ダウンヒル――――
プロジェクトDの勝利で締め括られた神奈川戦。
バトルは終わったというのに箱根の山は未だに熱気に包まれていた。
山頂に再び集まりプロジェクトDのメンバーはそれぞれ拓海と啓介に称賛の声をかけている。
豪は申し訳なさそうな顔をして俯き謝る信司に労いの言葉をかけていた。
その横に、ひとりだけ辺りをキョロキョロと見ている名前の姿がある。すると豪が気付いていないことを確認し、プロジェクトDのいる方へと駆けていった。
「あの、すみません」
「!」
「高橋さんって、貴方ですか?」
「どっちのことだ?兄弟だから苗字一緒なんだけど・・・」
「えっと、啓介さん?かな。豪ちゃんとバトルしたの・・・」
「あ?ああ、なら俺だ」
豪ちゃんって誰だ、と一瞬首を傾げたがすぐに先ほどバトルした北條豪のことだと気付き啓介が答える。するとお目当ての人物だったことに一瞬驚いていたがすぐにニコッと笑った。
「私、豪ちゃんの幼馴染みなんですけど・・・今日、豪ちゃんとバトルしてくれてありがとうございました」
「え?ああ、別に礼を言われるようなことは・・・」
「いいえ。豪ちゃんがあんなにも楽しそうな顔してるの、ほんとに久しぶりに見たんです。今日貴方とバトルしたから、豪ちゃんは走る楽しみを思い出せたんだと思います。ありがとうございました」
初対面の相手に頭を下げてまで礼を言われ、正直啓介はかなり戸惑ったが、きっと彼女にとって大きなことだったのだろうと汲み取りふと笑みを浮かべる。
「お安いご用だよ。また、いつか一緒に走れたらいいな」
「そんときは豪ちゃんが勝ちますから!」
「負けねぇよ」
ニッと笑った名前につられるように啓介も笑った。
「あと、涼介さんってどの方ですか?」
「あ?兄貴ならあそこにいるよ」
「わかりました!啓介さん、ありがとうございました!」
最後にまた頭を下げ、慌ただしく今度は涼介の元へと走っていった。涼介も誰かがこちらへと向かってくるのに気付き松本との話を切り上げ視線を向ける。
「あの、涼介さんって貴方ですか?」
「ああ、そうだが」
「・・・凛ちゃんのこと、見捨てずにいてくれてありがとうございました」
「!」
涼介はもちろん松本も目を見開き驚いた。そんな二人に名前は目を細め、微笑む。
「貴方ですよね、凛ちゃんとバトルして、かえてくれたの」
「!どうしてそう思うんだい?」
「凛ちゃんからたまに貴方の名前を聞いていたので。それにあの日は凛ちゃんにとっても特別な日だったから・・・」
香織の命日だったあの日、もしかしたら今度こそ凛が自暴自棄の果てに自らの命を絶ってしまうのじゃないかと不安で仕方なかった。
でも、凜は帰ってきた。
しかも、前とは違って何かスッキリしたというか、取り憑かれていたものが祓われた顔をしていたのだ。あくまで自分の勝手な憶測なため、真実はどうか分からないが傷だらけだったGT-Rを見てきっとバトルしたことは間違いない。
「凛ちゃんは何を聞いても答えてくれないけど・・・きっと貴方だろうなと思って。私じゃ何も出来なかったから・・・本当にありがとうございました」
「・・・俺の方こそ感謝すべきことは沢山ある。ありがとう」
微笑む涼介にへへっと名前は笑った。
「凛ちゃんと豪ちゃんと、バトルしてくれてありがとうございました。また機会があれば箱根に来てください!いつでも待っ・・・むぐ!」
「お前は何やってんだ!ちょこまかと!」
最後まで言おうとしたところで後ろから口を手で塞がれた。
そこにいたのは焦った表情の豪。
暴れる名前を後ろから抱き締めるように動きを封じ、涼介へと向く。
「んむむ!!んー!!」
「・・・悪かったな。なんか失礼なこと言ってたら謝る」
「いや、大した話じゃないし、別に謝るようなことはないよ」
「んんむ!!っ、ぷはっ!何すんのよ豪ちゃん!!」
「お前が急にいなくなるからだろうが!」
「お話してただけじゃん!豪ちゃんに迷惑かけてない!問題ない!」
「大ありなんだよ!頼むから大人しくしててくれ・・・!」
顔を手で覆う豪を見て名前は納得いかないのか脹れっ面をしながらも「はーい」としぶしぶ返事をした。それを聞き豪は盛大なため息をつき、改めて涼介へと向く。
「・・・楽しかったよ、ありがとう」
「!こちらこそ、ありがとうございました」
お互いに笑みを浮かべた。それを後ろで見ていた名前も嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ほら、行くぞ」
「はーい!涼介さんバイバイ!」
「バイバイ」
「啓介さんもバイバーイ!」
「もういいから黙れ!」
豪に半ば強引に引きずられるようにして名前は連れていかれながら涼介とすれ違い様に啓介にも大きく手を振った。周りの視線を集めながら豪は自分のチームの元へと戻る。
「もうちょっとお話したかったなー」
「動くな。いいか、俺がいいって言うまで動くな」
「えー」
「絶交」
「やだっ!!」
「じゃあ動くな」
またもや脹れっ面をして大人しく動かなくなったのを確認して盛大なため息をついた。そんな豪の様子を見ていた久保や信司は驚きを隠せない。
なんていったって、ここまで取り乱されている豪を見たことがないからだ。
「北條さん、あの方は?」
「幼馴染みだよ」
「そうなんですか・・・」
「・・・なんだよ」
「いや、北條さんにもこういう女性が側にいるんだなって」
「変な勘違いすんな。幼馴染だ」
「私は豪ちゃん大好きだよ!」
「頼むから黙れ!」
嬉しそうに笑う名前に豪はため息をつくが、つられるように笑う。そんな二人のやり取りを見て周りも笑みを浮かべるのであった。
またいつかを信じて