[ねこねこ★イベントspecial]劉雷翔
(へえ……)
雷翔は自分の頭頂に生えたふかふかの白い猫耳と、尾てい骨あたりから伸びる長い白尾を鏡に映して、興味深く観察した。
屋敷に猫菌が蔓延しているし、感染した山野井や水嶋と交わったから感染するだろうとは思っていたので動揺はしない。むしろ発情して火照っていく身体を面白く感じている。
これは色々と楽しめそうだ。尻尾と猫耳が自分の意思で自由に動かせるのも面白い。無意味に尻尾を揺らめかせて、雷翔は上機嫌に笑った。
「おや」
さて誰のところに遊びに行こうか……。猫耳をぴこぴこ動かしながら算段する雷翔の背後から、天敵の声がかけられた。雷翔の機嫌が一気に急降下する。
雷翔は鏡に映り込んだ背後の男――アルバートを振り向かず睨みつけた。
「あなたも感染したのですね、レイ」
「……」
「ふふ。猫というよりも虎のような雄々しさがありますね。そしてとても高貴だ」
「さわんじゃねェよ」
猫耳に伸びてきたアルバートの手を叩き落とす。アルバートは機嫌を損ねるでもなく、ただ意味深に笑うだけだった。
雷翔はアルバートをとにかく嫌っている。隙あらば抱こうと――上位者たろうとしてくる男と、どう仲良くしろというのだ。
「毛並みも実に美しい」
「……っ!」
アルバートの横を過ぎ去ろうとすると、するりと尾を撫でられた。雷翔は爪先から猫耳の先端まで駆け抜けた電流に息を詰め、びくりと震えた。
動きを止めた雷翔に気を良くしたらしいアルバートは、雷翔の猫耳にひそりと囁く。
「知っていますか? 猫のしっぽの付け根の辺りは、猫の性感帯……のようなものなのですよ」
雷翔は吹きかかる息に身をよじる。不愉快すぎて眉間には深い深い谷が刻まれていた。
「っ……役にたたねェ無駄知識をどーも」
「きっと今のあなたも、そこを刺激すれば……」
「ッ、うァ……!」
尻尾の付け根の辺りをぐり、と無遠慮に押される。途端に甘い痺れが身体を駆け巡り、雷翔の口から普段より高い声が零れ出た。
雷翔は自分で出した声に驚愕し、次いで羞恥と怒りに戦慄いた。
「ッの、他媽的!」
拳を振りかざそうにも尻尾をつかまれていて力が出ない。雷翔はただ壁に腕をついて、悠然と笑むアルバートを睨みつけるしかできなかった。――屈辱だ。それもこの上ない。
毛を逆立てて牙を剥き威嚇していると、そのうちアルバートの双眸が変わった。ただ楽しそうにしていたものが、瞬き一つせず、獣の瞳へと変貌したのだ。
雷翔はほてる身体を冷たいものが駆け上るのを感じた。そして奥歯を噛み締め、瞠目した目を細めて、再びアルバートをねめつけた。
一瞬。ほんの一瞬だ。雷翔の心は、アルバートに屈してしまった。
一瞬とは言え他者に屈服した自分が、雷翔は許せなかった。
「さァ……可愛く鳴けよ、レイ」
たとえ肉体を制圧されようとも、心を折ることだけはしない。――したくない。絶対に。二度と。
雷翔は迫ってくるアルバートの青玉から、決して眼を逸らさなかった。