始まり


物心がつく頃か、その前からか、とりあえず俺の記憶にはない頃ぐらいから俺は能力を持っていた。母さんに曰く、生まれつきあったわけじゃなくて、気がついたら足に紋章が出来ていてびっくりした、と言われた。

能力は、その人が生きるために必要としたら現れるとか、本能が求めたらどうとか、出てくる理由はそこまではっきりしていないけど、とりあえず本人が必要だと思ったときに出てくるらしい。
だから、そんな幼い子供が特に危険に晒された訳でもなく、家庭も極々一般的なもので、家の中でふと親が足を見てみたら紋章があった、なんてなんだか少し変わっている……の、かもしれない。と親父も母さんも言っていた。どっちも能力を持ってる人が身近にいないからそんなに詳しくなかったけれど。

でも、俺にはなんとなくその時に能力が出たのは分かる気がする。

小さい頃から、ヒーローが好きだった。
それこそ、物心つく前からヒーローのおもちゃを渡せばすぐに泣き止むぐらい好きだったらしい。

小さい頃俺の好きだったヒーローは、風を操ることが出来るヒーローだった。
生きるためとか、本能がどうとか、そういう話とちょっと違うかもしれないけれど、俺の足に紋章が出てきた時期と、そのヒーローを見始めた時期を母さんに確認してみたら丁度重なっていて、なんていうか、能力が出てきたのはそれが元になったとしか思えなかった。


ヒーローごっこなんかはよく学校の友達とやっていた。能力が使えるから、俺はよくその憧れたヒーローの役をやっていた。みんなからはずるいとか、次は自分がやるとか、よく喧嘩になっていたけど正直ヒーローごっこするならこの役は譲れなかった。
今思うと譲るぐらいしてやったらよかったのにとかは割と思うけど、子供だからそういうのは仕方ない、多分。
ただ、そんなのはごっこ遊びで、友達達はそれで満足していたけど俺は正直満足しなかった。俺は別に悪者と戦うだけじゃなくて、なんていうかこう、人を助けたりする方に憧れていたから、友達が悪者になってそれを倒すだけじゃ俺のやりたいのと違うって言ってこれまたよく喧嘩をしていた。
うん、これも今思い出すと伝えてたのが「俺のやりたいのと違う」だけだったから友達達からしたらなんだこいつってなって喧嘩するよな、今度会った時に覚えていたら謝っておこう。

誕生日プレゼントにもらったスケボーも、ヒーローが力を使って乗りこなす乗り物に憧れたからそれに近そうで俺が使えそうな水色の増幅器がついているものにしてもらった。
当時は結構でかく感じてたのに、今になると割と小さい気もする。まあ頑張って俺が支えたらもう一人ぐらい足をおけるんじゃないかなってぐらいだ。危ないけど。

「母さん、ヒーローってどうやったらなれんの」
「じゃあ那智は誰のためのどんなヒーローになりたいのかな。お母さんはお買い物手伝ってくれる子がヒーローだな〜」

なんて、ちびっ子の頃はよくそんなやりとりしていた。
初めて言われたときは素直に母さんのヒーローならやる!とか言っていたけど、いいように扱われてたなとしか思えない。正直今でもたまにネタとして言われるけど。


そんなこんな、特に当たり障りもなく、平和な一般家庭でただヒーローに憧れる子供で育ってきた。
他と違うと言えば、高学年とか中学生ぐらいでヒーローに憧れるのは馬鹿馬鹿しいとか思わずにそのままずっと憧れていたことぐらい。まあ、流石に恥ずかしくて声高々に言ったりは出来ないけど。

討伐団って存在もはっきりと分かってきたのも、丁度そのくらいだった。

魔物と戦う危ない仕事。それぐらいしか分かっていなかったけど、ニュースで討伐団に助けられた人が感謝の言葉を言いながら泣いていた。

それが俺には、ヒーローに助けられた人に見えた。


俺が学院に入った理由は、割とただそれだけ。
他の奴に比べて凄い単純な理由だし、夢見てるだけなのは分かっている。

でも、なりたいもののきっかけって、案外そんなものだろ。



「母さん、今日は放課後チームの奴らと特訓するから帰りいつもより2時間ぐらい遅くなる」
「はいはい。あ、そうだそれならスーパーのタイムセールの時間と被るし行ってきてくれない、ヒーローくん」
「行くけどそのヒーローくんって言うのいい加減やめろよ!」
「なによ〜、なっちゃんヒーローになるんだっていって学院に入ったくせに」
「なっちゃんも!やめろ!!」

玄関先でばたばたと支度をしつつ、割と毎朝レベルでやってるやりとりを母さんとしていたらリビングの方から親父の「遅刻しないのか」という声に気がついて慌てて靴を履く。
いつもの靴を履いて、立てかけていたスケートボードを持ってドアノブを回そうとした時に、また母さんから「そうだ」と声をかけられて少し止まる。

「昼間に那智の好きなヒーロー番組再放送するみたいだけど、録画しといた方がいい?」
「ぜってぇ録画しといて!行ってきます!!」
「行ってらっしゃい、気をつけてねー」

その声を背に、家から飛び出してスケートボードにのって、地面を蹴る。

学院に入ってから二度目の桜も散って、連休であるゴールデンウィークも昨日終わって、少し蒸し暑くなってきた五月上旬。

今日も、一日が始まる。

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