ぴりぴり、と。身に凍みる寒さに耐えきれずに、はふ、と一息吐けば、まるで魂が吐き出されるかのように白い塊が口から溢れた。
ああ寒い。ありえないぐらい寒い。冬だから当たり前だろと言われればそれまでだが、それで納得できないからこうして心中で悪態を吐いている訳でして。
改めて言う事でもないが、俺は寒いのは嫌いなのだ。無理矢理独りであることを突きつけられるようで、嫌いなのだ。冷え切った空気に取り囲まれた身体は、温もりを持った個体は、いつだって一つだ。誤魔化すことのできない孤独。嫌い、だ。
「おい、不動ってば!」
そこまで考えたところで、雑音を遮っていたヘッドフォンを後ろから引っ張られ、さらにいきなり大声を鼓膜に叩き込まれて、思わず顔を顰めた。声を聞いただけで、誰かはすぐに分かる。
「……おい、何すんだ南雲」
「いやだってお前、俺がずっと後ろから呼んでるのに気付かねえんだもん」
「ヘッドフォンしてんだから当たり前だろ頭使え馬鹿」
「うっせ、アホ。って、ちげーんだよ不動!」
割といつも通りの会話と言えるかどうかも微妙なやり取りを交わした後に、再び歩みを進めようと俺は身体を前に向ける。と、何故かテンションが高い南雲に両肩を掴まれて力尽くで進むのを阻まれてしまった。なんだこいつうざい。
「なんだよお前なんでそんな興奮してんだよ」
「え、不動はこういうのに盛り上がらないタイプ?」
「は?だから、何がだよ」
話の筋が見えないことにイラついて思いっきり眉をしかめてそう問いかければ、南雲はその大きな眼を零れ落ちるんじゃないかと思うほど見開き、ぱちくりと一度音が鳴りそうなほど瞬いた。そして、一言。
「雪!」
え、と思うと同時に視界に飛び込む、小さな白。そのまま呆然と顔を空へ向ければ、ふわふわと甘い粉砂糖を振り掛けられているような錯覚に陥った。
本当だ。雪だ。雪が、降っている。改めてその事実を噛み砕いて消化すると、結構な量の雪が降っていることに気付かされる。南雲に言われるまで気付かなかったのが不思議なくらいだ。それほどまでに俺は深い思考に耽っていたのだろうか。
一通り辺りを眺めてから視線を南雲へと戻すと、そいつは少し呆れたような顔をして俺を見ていた。
「なーんか不動って、いつも気を張ってるようで意外と抜けてるんだな」
「……うるせえ」
「まあ、人間誰でもそういう時あるって知ってっけどな。今回は俺がいたから、初雪を見逃さなくて良かったじゃねえか」
そう言って寒さで赤く色づいた頬を携えて悪戯に笑う南雲を見て、俺は思わず雪を見るふりをして顔を背けた。
ああ、そうか。そうだな。いつだって俺は独りだけど、独立した俺として俯いて歩いているけれど、そこに俺じゃない誰かが歩み寄ってくれるから、独りだと見逃してしまうものにも気付かせて、もらえるんだろうなあ。
「………おい、南雲」
「ん?」
「積もったら、雪合戦でもすっか」
「お、良いな!円堂とか涼野とかも誘って対抗戦やろうぜ!」
子供みたいに無邪気に喜ぶそいつを見て、俺の口元にも自然と笑みが浮かんだ。いつの間にか掻き消えた寒さの礼は、白い雪玉を顔面にぶつけてやる事で返してやろう。
白い海では溺れない120124
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友達の誕生日に捧げたもの。