怖い人



教科書や参考書が詰まったカバンを抱きながら、さっき会ったことを思い出してひとつ、ため息。最近、自分で自分が何してるかちょっと分からなくなってきた。

「なんで声かけちゃうかなぁ……怖いのに…」

とぼとぼと足を進めながら、もう一回ため息。どうもため息してる回数が増えてるみたいで、幸せ逃げちゃうよ?と琴音ちゃんに言われたのを思い出してもう一回しかけたのをぐっと飲み込んだ。
変わりに自分の目尻から暖かい液体があふれてくるのが分かって、それもぐっと堪えてみるけど……。

「うう……最近余計に涙でやすくなっちゃったよぅ…」

昔から泣き虫でよく泣いてはいたけど、これじゃあ大人になる前に涙が涸れてしまいそうな頻度で最近は泣いてる気がする。
討伐の実習が怖いとか、対抗戦が怖いとか、上手く戦えなくて大変とか、色々あるけど。やっぱりここ最近の理由と言えばとある人物を思い出す。

「なんであんな楽しそうに泣いてるところみるんだろ……数次くん……」

小学校の頃もよく男の子に虐められて泣かされていたことはあるけど、数次くんほど怖いと思ったことはない。その上能力でツタとか使ってきて、余計に怖いし…。
でもなんでか、見かけたら思わず声かけちゃうんだよなぁ……しゃべり方とか怖いから、すぐ泣きそうになっちゃうのに…。
あまり外に出るの好きじゃないらしいから、会う回数が減って泣かなくてよくなるのに、家にずっといるのはあまりよくないからって気にしちゃう私は何をしたいのかなぁ……。

さっきだって、普段あまり見たい時にいたからって思わず挨拶しちゃって……。うう、後先考えずに行動してるなぁ……。

「誰かに相談しようかなぁ……」

……といっても、誰が相談出来るかな……。出来れば、数次くんの考え方とかもよく分からないから出来れば男の人がいいんだけどなぁ……。
拓さんと遼征くんは数次くんのことあまりよく思ってないだろうから相談しにくいし……琴音ちゃんは女の子だし…最近お出かけとかで急がしそうだしなぁ……。……そもそも、数次くん知ってて私の相談乗ってくれそうな男の子って………。

「…………あ、」






「……で?だから早苗は俺に電話かけてきたと」
「ご、ごめんね那智くん…!いきなり相談に乗ってなんて…!」
「まあいいけどよ、別に用事なかったし」

ファーストフード店のテーブルで、対面の方に座ってくれてるのは那智くん。最初はちょっと怖かったけど遼征くんたちと話してるところにたまに混ぜてもらってたから最近仲良くなってきてて、それに数次くんと同じ17歳だし、自分が理想を描いていた相談相手にはぴったりだった。
ズーッと音を鳴らしながらシェイクを飲み、那智くんは頭をがりがりと掻き始めた。

「っつってもなぁ…霊付だろ?確かに年齢別授業は同じだけど、あいつあまり授業こねぇし、あんま喋ったこともねぇし」
「……え?そうなの?」
「晴れの日は大体いねぇぞ、あの引きこもり」

あっちは俺のことすらしらねぇんじゃねーの?と付け加えられ、少し肩を落とす。
そっかぁ……あまり知らないのか……ううん、全く知らないより全然いいけど…。……あれ?

「じゃあなんで那智くんは数次くんのこと覚えてるの?」

普通の学校ならクラスメイトは行事とかで名前だけでも覚えるけど、養成学院は年齢別授業はそんな重要じゃないし同じクラスの人を知らないっていうのはよくあることだから予想はしてなくはなかった。
でも、片方が知ってて片方が知らないって言うのはあまり聞かないから、純粋に疑問が湧いた。

「あいつの戦い方目立つし。あと泣き顔好きとか趣味わりぃから印象が強いんだよな」

さらっと言ってくれた那智くんの返答に、すごく納得してしまった。実際に対抗戦で当たる前から、何度かあの木をドーム状にしてるのを見かけて、緑の能力の人すごいなぁと思ってたなぁ。
そしてその後の趣味悪いのは……うん、対抗戦で当たってから初めて知ったけど…。

「で、早苗はその趣味わりぃのに最近悩まされてると」
「う、うん……」
「つかお前の能力だったらビビってても逃げれるだろ?なんで素直に逃げずに話すんだよ」
「それが分からないから悩んでるんだよぉぉ……」

そう、昔は虐めてた男子からは能力を使って逃げてた。というより、逃げたい逃げたいと思っていたら白の能力を使えるようになったという、私の能力開花の話はなんとも情けない理由だったりする。
その情けないにしても逃げるために使えるようになった能力なのに、なんでか使って逃げようとしないのがが不思議。

「じゃあ結局、早苗は霊付にどうしてほしいんだよ」
「どうって……」

………口調怖いのは私が怖がりだからいけないだけだし、そうだなぁ……。


「普通に、話したいなぁ…。あと、泣いてる顔以外も…こう、興味?持ってほしい…のかな?」
「いや、俺に聞くなよ…。つまり仲良くしたいんだろ?」
「仲良くしたいの…かなぁ?」
「だから聞くなって…」

頬杖をついて呆れたようにため息をつく那智くん。私が分からなかったら那智くんが分からないのは当たり前だもんね…!
でも、那智くんの言う通り仲良くしたいのかな…。いつもなら男の子怖くてそんなこと思わないのに、そう思うってことはそうなのかなぁ……。

「……うーん…」
「ま、あんな変人の巣窟みたいなところいたら、気になる奴が今までと全然違うくなるだろ」
「那智くんは違ったの?」
「………まあ、昔はもっと(性別的にも)普通な奴好きだったのに……俺は何を血迷ったんだろうな…」

ふ……、と遠い一点を見つめ那智くんは何か後悔したような、とにかくその話題には触れてはいけない気がした。一体どんな人好きになっちゃったんだろう…!
気を紛らわすように、手に持っていたシェイクを一気に飲み干した那智くん。はぁ、と一つ息を吐いてから立ち上がった。

「まあ、霊付をどう思ってるか決めんのは早苗だから俺はこれ以上言わねぇけど。嫌なら嫌で本当に逃げろよな。片桐と神埼が怒るし」
「う、うん。相談に乗ってくれてありがとう那智くん」
「おー、また何かあったら適当に電話しろよー」

ぽんぽんと私の頭を数回叩いたら、那智くんはリュックを背負いスケートボードを小脇に挟んでお店を出ていった。
私といえば、なんだか気の抜けた息を一つ吐いて、背もたれに全体重を任せた。

「………まずは頑張って、泣かないように話すことかなぁ…」

数次くんのこと好きかどうか分からないけど、やっぱり、普通に話してみたいな。


怖い人=気になる人

(…あ、数次くんだ)(な、泣かないようにってどうしたらいいんだっけ…!)

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