている。

「何か考えがありますの?」
「チーム出雲って確か凪のチームだろ。前に聞いたけどあいつのリーダー出るの基本三戦目って聞いたからな。話聞いてて一度戦ってみたかったから俺が三戦目」
「そんな理由ですの!?私達に相談もなく、且つ戦略などではなく!?」
「いいだろ別に!」

呆れましたわ!と怒鳴るレティの声を耳を塞いで聞こえないふりをする。戦ってみたいやつと戦う組み合わせに出来るのもリーダーの特権だ!

チーム出雲は同じ17歳で年齢別の授業から友人になった凪が所属するチームで、八年目のベテランチーム。いやベテラン……なのかはちょっと分からない。この学院は十年間いることができるけど、卒業するのは最短で三年、優秀で四年、平均で五年六年って聞かされている。逆に七年目以降となると実力が足りなくて卒業出来ていないとも言う。
だから八年目と言われたらすげえ強い奴なのかどうかが逆に分からない。凪は友達としての贔屓目を使っても……なんというか、うん。魔物から戦うのを守ってやった方がいいんじゃねえのかなってたまに思う雰囲気をしている。

ただ、凪から聞いたけれどリーダーの出雲鈴佳はもう卒業試験を受ける資格を持っている実力者で、かなり強いらしい。なら、戦うならそいつがいい。
今まで卒業試験を受ける資格を持った奴とは戦ったことがなかったし、そういう奴らの実力がどんなぐらいかも知りたかった。

俺が、どこまで食いつけるのかも。



話している間に俺達が戦うフィールドに辿り着いた。反対側には既にチーム出雲がいるようで、男女4人の影がある。その中に凪の姿が見えて、遠目ながらも目が合うと小さく手を振ってきたから、俺も振り返す。
凪の行動に気がついた向こうのチームの視線は俺達に向いた。凪以外は年上だと聞いていたし、手を振るのをやめて軽く会釈をすると、チームの中心にいた、跳ねた黒髪の女も同じように会釈を返してきた。
残りの短髪で紫髪の男と、ストレートの黒髪の女は特に興味が無いように俺達から視線を外して談笑をしている。

授業開始のチャイムがなり、フィールドにいる審判が一戦目のメンバーは入るように、という声があちこちから聞こえてくる。
ここも同じように中心に来るように言われたから、一戦目に出るレティは柵を越えてフィールドの中心に向かう。その後ろ姿に頑張れよーと声をかけたら振り向いてすげぇ睨まれた。

「な、那智……レティ、すごく…怒っている、ぞ…?」
「俺だってあそこまで怒るなんて思ってもなかったんだよ!!そんなに初戦嫌なのかよあいつ!」
「いや、多分相談もなしに決めたのに怒ってるんじゃないかあれ」
「おおん?那智お前何レティ嬢怒らせてるんだよ理由くわしく」

なんか一人多いぞ。
俺達のチームの一員ですとでも言わんばかりの態度で俺の横にいつのまにかいた金髪の男に思わず「うわっ」と声が出た。
俺の反応が気に入らないのかそいつは口を尖らせながら「人を幽霊みたいな扱いすんなよ」と不満をぶつけられる。いきなり真横にいたら流石に誰でも驚くだろ。
そこにいたのは「チーム名決まらん」のメンバーの斎宮路夕介で、同じ二年目なのもあって結構チーム同士で話すこともある。

「何しに来たんだよ夕介」
「もっちろん俺のチームの試合がもう少し先だからレティ嬢の華麗な勇姿をこの目におさめに!あ、フィオナちゃんさっきの授業ぶり〜」
「あ、あぁ…」
「フィオナがびびるからあまり絡むなよ斎宮路」
「まって俺まだフィオナちゃんに心開いてもらえてねーの!?結構ショックなんだけど!」

夕介の色んな意味で軽い感じの挨拶に対して、すっと淳史の後ろに隠れるフィオナ。テンションにどう合わせたらいいのか分からないだけで別に心開いてないとかじゃない、みたいなことをこの前フィオナが言っていたけど面白いから当分黙っておこう。

夕介の登場に少し気を取られていたけど、審判の試合開始!の声が聞こえてきてレティと相手の…紫の髪の男との戦闘に視線を移す。

「はー戦ってるレティ嬢もまじ可愛い。で、レティ嬢はなんで怒ってたかを俺に教えろ那智」
「お前本当レティに関してはぐいぐい来るよな。別にたいしたことじゃねぇよ、今日の試合、」
「はい全面的になっちゃんが悪い!試合終わったらレティ嬢に土下座!!」
「まだ何もいってねぇよ!あとまじなっちゃんやめろ!」

理不尽な判定と不服なあだ名に対して「これでも喰らえ!」と自分のスケボーを夕介の目の前に持ってきて視界を遮ってやる。
レティ嬢の試合が見れないだろ馬鹿野郎!と文句の声が聞こえてくるがそれが目的でやってるんだざまあみろ!

「ちょっと!ふざけるのも大概にしてくださらない!?」

フィールド内から聞こえてきたレティの声に、思わず二人して固まる。
まさかあいつ試合中に俺達に怒鳴ってるんじゃないだろうなと思いつつ、レティならそれもしかねないと思って再度フィールドの方を見てみる。
…どうやら、俺達が騒いでいたことに対しての声ではないようで、対抗戦の相手の男につかみかかっていた。男の方は両手を挙げて特に抵抗する様子もなく、「落ち着きなさいよ〜」といっているのがかすかに聞こえてきた。

なんか聞こえてきた声は男の低さなのに口調に違和感を感じていたら、少し雰囲気に押され気味の審判がレティが勝利したことを告げる。だけど、レティの怒りは収まる様子もなく審判の声も聞こえていないのか未だに男の方に詰め寄っている。

「試合で降参なんて認めませんわ!!それに貴方ずっと手を抜いていましたわよね!それが分からない実力だとお思いで!?」
「やぁね〜、そんなに怒っちゃって。今日ちょーっと調子よくないだけだもの。それに貴女みたいな可愛らしい子を傷つけたくなんかないもの」
「私、女だからという理由で手を抜かれるのが一番嫌いですの!それとそのふざけた口調やめてくださらない!貴方男性でしょう!!」
「あら、アタシも男だからってこの口調のこと言われるのあまり好きじゃないのよぉ。お互い様ね」

延々と男……ええっと、確か、若狭かごめってさっき審判が言っていたな。若狭に怒鳴り続けるレティと、それをやっぱり違和感を感じる口調で軽くあしらう若狭。
聞こえてくる話から察するに、多分レティの地雷思いっきり若狭が踏み抜いたんだろうな…。
流石に試合も終わったし、レティが再び戦闘に持ち込み出しそうな雰囲気だったからか、審判からやめるように声をかけられる。一言か二言か、若狭に指を指しながら何かを言ったレティが、フィールドに入っていったとき以上に不満そうな表情をして戻ってきた。

「お、おかえりレティ…」
「ただいま戻りましたわ!あと私少し気分が優れないので別の場所にいますわ!夕介暇なら付き合いなさい!」
「お、レティ嬢デートのお誘い?」
「黙ってついてきてくださる!」
「あ、はい」

夕介が何故か観戦していたことも、怒りのせいか疑問に思うことなくレティは夕介の腕を引っ張って俺達から離れていく。
少し呆気にとられながらその光景を眺めていたら、数十メートルぐらい離れた距離でレティが振り返って「負けたら承知しませんわよ!!」と叫んでそのまま去って行った。

「あそこまで怒ったレティみたの久々だな…」
「去年の実践演習の時に那智が女は下がってろって言った時以来じゃないか?」
「あー…」

そういやそんなこともあったな……、と懐かしくなりつつ、一先ず次の試合に切り替えていくか。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -