春の縁側


今日は出陣も無いし、内番の担当でもない。

何か手伝うにも、自分より身軽な子が沢山いるので不必要だろう。

そんなことを考えながら庭を眺めてお茶を飲む。

この本丸へ来たときから、縁側は石切丸のお気に入りの場所だった。


「参拝客が来ないというのにも慣れてしまったな」


季節は春。

桜が舞い、魚が泳いでいる姿もよく見える。

お茶とお菓子を頂きながら庭を眺める時間は平和そのものだ。

神社にいた頃とも違えば、主の命で戦場に行く時とも違う。


「しかしこうも平和だと、ね」


暖かな春の陽気というのはどうも眠気を誘う。

行儀が悪いとはわかっているが、縁側に腰かけるように姿勢を変えた。

ここで寝てはいけないと思いつつも、穏やかなこの場所ではどこか甘えてしまうようだ。






短刀達のはしゃぐ声で目が覚めた。

日当たりにさほど変化はないようで、眠っていた時間もそう長くないらしい。


「ようやくお目覚めかな?」

「青江くん、いつからいたんだい?」

「石切丸さんがうとうとし始めたくらいからかな。放っておいたら落ちそうだったから」

「そうか、恥ずかしいところを見られてしまったね」


気が付けば、隣に腰掛けていた青江の肩に体を預けている。

恐らく、彼自身が石切丸を引き寄せて支えになってくれたのだろう。


「ありがとう」

「礼なんていらないよ。どうせなら、もう少し寝てても良いんだよ?」

「遠慮しておくよ。こんなところ、小さい子たちに見られるわけにいかないからね」


軽く体を動かして、空いた湯呑と皿を持って立ち上がる。

眠っていた時間はわずかなもので、もう少し眠っていたかった気もする。

しかし、あの姿勢で改めてと言われては目も覚めてしまう。


「青江くんがいるときは油断できないなあ」


彼でなければ、さほど顔も赤くならないはずだ。

これをどう誤魔化すか、今は逃げるしか方法が思い浮かばない。

そんなことを知ってか知らずか、何も言わず青江は石切丸を見送った。


「相変わらず、かわすのが上手いなあ」

縁側に腰かけたまま青江が1人呟く。

もう少し。

その言葉に偽りはない。

春の陽気は油断を誘う。


「今度は僕も一緒に寝てしまおうかな」


彼を捕まえておくには、油断しているところを狙わなくてはいけないらしい。

この季節、石切丸のいる縁側は青江にとってもお気に入りの場所だった。





[ 1/2 ]


[目次]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -