折り鶴
先輩が僕だけを見てくれたらいいのに。
「先輩」
放課後の美術室には僕と先輩の二人しかいない。
先輩は相変わらず僕には理解しがたい(つまりそのくらい抽象的で芸術的な)絵を描いていて。
「せんぱい」
「……。」
相変わらず返事をしてくれない。
ついさっき折りあげた鶴を眺める。
先輩が絵を描いてるときの暇つぶしにはいろいろあって(もちろん先輩をみてるだけでも全然飽きないんだけれど)絵を描いてみたり粘土をいじってみたり、最近はもっぱら折り紙をしている。
(……925羽…)
そろそろ鶴が千羽に到達しそうだ。
(千羽折ったらどうなるんだっけ)
願い事がかなうんだったかな。
「……。」
先輩が突然立ち上がった。
僕を一瞥もしないで、すたすたと教室から出て行く先輩を、僕は見ていることしかできない。
ホントはついて行きたいんだけど。
でも先輩の目の下にはうっすら隈があって、ずっと不機嫌そうにだまってて。
そのストレスを消せるのなんてこの世には芸術しかないから。
ほんと。腹立たしいよ。ね。
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