衝突


「こっんのっ、どこにいやがる!!」

駅から降りて数十分、フィオナが見かけたらしい場所までは辿り着いたまではいい。だけど、その場所にはもうすでに人影はなかった。
その場にいる誰かにそれらしき人がどこに向かったか聞けばいいと思っていたが、どうやら魔物の出現のせいで避難勧告が来ているのか人と会うこともない。

しかも問題はそれだけじゃなくて、全力で飛ばし過ぎたせいか少し視界がくらくらする。
手当たり次第に動き回ることは承知の上だったから文句はない。だけど、まさかここまで能力を維持する力が少なかったとは思っていなかった。

「くっそ……っ」
「な、那智……頼む、無茶、しないでくれ…!」
「無茶はしてっ、ねぇ!」

迷惑がだとかそういうのじゃなくて、純粋に心配しているフィオナの声は、殆どやけくそになってる俺には逆効果だった。
さっきよりもさらに強い追い風を起こして、一気にスピードを上げる。今なら俺の中の限界を超えられる気がしてきた。

フィオナが探している奴が今居る場所は、大体の予想は立てている……つもりではいる。
今この近辺で魔物が出現していて、それで討伐団員がその場所の近くにいるなんて、十中八九その魔物の討伐に向かってるに違いない。
だから魔物が出てきそうな感じの場所に向かってみているけど、行き止まりだの全然違いそうな場所だのと俺の勘は全くもって当たらない。

そろそろ俺の体力の底もつきそうになったその時、民家の塀によってYの字に分かれているに道が目に入ってきた。
もう一々止まって考えるような余裕は俺にはない。けど、これで道をまた間違えればもうフィオナを後ろに乗せて風を起こす体力も底をつきかねない。

「っ、フィオナ!どっちだ!」
「わ、私が決めるのか…!?」
「ずっと会いたかった人だろ、フィオナがいると思った方に絶対いるはずだ!!」

理論とかそんなの全くない。だけど、ここまでやってきたこいつがいると思った方になら、絶対にいる。
フィオナがどちらか決めあぐねている間もどんどん前へ進んでいき、もう分かれ道は目の前だ。このまま進めば塀に激突しそうだ。けど、フィオナがどっちか言うまでそのまままっすぐ突き進む。

「み、っみぎだ、那智!」
「了解!」

ぐん、と体の重心を右に傾けて、少しだけスケートボードの底を塀にかすめながら曲がる。
右へ、左へ、分かれ道は全てフィオナが指示する方向へと進んでいく。


たった数回、何度か道を曲がったその時、突然俺の視界には道ではなく、何か別の物でいっぱいになった。
それが人だと分かった時にはもう遅くて、「よけてくれ」と言う暇もなく、勢いを殺せる訳もなく、全速力の状態で激突してしまった。

勢いのまま、そのぶつかった人ごともつれ込むように地面にたたきつけられる。

「いって……っ。す、すみません怪我は、…っ!?」

ないですか、という俺の声を待たずして、相手からの反応があった。
突然胸ぐらを捕まれたと思ったら、そのまま視界は一気に変わり、鈍い音を立てながら背中に強い衝撃が走った。

一瞬何が起こったか分からなかったけれど、フィオナが俺を呼ぶ声で意識がはっきりした。今俺は、ぶつかった相手に地面にたたき付けられているみたいだ。
それどころか、首筋に違和感を感じると思えば、ぎらりといやな光が反射している、日本刀が俺の首元ぎりぎりのところに。

予想もしていなかった事態に、思わず息が止まる。

「……っ」
「ぶ、ぶつかったことは謝る!だ、だから、那智を、友人を離してくれないか…っ、急いでいて、わるぎは、」
「うるせぇゴミが、一度死んでわびろ」

俺を見下す鋭い赤い目と、ドスの聞いた声色が、ぶつかった相手が最悪だったということを理解させる。
それと同時に、こんな息をすることすら許されないような殺気を出せて、日本刀なんて一般人が確実に持っていない物を持っていることから、別のことと結びついた。

こいつ、確実に討伐団員だ。

俺の中でそのことが結びついた瞬間、自分でも何を思ったのか分からないけれど、首元に突きつけられている刀を素手で握って、押し返す。
能力の使いすぎか、たたき付けられて痛みが限界まできていたのか、どれか分からないけれど痛覚が鈍っているようで、手のひらには痛みは感じなかった。

「仕事の邪魔をしたのとぶつかったことは後で半殺しにするなりなんなり好きにしてくれ!でも俺達は人を探してるんだ!褐色の肌の外人がここにいるはずだ!心当たりがあればそいつのところに連れて行ってくれ!!
そこにいる俺の友達の大切な人なんだ!」

討伐団員の男がぴくり、と一瞬殺気以外の反応を示した。これは、もしかしたら、心当たりが本当にあるのかもしれない。
状況は最悪だけど、今こいつ以外にフィオナの探している人へたどりつくためのヒントは何一つない。なんとしても、教えてもらわねぇと。

もう一度懇願の言葉を出そうとした。その時に、いやな地響きが辺りに鳴りわたった。

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