僕は神様だから皆の幸福を願うのだ、と。少し自嘲気味に微笑みながらそう呟く、本当に神のような美貌を持つ男のことを思い出した。ならばお前の幸せはどこにあるのかと問えば、皆が幸せなら僕も幸せなんだよ、とかなんとか言って相変わらずの微笑を浮かべていたと、思う。その、ある種自己犠牲めいた考え方が俺にはどうしても理解出来なくて。でもそいつに真っ正面から否定の言葉を吐き捨てることは躊躇われて。結局俺は、苦い顔をしながら地面を睨み、口を閉じることしか、出来なかったのだった。
じりじり、と。燻る何かが、俺を追い立てていたような、そんな、天気の良い日の、ことだった。
「照美」
ああ、そういえば今日も、天気が良い。絶好のサッカー日和だが、殺人的な日光が気にかかる。絶妙な加減で金色に反射して、眩しいことこの上ない。直視、できない。
「なに、南雲くん」
応える声が、やけにぶれて聞こえる。暑いんだ、そう、熱い。やけに喉も乾く。頭がおかしくなっても不思議じゃないぐらい、だ。
ごくり。唾を飲み込む音が、やけに大きく体内に響いた。
「あの、さ……」
「うん」
「…………」
「どうか、した?体調でも悪いのかい?」
「………悪いかも、しんねえけど」
「えっ!?それなら、早く医務室に、」
「照美」
俺を気遣ってか、こちらの体を支えるように伸ばされた、細くて白い腕。それをぱしりと掴むと、じんわり、あたたかい体温が手のひら越しに伝った。当たり前だ、こいつは血の通った、人間なのだから。そうだ。いくら神様の仮面を被ったって、お前だって人間だ。幸福を願われる存在で、幸福を願ったって良い人間だ。……そんなの、聡明なお前ならとっくに気付いてるだろうけど。
「俺の幸せには、照美が必要だから」
ただ、願う勇気が無いと言うなら。そう、きっかけが必要だと言うのなら。こちらから引き寄せてやっても、構わないと、思う。
じりじりじり。意を決して顔を上げたことで、日に晒された顔面が焼かれていく音が耳の奥に届く。熱い、本当に、熱い。眩しい。眩暈がする。ああ、うん。俺さ、そんなに幸せそうに笑うお前の顔、初めて見たかも、しれない。
「うん、……うん。僕もね、南雲くんが必要だよ」
そのまま泣きそうに顔を歪めた照美は、絞り出すようにそう言葉を零した。
楽園に沈む君を救済(頭がおかしくなきゃ、こんなこと言えたもんじゃない)
120212