那智vs拓


「いいこと!負けたら承知しませんわよ!?」
「ああもう!うっせぇな分かってるっつの!!」

俺に向けて指しているレティの指を叩いて、周りを俺の腰ぐらいの高さの柵で半径40mぐらいをぐるりと囲んだ、中庭にある簡易フィールドに入った。

逆サイドにいる相手を見てみると、フィオナの予想通り神埼が柵を跨いでいた。


「拓さんっ!あんなチビ相手だと退屈でしょうが頑張ってくださいね!!」
「おー…」
「たっくさーん?また眠いのかにゃーん?」
「あ!もしかしてお腹減ってます?」
「ん、大丈夫」

向こうは向こうで盛り上がってるというか、相変わらず神埼への懐きっぷりがすげぇなぁ。

つかあのオールバック後で絶対殴ってやる…!

「気を付けろよ那智、神埼は結構な手練れだぜ」
「遠距離が得意と言っても、体術も優れていたわよ。あの方」
「なるべく…怪我が無いようにな…!」
「おう、了解了解」

柵の外の三人に手をヒラヒラと振って、スケボーを抱えてフィールドの真ん中辺りまで歩く。
同じように反対側から歩いてくる神埼をじっと睨んでいたら、向こう側のオールバックした奴から何か文句飛ばされたけど無視無視。

フィールドの真ん中あたりにある白線で足を止め、反対側にある数メートル離れた同じ白線に神埼も足を止めた。

10cmは差があって3歳年上の男をぐっと睨み付けた。


「対抗戦、チーム五十嵐vsチーム納豆食べたい。
第一回戦、五十嵐那智vs神埼拓。試合開始!!」


審判の叫んだ声と共に、ガゥン!と銃声が轟いた。
聞こえた銃声はたった一つなのに炎と水の球体が5、6個こっちに飛んでくるとか、どんな早打ちだよ!!

いきなり最初から相手と自分の差を感じながら、慌てて乗っていたスケボーと左足首に力を込めて、スケボーの下に小さな竜巻を起こして空高くに上昇した。

よし!銃から出た炎も水も直線に飛ぶし、こっからなら撃ってきたのも威力が落ちて竜巻で消せる!
少し垣間見えた勝利に、頬が緩む。少し後に考えれば、これが俺が以下に経験を積んでないかよく分かる。

神埼を竜巻で囲んで、終わらせる!そう思った瞬間に、目の前が赤と青だけになった。

「うっ、そだろ!?」

さっきの銃から出た火の玉や水の玉に比べて一回り小さいけれども、数は数倍。
冷や汗か火の玉の熱気のせいか分からない汗が頬を伝い、また慌てて、今度は急降下する。
頭の真上では、二種類の玉が真ん中に集まってぶつかりあい、炎が水に消され、水が炎に蒸発された音がジュゥウ!と鳴っていた。

降下している間も、上下左右から水と炎片方ずつの玉に挟み撃ちに合いかけるが、全部ギリギリのところで避けきった。

炎だけの方が確実に威力があるのに水と一緒に出してるのは、ただルールで殺しては駄目だからか、軽い火傷になるようわざわざ威力を弱めているのか、とにかく甘くされてる気がしてならない。腹が立つ!!

「これでっ、ぶっ飛べ!!」

風をクッションにして地面ギリギリまで降りた直後、巨大な竜巻を神埼の目の前に作り出した。
慌てた声を上げる向こう側。だけど、それに反して平然とした表情の神埼拓。

軽くバックステップを入れたと思えば、俺が作った竜巻とは真逆の回転をする無数の風の玉が盾のように奴の前に現れた。
俺が呆然としている間に、風の玉の壁と竜巻の対決は俺の竜巻が負け、相殺して無くなった分数が減った風の玉がこっちに飛んできた。

「くっそぉ!アイテム無しでその威力ありかよ!?」

再びスケボーに力を入れて逃げる事に。今度は上じゃなくてスケボーの裏面を地面すれすれの所にして、自分の最大級のスピードで移動する。

その先々に会わせて銃で撃った火の玉水の玉、それを避けながら追いかけてくる風の玉を小さな竜巻を作りながら相殺していく。

つまり、防御一点だ。


また上にあがるか!?駄目だそれだとさっきの二の舞だ!
火の玉を逆に利用して火柱を立てるか!?無理だこんな移動と防御に徹してるなかで三つ目の行動なんて俺には自滅行為だ!!
引き分けに持っていくか!?電子掲示板の時間はまだたったの4分しか経ってないし逃げと防御だけの俺に点数は入らない上最後まで体力が持つわけがない!!
何とか懐に入って体術はっ、絶対俺の成績で勝てる見込みなんかない!!


どうするどうするどうする!?どうする!!?


「っっだぁあああ!!!!!どうするもこうするもねぇ!!!!こうなったらっ!!」

スケボーの進行方向を90度変えて、神埼の正面に突っ込っこんでいく!
神埼の変わらなかった表情が驚きで目を見開き、俺を迎え撃つために銃を連射する。

それを最低限に左右に動いて避けながら、左足首へ最大限に意識を集中して、身体の周りに巨大な竜巻を纏わせて突進した。


「くっそ…!」

神埼がギリリと歯軋りをしたのが一瞬だけ見えて、そこから見えなくなった。

俺と神埼の衝突と共にドォン!!と轟音が鳴り響いて、竜巻を纏うのを止めた俺はそのまま進行方向の向きへと身体を放り投げだされ、地面に転がって柵に激突した。

「いぃ…ってえ……!!」

そのまま仰向けになって大の字に寝転んだ。
今の、破壊力と攻撃力は完璧なんだけど、終わった後にまだ制御が出来ないからなるべくやりたくなかったのに……!!

もくもくと砂煙が立ち込めて様子は見えないけど、さっきぶつかった感触はあったし確実に神埼をぶっ飛ばせたはず……!

風を軽く起こして、見てみようとした。けど、腕と腹が刃物で切りつけられた痛みが走り、風を起こせずにいた。

………ん?なんで、刃物の痛みなんだ…?

首を傾げた瞬間、空から自分のスケボーが垂直に落下してきて、俺の顔の真横へと突き刺さった。
それに続くように風の玉が落ちてきて、両腕両足を地面に押さえつけて全く身動きが取れなくなった。

「な…え……!?」
「…あんま、こっち使いたく無かったけど。まあ、仕方ないか」

状況に俺の思考が追い付いてない中、砂ぼこりが薄れて神埼の姿が見える。

それと同時に、試合終了と一回戦はチーム納豆食べたいの勝利!という審判の声が上がった。

そりゃどう見ても、俺は完璧に動けないし、もし俺が魔物だったらもう倒されてる状態だし。負けだよな。うん。当たり前だな。
つか審判、納豆食べたいって言いづらくないのか、なんかその名前なだけで緊張感緩むんだけどどうなんだよ、おい。


「おい……大丈夫か?」
「え、ああ…おう…」

頭が混乱したまま、神埼が伸ばした手を素直に取って立ち上がる。
あれ、もう風の玉無くなってたのか…。

一応さっきので転んだのか、俺と同じように泥塗れになっている神崎を眺めていたら、ふと神埼の俺の手を取ってない方の手の物に目が行った。
水色の宝石が埋め込まれたサバイバルナイフが二本。

……え?サバイバルナイフ?銃は?

「あ…の、これ…」
「ああ。これ、俺の切り札。風で振動させたら何でも切れる優れもので、さっき咄嗟に使った。
本当はお前の風だけ斬ってぶつかるだけに抑えようとしたんだけど、ごめん。そのまま腕とかも斬っちまって」

いつも眠たげにしか喋ってないのに、饒舌に話すからまた頭が追いつかない。
え、神埼ってこんな喋んの?まじで?

「まあ、さっきの。ちゃんとぶつかるまで前見えて、最後も制御できたらお前の勝ちだったし。
頑張った頑張った」

柔らかく笑いながら頭を軽く二、三回、よく神埼のチームの奴等にしてるように叩かれて撫でられた。
少しムカついたけど、その通りだろうし、なんとなく片桐達が神埼になついてる理由が分かった気がする。

「じゃあ、ちゃんと包帯巻いとけよ」

よしよしという感じに撫でられて、向こうのチームの方に歩いていった。

……あーあ、なんつーか……。


「…まだまだだなぁ……」


一回戦 勝利神埼拓

(うっわ……レティがめちゃくちゃ怒ってやがる……)

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