先輩達の仕事


討伐団本部にある、大きな掲示板。そこには上下左右バラバラに討伐依頼の紙が貼ってある。
日々その紙が入れ替わるので討伐団員は掲示板を確認しにくる……。というわけでもなく、昨今はネット社会。わざわざ討伐団本部に足を運ばずとも大抵の以来情報は団員のみが入れるサーバーに上げられている。
なので、本部にある掲示板を見に来るのは数百人いる討伐団員の中で日に数十人程度である。

その数十人の中の一人が、鮮やかな金髪をふわりと揺らしながら掲示板を眺める。

「なんかおもろい任務なーいっかなー」

口笛を吹きながら貼ってある紙達を流し読みするのは玲央。ちなみに彼がわざわざ本部に足を運ぶのはただの気まぐれだったりする。
危険度が高い任務はなるべく目を落とさず、近場且つさほど疲れもしない任務がいいな。なんて都合のいいことを考えている。

そんな玲央の青と藍の瞳が、一つの紙だけを捉えた。
彼の考えていた理想に近いものだったのか、一人で「おおっ!」と感嘆の声を上げてなんの迷いもなくその紙を掲示板から剥がした。
そして、掲示板の横に設置してある任務受付に向かって一直線に歩を進めた。

「受付のねーちゃーん!この任務やるわー!」
「はい。では任務に参加するメンバーを記入してください」
「ほいほい」

依頼の紙と交換のようにペンとメンバーを記入する紙を渡される。玲央はさらさらと自分の名前と、相方の千尋の名前を記入する。
うし、と小さく呟いて受付嬢に紙を渡そうとした。が、その手がぴたりと止まった。

「……うーむ…」
「もしまだメンバーが決まっていないのであれば、後日ご記入されるかメールの方で連絡頂ければ…」
「や、今電話するんでちょっと待っててー」

ズボンのポケットを探り、スマホを取り出して少し操作した後に耳を当てた。数秒の間の後、電子音に変換された声が聞こえてくる。

「もしもーし、郁ー?」





時と場所は変わり、現在玲央がほぼ勝手に任務先に元チーム名無しのメンバー四人で向かっているところだった。しかも詳しい説明は今しているという。

「実戦試験のお手伝い……ですか?」
「お手伝いっつーより下準備のバイトやなー」

ケラケラと笑いながら玲央は先頭を歩く。
一行が向かう先は段々と郊外の方へ向かい、人通りも少なくなってきている。既に誰も住まなくなった家が多々あり、放っておけば魔物出現地域に変わってしまいそうな場所である。

「面白い任務見つけた!って騒ぐから何かと思ったら……つまり学院生の試験場の下見と強すぎる魔物がいた場合討伐しとく雑用じゃない」
「えー!おもろいやん!!可愛い後輩達の為に一肌脱いだげるんやしさー」
「まあ、僕達が学院生の時もこうやって先輩達が下準備していてくれたお陰で試験を受けられたのでしょうし……。自分達がそれをするのは悪くないですね」
「そそ!それに学院に関することやし、久々に四人でいこうっつーこのオレの粋な計らい!完璧過ぎるわ!」

自画自賛を始めた玲央に、千尋は馬鹿にしたため息を一つ。郁も苦笑だけを漏らし、一番後ろにいる悠を気に掛けた。が、その気に掛けているのは普段とは違うものだった。
能力の影響で常にぼんやりとしている彼女だが、今日は一段と機嫌がいい。それは郁に取って嬉しいこと。だが……悠の機嫌が良い理由が、不安なのだ。

「玲央……どうして今日はホワイトタイガーを連れてきているんですか…?」
「気分気分ー。こいつおる方が魔物がどこにいるか分かりやすいしな。それにチビ助がぶっ倒れても今みたいに背中のっけたったら運びやすいやろ?」
「…もふもふ……」
「ほらチビ助もご機嫌やん」

そう、郁が悠のことを心配しているのは玲央が連れてきたホワイトタイガーの背中に乗っているからだ。
このホワイトタイガーは学院時代からよく玲央が連れていて、いくら玲央の能力で従わせていて被害がない。といわれても巨大な猛獣には何も変わらない。

郁はちらちらと後ろを気にしながら、前を歩く玲央と千尋に付いて歩いた。




「こんなところでしょうか?」
「そうね、出てくる魔物の生態も分かったし特に大きなのがいる気配もないし…そろそろ撤退する?」

任務の場所であり学院生の試験場の一つになるであろう大きなマンションの廃墟。そこで数時間ほど歩き回り、学院生が倒すには少し荷が重そうな魔物のみ倒していた四人。
一通り回り終わり、千尋がぐっと背伸びをして一息入れた。

一応今回の任務では責任者は玲央ということになっているから、彼が撤退命令を出さない限り勝手な行動は出来ない。ので、千尋と郁は玲央の口から承諾する言葉が出るのを待った。
しかし、何故か彼は今だ戦闘体勢のままだった。

「いやいや……これからが本番やでお二人さん?」
「……………いる……」

がぅんっ!と悠の手に持っている銃の発砲音が古いコンクリートに反響した。打ち抜いた場所からは、低い男性のうめき声が。
それを合図にするかのように、複数人の男達が現れ四人を囲みだした。男達の手には銃や刃物などの凶器。しかも、何人かはその凶器に宝石が埋め込まれている。どう見ても討伐団または学院生のみが持つことを許可されている凶器類の増幅器だ。しかし、男達はどうみてもその許可されている分類ではない。恐らく盗品等だろう。

「……玲央、状況を説明して頂けないでしょうか?」
「いやぁ〜じっつはこのバイト、魔物の生態調べんのも確かにあるんやけど。本命はこういう場所に勝手に入ってはよっわい魔物狩ってるごろつき能力者達の掃除やってん!」
「ああ、だから面白い任務。ね」
「チーム全員で対人戦なんて、対抗戦以来やろ?」

背中合わせに立っている三人に向かって、にっと悪戯っ子な笑みを見せる玲央。今日は随分とチームであったことにこだわるな……と郁は野党達に銃を構えながら考える。
そういえば、と郁は心当たりを思い出した。先日玲央が学院の方に遊びに行って後輩の対抗戦を見た後にその後輩と手合わせした、と言う話題をしていたのだった。あまりチームらしい行動はしていなかったが、後輩の姿を見て彼は何か懐かしい気持ちになったのだろうか。

チームらしい行動が出来なかったのは悠につきっきりになっていた自分のせいだというのに、わざわざ電話をして誘われたことに今更少し嬉しくなってきた郁はクスリと小さく笑った。

「……?郁、わらってる……?」
「何やて!こんな状況やってのに余裕やな郁!!」
「い、いえ……そういうわけでは……」
「ほら、じゃれてないでさっさと片付けるわよ!」

千尋の一声で、その場にいた全員が一斉に動き出した。


郁と悠の的確な銃とナイフのコンビネーションで一人一人の戦力を確実に削り、千尋の毒で翻弄してから炎で追い詰める。そして、追い詰められた野党の男達に迫るのは……玲央と、その横に地を這うようなうなり声をあげるホワイトタイガー。
始め四人を囲んでいた男達は、一瞬のうちに隅にへと追い詰められている。

「さぁて、さほど時間かかからんかったなぁ。この仔の餌になりたくなかったら一緒に討伐団本部いこーな?」

ホワイトタイガーの頭を撫でながら、にっこりと微笑む玲央。しかし目は全く笑っていない。男達の中で誰かが情けなく「ひっ」と悲鳴を上げた。
しかし、先頭にいる一番増幅器を持つ……恐らく野党達のリーダーであろう男はそれに対抗するようににぃ、と口角をつり上げた。

「それは、断らせてもらおうか!」
「う、ぉう!?」

恐らく野党のリーダーは茶の能力者であったのだろう、どぉん!!と地響きがした後に廃墟の床が割れた。玲央達四人は反射的にその場から飛び退き回避した。が、玲央のホワイトタイガーだけが反応できなかったのか、足下の床が割れそのまま下の階へと一直線に落ちていった。
野党達が一番恐怖していた存在が消え去ったことに、再び戦意を取り戻しそれぞれ武器を手にとってばらけだした。

「あーあ、もうっ。郁千尋チビ助!他の任せたからオレはこのリーダーみたいなんの相手するわ!」
「みたいではなくリーダーだ!!」
「おおナイスツッコミ!コンビ組んで漫才してみいひん?」
「ふざけているのか!!」

カッと顔を真っ赤にして怒る野党のリーダー。それを見て玲央はけらけらっと場に合わない軽い笑い声を上げた。
しかし、その軽い空気も一瞬。すっと表情を変えてずっと腰に付けていた鞭を手に取り、その鞭で地面を強くたたき付ける。乾いた痛々しい音が鳴り響いた。

「オレ、そーんな戦うん上手ちゃうねんけどなぁ」

ぼやくように呟くが、その言葉とは正反対に自信ありげに口元に笑みを浮かべた。
野党のリーダーが赤色の宝石が埋め込まれた銃を構える。赤も使えるのか、と内心小さく舌打ちをいれた。男が引き金を引くと銃から発射された火の玉……というよりはほぼ火柱と言える勢いのものだった。
一直線に向かってきた火柱を、軽々と横に避けて玲央は鞭を男の手をめがけてふるった。狙い通り見事銃を持っていた手を絡み取り、ぎりっと締め上げながら鞭を引く。

「ぐ……っこのくらい…!」
「このくらい、なんやって?」

にこり、と玲央が微笑んだ途端鞭がまるで電線のように電気を伝い男の体に流れ込んだ。大きく悲鳴を上げてぱちりぱちりと目に見えるほどの電気が男の周りをまとわりついた。
これで気絶するだろう。そう思って鞭を引いた玲央だが、男は一向に倒れない。思わずおお、と驚きと共に拍手を送った。

「自分えっらいタフやなぁ。これ耐えれたん数人だけやで?」
「ふ、ふざけやがって…!」

少し焦げてはいるが、しっかりと意識を保っている男の眉間は先ほど以上に皺が寄り、血管が浮き彫りになっていた。
ごごごっと再び地響きがなったと思えば、男の背後に鋭利にとがった巨大な岩がいくつも浮いていた。玲央は思わずげっ、と嫌そうな声を出した。

「死ね!!」
「いやや老衰がいい!」

岩の刃が玲央をめがけて勢いよく飛んでくるが、地面を蹴り出しなんとも身軽に岩から岩へと飛び移っていった。あっという間に、野党のリーダーの目の前へとたどり着いた。
そして、にこーっと今日一番の笑顔を見せる。

「じゃあ、そろそろおつかれさん」
「な…っ!うわああああ!!」

床を割って、巨大な植物が男の足下から一気に生えてきて野党のリーダーを捕らえた。しかし身動きが取れなくなっただけですぐに持ち前の赤の能力で焼き払おうとする。……が、男の目の前でぽんっと可愛らしい音を立てながら一つの花が咲きそこから毒々しい色をした花粉が男の顔全体に降りかかる。そして今まで抵抗していたのが嘘のように、一瞬で気絶した。能力フル稼働したことに玲央はふぅ、と一つ息を吐いた。

「はーい、アンタもお疲れ様」
「んお?なんや、そっちは終わってたん……うわっ!?チビ助何抱えてんねん!」
「…………おっきい、白ねこ…」
「悠……それ猫じゃなくて玲央のホワイトタイガーだからね?」

玲央が戦っている間に、後ろの三人の先頭は既に終わっていたようで下に落ちたホワイトタイガーを助けていたようだ。ただ、その大きな巨体はチームの中で一番小柄且つ、行きに運ばせようなんて言われていた悠が何の苦労もなく抱えているのだ。
これには流石の玲央も思わず苦笑を漏らしてしまう。


野党回収の頼みを討伐団本部にした後、四人は廃墟を去った。が、あまりにも暴れすぎでこの場を自分の実習試験に使われたらどう思うなんて教師陣から説教を喰うはめに。
こってりと絞られたのは責任者の玲央のみであったが。


初心に戻れる仕事

(オレだけやなんて理不尽や!)(でも一番壊したのはアンタでしょ)(まあまあ、中々楽しい任務でしたし少しぐらいいいじゃないですか)(………たのしい)
(お、じゃあまた学院側の任務あったらみんなでいこかー!)

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