悩み


別に自分自身の力が討伐団と対等に並んでるとか自惚れていたわけじゃないつもりだった。それでも、少しぐらいは戦える方だと勝手に思い込んでいた。

「なんや、あっけないなぁ」

拍子抜けだ、と言わんばかりの声色とため息が聞こえてきた。俺達の周りには大量の魔物……の、倒れた姿。十数頭はいたのに、ものの見事に全部床に倒れ動く様子もない。
こいつらを倒す時俺は、いや俺達は何も出来なかった。出来ないというか……攻撃しようと構えた時にはもう、狙っている相手はすでに倒されていて正直何も出来なかった。

「3人とも、怪我はありませんか?」
「あ、はい。全く……」

郁さんに声をかけられて、はっとする。レティと淳史の方に目を向けたら。俺と同じような反応を返していた。
あっけない、と玲央はさっきいっていた。この程度の魔物や数はたいしたものじゃないんだろう。しかも、俺達をかばいながらでも全然苦にならないような。
手に巻かれている包帯をみて、道中のあの男を思い出す。
あいつは、ここにいる3人とはまた違う強さだった。息をすることすら許さない威圧感なんて、少し戦いをかじったぐらいじゃ出せるものじゃない。

俺達はまだ二年目の学生、まだ、数ヶ月に一度しか魔物と戦う機会がないような戦闘の初心者だ。それは対抗戦とかでも充分身にしみている。
だけど、こうもあからさまに強さの違いをハッキリと見せつけられると……。

「みっともない顔してるんじゃありませんわよ!」
「いって!」

ばしっと背中に渇をいれられる。つかそこピンポイントでさっき打ったところじゃねえかすげえ痛え…!ひりひりと痛む背中をさすりながら、叩いた本人を睨み付けると、腕を組んであらかさまにご立腹だった。

「今の戦い、思うところがあるのは分かりますわ。ですけれどそれよりも今はフィオナのことが先ではありませんの!」
「そうだぜ那智。フィオナが落ちたとか言っていたがどうしたんだ。探してた人は見つかったのか?」

2人の言葉に、さっきの落ちていったフィオナの姿が頭に浮かび上がる。そうだ、俺の強さだそんなことばかり考えてる暇はなかった。玲央が無事だといってはいたものの実際に無事をちゃんと確認してないんだ。
さっき2人が初めに迎撃した魔物が開けた穴に、フィオナが落ちていったことを告げて、その穴に飛び込むつもりで駆けだした。けどそれは一歩踏み出した瞬間に誰かにフードを掴まれて首がぐっとしまる。

「ぐ、え」
「落ち着きなさいよボウヤ。まったく、10代はすぐに飛び出すんだから」
「水無月さん、そいつの首締まってます!」
「あら、失礼」

フードを掴んでいた手はぱっと離されて、一気に空気が喉を通るようになった。ちくしょう、なんだよいきなり。
淳史が水無月と呼んで、さっき玲央が千尋と呼んでいた女はいつの間にか俺達の傍にきていたらしい。それは別にいいがいきなりフードを掴む必要はあったのかよ。勢い余って首絞まって死ぬぞ。

「とりあえず自己紹介しておくわね。私は水無月千尋。玲央と郁の元チームメイトよ」

名乗られて、俺も同じように名乗り返すとさっき車で2人から聞いたわ。と返された。
話を聞くと、どうやら本部についたレティ達は郁さんと出会うことが出来たのはいいももの、郁さんはこの任務に向かわなければいけなくなっていたみたいだった。そこにきっと俺達もいると思った2人はついていくことを頼み込んで、俺とフィオナのことを心配したことと押しに弱いことで2人の同行を許したそうだ。
そこで3人が一先ず移動しよう、とした時に丁度車で移動する予定だった水無月と偶然出会い、郁さんが元チームメイトのよしみとして乗せてもらいここまでかっ飛ばしてきたらしい。
その間に、俺やフィオナのことを2人は話していたみたいだ。

レティや淳史がこの病院にたどりついたことにやっと納得がいった。だけど本部からここまで結構距離ある気がするのにこんな短時間でつくとかどんだけ飛ばして運転したんだこの女。
レティと淳史の方を見てみると、小さく「もう彼女の車には乗りたくありませんわ…」とレティが青ざめながら呟いていたのが聞こえてきたから、なんとなく察した。

そんなことは気にせず、水無月の話はそのまま続く。

「あの穴はさっきの戦闘でさらに脆くなってるから、今は玲央が回りの補強も含めて調べ中よ。結構下の階まで貫通しているみたいだし蔦ではしごでも作るんじゃないかしら」

だからお子様はそれの邪魔しないでここで待ちなさいね。とあからさまに小馬鹿にした笑顔を向けられて少しむっとしたが、俺に出来ることはなさそうだしおとなし従っておく。
正直、俺が降りるだけなら能力を使えば簡単に降りれるしはしごなんかいらない。だけど、それは絶対に止められるだろうし何より……今日は、ここにくるまで飛ばしまくっていたからか、能力の調子が悪い。

……悪い、というか、なんだろうこれは。

炎をだすだけ、風を起こすだけ、それならいつも通り出来ている。さっきの戦いでも魔物を倒したり決定的な打撃を与えたりなんかは出来なくても、一応能力を使って応戦はしていた。能力を片方ずつ出すことには問題がない。
だけど、二つ同時にだそうとすると話は別だった。さっき追い詰められた時みたいに、どうしても後から発動させようとした能力が、何もおこらない。火の勢いを風で強くしようとしても、竜巻に火を含めて火力を上げようとしても、どうしてもできない。

赤の能力はついこの間の実践演習で目覚めたものだったから、赤の能力を使いこなすために特訓はしていた。幸いにも周りには赤が使える奴が結構多かったし、そいつらに聞きながら。だから炎を出したり体にまとうぐらいならなんてことない。
でも、そういや能力を二つ同時に出す特訓はしていなかった。しなくても、出来るもんだと思っていた。風を出すなんて日常でやっていることだし、炎出しながらでも簡単にできるもんだと思い込んでいたから。
………やっぱ、自分の力を過信して自惚れていたのかな、俺。

「ちょっと、レティちゃん。話に聞いていたよりは随分と辛気くさいわよ彼」
「ええ、私もそう思いますわ。先ほどから何をうじうじと悩んでいるんですのよ!」
「うっせーな俺だって悩むときぐらいあるっつの!」
「……新しい能力がうまく使えねえ……とかか?」

どんぴしゃに当てられて、淳史の顔を二度見していると、なんか戦い辛そうだったからな、お前。と付け加えられる。周りから見てもやっぱ分かるもんなのか、そういうこと。

「うまく使えねぇっつーか……風と同時に使えねぇっつーか…」
「やっぱそうだよな、つっても俺は能力に関してはどうにも言えねえしなぁ…レティはなんか那智の戦い方みて思ったことないのか?」
「…気が散っているとは思っていましたわ。ですけれど私も能力は緑だけですし…フィオナがいれば複数の能力の使い方聞けたのですけれど」

「簡単な事よ、ただきっかけがないだけ」

随分あっさりとした回答が帰ってきた。
3人でその回答の主の方を向く。少し呆れたような表情で、俺達を見ていた。

「人によってそれぞれ違うわよ。でも大体は出来るきっかけがないだけ。その時じゃないだけよ。経験と、実績と、運と、きっかけ。それが今ないだけ。まあ恋愛と似たようなものよ」
「恋愛すーぐに失敗しとるアラサーのおばはんがなに偉そうなこといっとんねん!」
「うっさいわねそこ!茶々入れる暇あるならさっさと下の階まで繋げなさいよ!」

横やりを入れてきた玲央に向かって炎を纏ったナイフを投げつけた。ぎりぎり当たるのをよけて、燃えるやろー!とぎゃいぎゃい騒ぐ玲央を完全に無視してるぞこいつ。
玲央のことを郁さんがなだめているのを横目にしていたら、仕切り直すかのように水無月がこほんと咳払いをした。

「とりあえず、同時に能力が使えないのは割と単純な話よ。少なくとも貴方はね」
「俺は、なのかよ」
「だってどうみたって行動といい戦い方といい若々しい単純な感じなんだもの。悩むよりも体動かした方がスッキリするタイプでしょ」
「若々しい単純ってどういうことだよ!」
「そういうところよ。まったく…若いって血気盛んでいいわねぇ」

はああ、とわかりやすくあからさまにため息をつかれる。
色々言い返したいところがあるけれど、ここで言えばまた馬鹿にされそうな気がしてぐっとこらえる。

経験に実績、運にきっかけか。

そんなに考えたいなら赤の能力が新しいのなら、それが出てきた時の事を考えてみたらどう?とだけ告げて、水無月は俺達から離れて郁さんのところに向かった。
どうやら郁さんは本部に連絡を取れるかどうか確認していたようだったが、うまいこと行かないのか少し頭を悩ませていた。そういや、俺達は郁さん達の仕事の邪魔……をしてることになるんだよな。勝手についてきてるというか乗り込んでるし。
玲央も俺達と一緒に行動するとは言ってくれたけど、この病院に入る時に救助がメインだと言っていた。なのに今は俺達のために行動させてしまっている。
その上、戦闘だと足手まといなんて、完全にお荷物じゃないか。

思わず、ぐっと拳に力が入る。さっきの手のひらの傷口はだいぶん閉じているのかそんなに痛みは感じない。だけど、それも玲央の救助用の道具を使ったせいだと思うとなんだかあまり嬉しくない。

「…よし、淳史俺を殴れ!」
「は!?なんだよいきなり!」
「渇いれろっつってんだよ!気合い入れ直す!!」
「気合いって……、はあ、お前そういうとこ妙に熱血だよな」
「うるせえよ!」

早くしろ、と淳史に言うと一瞬の間もなくいつもの淳史の拳の痛みが頭を走った。
いってぇ、といいたくなった口をぐっと紡いで、両手で自分の頬を2回3回と叩く。
うじうじ悩むのはこれでやめだ!とりあえず今は、きっかけが見つかるまで俺が出来る今まで通りの戦い方をして、足手まといになんかなってやるか!


ぐっと気合いを入れ直したところで、玲央から蔦で作ったはしごを作り終えたと声がかかる。

急いでそっちに向かい、穴をのぞき込んでみると1つ下の階よりも下は、電気がないのか底が見えない暗闇だった。おそらく、この病院の最下層まで続いているんじゃないかと玲央は言った。

待ってろフィオナ、今向かうからな。

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