とある夏の日


夏の日光がさんさんと、攻撃してきているような日。学院は数日前から夏休みに突入していた。
夏休みということで遠くへ旅行するやつもいれば、実家に帰るやつもいるし、学院の夏の集中特別授業なんてもあるからそれに参加してるやつもいる。

そんな中、俺達チーム海は何をしているかと言うと。

「さあ行くぞ泰波!手を抜けば今から日が落ちるまで共に砂浜でランニングだからな!」
「そういう無茶出来るのリーダーだけですけど!!」
「何を言っている!この炎天下の中そんなことすれば流石の私も熱中症だ!!だから手を抜くなよ!」
「あいかわらず滅茶苦茶なんですけどこの人!洋菜さんに航琉助けてーー!」

宇美さんの家に、泊まり込みで特訓中。
徒歩30秒もすれば砂浜にいけるとかいう、海が目の前にあるこの家で夏に泊まり込みをするのはもう三度目で、チームを結成した年から恒例の行事になっている。

ちなみに俺は午前中宇美さんにたっぷり絞られて体力がもうない、頑張れ泰波さんこの扇風機が回っている室内で応援だけしておくから。
目と鼻の先にある砂浜は居間からよく見える。つまりそこで特訓している二人の姿もよく見えるわけだった。流石にあれを眺めていると午前中の特訓を思い出すから泰波さんの助けの声を聞こえないふりしてぐったりと机に倒れ込む。

しかし宇美さんは確か昼飯食っただけでそれ以外は休憩してないけど倒れないのかなとか割と心配になってくる。

「お疲れ様航琉くん、はい飲み物」
「あ。ありがとうございます洋菜さん」

からん、と氷の音が聞こえて目の前がグラスに入った水で揺れる。顔を上げれば家事をしていた洋菜さんが居間に戻ってきていた。
身体を起こして透明な水を一気に喉に流し込む。………むせかえる。

「げほっごほっ!?」
「大丈夫航琉くん!?」
「あの…!これなんでこんなに酸っぱいんですか…!?」
「え……元気出るかなって思って水にレモンの果汁を搾っていれたんだけど…」
「………お茶ください…」

このチームの中で一番まともだからって油断していた。この人極度の酸っぱい物好きだった。
俺の要求に少しうーんと悩んだ後に、うちには甘いジュースかレモン水しかないよと困ったような笑顔で返された。もうそれなら水道水で大丈夫ですから。

水道水を出してもらって、それをもう一度一気に飲み干してやっと一息。

ふぅ、と少し息を吐いてまた海岸にいる二人を見てみた。
丁度泰波さんが宇美さんにぶっ飛ばされている所で、海からは大きな水しぶきが上がっていた。
宇美さんは、海の方へと投げるつもりはなかったのか少し慌てた様子で泰波さんの名前を叫んでいる。でも、いつもなら駆けつけるはずなのにその場から動かず、海に近づかずに名前を呼ぶだけだった。
数秒もしないうちに泰波さんが海から顔をだした。というかあそこは極度の浅瀬だから倒れてもぎりぎり全身がつかる程度で、溺れたりなんかする心配もない。
泰波さんが立ち上がって海からでてきて、自分の赤の能力で服を乾かしている、それをみてほっとした様子の宇美さんだったけど、やっぱりまだ波打ち際にいる泰波さんのところに駆け寄ろうとはしない。

「もー、宇美ったらまた滅茶苦茶して。あとでちゃんと怒らないと…」
「……洋菜さん、ちょっといいですか」

呆れたように二人を見ていた洋菜さんが俺の方を見て、どうしたの?と聞いてきた。
俺は、少し間を開ける。

宇美さんが水と海が苦手なことは、チームの全員が知っている。
どうして苦手なのかも、その理由は一年目の終わり際に教えてもらっていた。

でも、だからこそいつも疑問だった。

「宇美さんはどうしてここに住んで、いつも海辺で特訓するんですか」

海が苦手な理由は悪夢を見るほど心に傷を負っているらしい。いつもあれだけ常に特訓だ何だと暴れ回っているのは、自分を疲れに疲れさせてその悪夢をみないようにすること。
うたた寝なんかしてしまうと、いつもその夢に溺れてしまいそうになるらしい。

そのぐらい海が怖いのに、わざわざ自分を追い込むかのようにこんなところに住んで、あんなところで特訓して、精神的に大丈夫なんだろうか。

「…航琉くんは賢いから、私が言わなくてもわかってるんじゃないの?」
「まあ……」

はにかむ洋菜さんに、言葉を濁す。
別に疑問だったとかいっているけど、あの人は聞けば素直に話してくれるし、聞かなくたって自分から話してくれる。
それに行動を見ていたら、あの人がどうしてそんなことをしているのかすぐにわかるようなものだった。

一年の頃、俺達より一つ上の「対抗戦で当たれば最悪」と言われているチームのやつに言っていた言葉を思い出す。

『私は水が怖い、怖いからこそ私の能力として戦う。怖いものと共にいるのはいいぞ、常に自分を奮い立たせられるからな』

そういって、宇美さんはいつものようにフィールド一面に水を張って戦っていた。
まあ結果は…「最悪」と言われている噂通りの、俺達の惨敗。宇美さんは、自分が張った水と、相手の青の能力に溺れさせれてしまったけれど。

その日の宇美さんは、負けたぐらいじゃへこたれないのに負け方が原因だったのかあまり喋ろうとしなかった。
だけど、相手にいきなりなんでそんなことを言ったのか聞いてみれば一言「奴は目が随分とおびえていたからな!」と笑っていた。

今思えばあれは「私は怖い物と一緒にいるからお前もそのぐらいの根性をもて!」という滅茶苦茶な自論を言っていたつもりだったんだろうな。
あの言葉を丸々日常生活に持ってきているのが、ここに住んでいることと特訓する場所が浜辺である理由なんだろう。

「宇美さんは自分を追い詰めるの好きですしね」
「ふむ、少し語弊があるような気がするがまあ嫌いではないな!!」

さっきまで浜辺にいた宇美さんが俺の真横に立っていて思わず驚いて肩を飛び跳ねさせた。……小脇に抱えられている泰波さんは完全にダウンしている。
私の話か!と嬉々として俺の横に座ろうとした宇美さんだけど、髪や露出の多い服にはあちこちに砂がついていることに洋菜さんが気がついてシャワーを浴びるように叱る。

「むぅ、私のどんな話をしていたか聞きたかったのにしかたがない。泰波!共にシャワーを浴びるぞ!!」
「うぃーっす……って待ってくれません!?一緒にとか無理ですけど!?」
「何を言っている、私の格好なら脱いでも特に変わりもしないだろう!」
「問題大ありだよ宇美の馬鹿!!ほら宇美は一人でシャワー浴びてきなさい!」

洋菜さんにぐいぐいと背中を押され、少し不満気味に居間から退席させられる宇美さん。
解放された泰波さんはさっきのシャワー発言のせいか少し顔を赤くしてほっと一息ついている。

「普段の露出だけでも三年たってやっと慣れたのに、一緒に風呂とか健全男子として死ぬんですけど」
「それは同意します」

全力でうなずく。俺もさっき一緒に入るか!なんて言われたし。
ため息をつく俺達に、「きっと二人に甘えたいんだよ」と洋菜さんにフォローのようなものを入れられる。

甘えられたり頼られたりするのはいいけど、あの人はもう少しそれを別の形にしてくれねえかなぁ。


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チーム海の夏の日の話。
何を書こうとしたかおちが思いつかなかった()

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