東西南北編 01


こちらの時間軸借りてます)

四月なのに初夏のような照り返す日光。じわり、と額から汗が出てきたから垂れる前に腕でそれを拭う。
グラウンドには自分達と同じ一年目のチームの奴が集まっていて、教師の点呼も終わり今日の授業内容を聞いている。俺も同じく、姉さんの横で聞いているが、ちらりと横目で姉さんを見てみると寝ているのか船をこいでいた。
暖かいし眠くなるのも仕方ないな、と姉さんを見ていたら俺の逆側にいた愛里紗が姉さんを少し揺らした。それではっと目が覚めたのか、眠たげに目をこすりながら姉さんはあたりを見渡した。

「んん〜、おはよー碧に愛里紗ちゃん〜…」
「おはようじゃないよっ。もうみんな準備体操始めるよっ」
「……あれ、今なんの授業だっけ〜?」
「実戦系の、体力作りの授業だ姉さん」
「今からグラウンド十周もするんスから準備体操しねぇと筋肉痛になりますよー」

後ろにいた和馬がストレッチをしながら話しかけてきた。何だいたのか、と睨みながらいうと不服そうな顔で「相変わらずあたり強いつれぇ」と返された。
しるか、顔合わせた初日、姉さんに彼氏いるかなんて聞いたことは絶対忘れないからな。
じっと和馬をにらみつけていると、ふわりと何かで覆われて視界が真っ暗になった。

「はいは〜い、和馬くんばっかりみてないで碧も準備体操しようねー。一緒にストレッチしよっか〜」
「……姉さんがそういうなら」

どうやら覆っていたのは姉さんの手だったようで、またふわりとした動作でその手が俺の顔から離れる。愛里紗もそれを合図に和馬とストレッチを始めた。
数分間姉さんとストレッチをしていれば、もう充分か?と生徒全体に声をかけてランニングを始める合図の声があがる。
ばらばらと走り始める生徒の中、スッと前に走り出すのは基礎体力作りなんて必要のなさそうなやつら。多分、一年目とかいいつつ実際はチームが解散して一年目からやり直してるやつだとか、ここに入る前から基礎体力をつけてたやつらだ。
その中に自分も入ろうとはしたけど、姉さんのペースに合わせて姉さんの横を走る。

「碧ー、自分のペースでいいんだよ〜」
「姉さんのペースに合わせるのが俺のペースだ」

そう言い切ると姉さんがクスクス笑ってから、俺を見るのをやめて前を向いた。姉さんが自分のペースでとは言ってはいるものの、今のペースも充分速いグループの方だからそんなに遅いペースではない。
グラウンドを曲がるタイミングで少し後ろを確認するとぎりぎり和馬が俺達についてきていて、愛里紗はほぼ最後尾の方を走っている。
まあ、そんなところだろうなと思いつつ、前を向いてそのまま走り続けた。




「っあ〜〜〜〜やっと走り終わった〜!」

もう既に走り終わって、次のメニューをみながら筋トレをしていた俺と姉さんの横に和馬が倒れ込む。
それを見た姉さんが笑いながら和馬の顔にタオルをかけて、額に水筒を乗せてバランスをとって遊び始めた。

「おお−、凄いバランス〜」
「梨理さんありがたいですけど動けないッス」

そういって額に置かれた水筒を手にとって、一気に中のスポーツドリンクを喉に流し込んでいる。姉さんの優しさをちゃんと身にしみて感謝してるのかこいつ。
飲むのに満足したのか、ぷはっと声をだして水筒から口を離した和馬に愛里紗は?と尋ねればグラウンドを指さした。そのままそこに視線を向けると、まだグラウンドを周回している愛里紗の姿があった。
もう体力がぎりぎりと言いたげに息を荒げているけれど足を止めずに、必死に走っている。

「俺も愛里紗もそこそこ体力の自信はあったんだけど、こうやってみると全然ダメなんだなぁ」

はあ、とため息をついて少し落ち込む和馬を横目に、まだ走っている愛里紗を見守る。
あ、抜かそう。なんて和馬のまぬけな声と共に、その言葉のまま愛里紗の後ろを走っていた女子に抜かされた。その姿は、愛里紗と同じで必死に走っている。…どこかで見たことあるような気がするけど、同じ年の女子かなにかだろう。
思わず愛里紗とその女子を交互に見守っていると、姉さんから続きをしないのかという声が聞こえてそっちを向く。それに合わせて和馬も起き上がってメニュー表を眺めて俺と姉さんをみた。

「でも、碧はなんとなくわかるけど梨理さんもあんなに体力あるなんてなぁ」
「……姉さんは俺より強いぞ」
「え!?まじで!?」
「碧の強いの基準は多分体力とかじゃないよ〜、私碧に勝てると思わないもん」

筋トレをしながらも俺達の話を聞いて応える姉さん。俺は姉さんを負かすことなんて出来ないから、多分姉さんが勝てると思うけど。
俺と姉さんの話を聞いて少し混乱しているような和馬を他所に、俺も筋トレを再開しようとした。そこに、フラフラとした足取りで愛里紗が俺達のところにやってきて思わず手がとまる。
姉さんも愛里紗に気付いたのか、和馬に渡したようにタオルと水筒を渡している。

「梨理さんありがと〜……」
「ゆっくり休憩してちゃんとストレッチしてね〜、無茶すると筋肉痛になっちゃうもんねー」
「はぁい…」

愛里紗はタオルで汗を拭きつつ、汗を流しに行くのか水道にフラフラと向かっていった。
それとすれ違うように、水道の方からはさっき愛里紗を抜かしたと思う女子がやってきた。少しフラフラとしながらも、メニュー表を眺めながら歩いているからか俺の前をすれ違っても特に俺に気付いた様子もなく自分のチームらしきところに戻っていった。
見たことあると思ったら、やっぱり年齢別で何度か見たことある顔だった。あと、数日前に食堂で見た気がする。多分。

「碧くんってばずっとあの子の事みてるけど、あの子が気になるの?」
「う、わ。愛里紗」

水道から戻ってきたらしい愛里紗が、興味津々という顔で俺を見てきていた。さっき失った体力はもう回復しているというか、したのかわからないけどなんでそんな目を輝かせてるんだ。
ねえねえ、と聞いてくる愛里紗に少し戸惑っていたら姉さんがやってきた。助け船を求めようとしたら、姉さんまで愛里紗と同じような顔をしていてまた戸惑う。

「え?何々?碧ってば気になる女の子がいるの?」
「そうなの梨理さん!さっきからずっとあのピンクの髪した女の子のことみててね!」
「い、や…俺は、そんな、つもりは」
「なんだと碧!お前リア充になるつもりか!!」
「うるせえ黙ってろ」
「ひどくね」

わいわいと騒いでいると、教師が気付いたのか口だけじゃなく手も動かせよーと少しゆるめの注意が飛んできた。
それに姉さんが「ごめんなさーい」と返して俺達に筋トレを始めることを勧めつつも、ぐっと姉さんと愛里紗が顔を寄せてきた。それはもう今まで見たことないぐらい顔を輝かせながら。

「で、碧くんどうなの?あの子気になってるの?」
「碧ってば酷いな〜、お姉ちゃんにそんなこと話してくれないなんて〜」
「いや、だから、別に、そんなんじゃ」

別にどうといった意味で見ていたわけではないのに、その返答だと2人とも納得してくれないようで「えええ?」と声を揃えて言うから少し困る。
確かに目では追ってしまっていたのは否定しないけど、理由を言えと言われたら、そんなに深い意味もないから、なんと言えばいいのか。
必死に2人が納得しそうな理由を頭の中でひねりだそうとする。……ああ、そういやさっき愛里紗と同じように走っていたのが妙に気になったな。

「…愛里紗に似ている気がしたから、なんとなく」
「…私?ええ、そんなに似てるかなぁ?雰囲気とか全然違うと思うけど」
「いや、見た目じゃない。必死に走っている姿とか」
「そ、そんなに必死に走ってないよ私!ほら先生が自分のペースで走っていいって言ってたからあれゆっくりめに走ってただけで!」

何を誤魔化すことがあるのか、いきなり慌てだす愛里紗に少し驚く。1人黙々と筋トレをしていた和馬が「また癖でてやんの」と小さい声で呟いていたのだけ聞こえたけど、愛里紗はそれには気付いていないようだ。
少し興奮気味の愛里紗を姉さんがなだめて、和馬と一緒に筋トレするように促している。愛里紗はそれを素直に聞いて、一度深呼吸してから和馬の横で筋トレを開始した。
この話題は終わったことだし、俺も筋トレの続きをするかな。と思ったら、なぜか姉さんに頭を撫でられて思わず動きが止まった。

「よしよし、碧は本当いい子だよね〜」
「…姉さん、俺撫でられるようなことはしていない……」
「してるよ〜。だって碧はいつも愛里紗ちゃんが学院についてこれるか心配してたでしょ。その愛里紗ちゃんと同じように気になるってことはきっとあの子のことも心配してるんじゃないかなぁ」
「……」

頭を撫でられながら、姉さんの言葉を頭の中でもう一度反復してみる。確かに、チームが結成した時に和馬についてきただけという愛里紗のことは心配していた。
誰だって初めは弱いのは仕方がないことだが、あまりにもここにいる理由が不安定すぎて、戦うときに支障がでて怪我でもしたら大変だ。
それを心配して、一先ず基本的な戦い方だけでも覚えてしまったらある程度は何か理由が見つけれるんじゃないかと思って一度手合わせをしてみないかと愛里紗に言ったが、あの時は断られたな。
数週間前の事を思い出しながら、もう一度さっきの女子を見てみる。チームメイトと一緒に筋トレをしている姿は、どこか体を動かすのになれていない感じがして、横で筋トレをしている愛里紗とやっぱりそっくりだった。

「よーし、碧。とりあえず明日あの子に声をかけてみよ〜!」
「え、」
「今日はきっとこの特訓で疲れてるだろうし明日ね明日〜。そんなに心配してるなら、碧から声かけてあげないと〜」

ね?と俺の頭を優しく撫でて、俺の返事を待つ。確かに、気になってしまったものは消せないし、明日は一限目が年齢別の授業で丁度会うだろう。
了承の意味で首を縦にうなずかせると、姉さんは嬉しそうな笑顔を浮かべて今日の特訓を早く終わらせようかと言ってきた。

とりあえず、明日、愛里紗と同じように手合わせに誘ってみよう。



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21宅本編3からお借りしました

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