世界の終わり

「末里君は世界の終わりを見たい?」

先輩は言う。

「世界の終わり………ですか?」
「うん。」

先輩は頷いて彫刻刀を置いた。

「そもそも世界の終わりって何だろうね。」

窓から夕日が差して、先輩が彫っていた木材が、先輩の姿が、部屋中が、血液のような赤に染まる。

「……僕の世界が終わるのは先輩が死ぬ日です。」

「先輩がいない世界に生きるなんてできませんから僕は先輩の死んだ後直ぐに死にます。僕が死んだら僕の世界はお仕舞いです。だから」

「先輩の死ぬ時が、僕の世界が終わる時です。」

人間は弱い。
そして僕はもっと、もっと弱い。
一人でも生きられるけど先輩がいないと死にそうになる。
兎よりも、ずっと弱い生き物だ。
だからきっと、先輩がいなくなった僕の世界は、

喩え僕が生きていたとしても、終わって仕舞うんだろう。

「…………やっぱり面白いね、末里君は。」

今まで僕に背中を向けていた先輩はくるりと僕の方に振り返る

先輩の青い瞳のなかに、僕が映った。

先輩はいつもと変わらない、柔らかな微笑みを浮かべている。

「そうですか?」
「面白いよ。とっても」

声をあげて笑う先輩。

「じゃあ話を戻そうか。末里君は世界の終わりを見たいかな?」

「見たくないです。」

だって先輩が死んでしまうじゃないか。

「もっと言うなら僕が先輩より先に死ぬのも嫌です。」
「どうして?」
「先輩が一人になってしまう。」
「僕は平気かもしれない。」
「でも嫌なんです。」

僕は首を振る。
先輩は笑ったままだ。

「じゃあさ、僕と君は出会うべきではなかったかもしれない。」
「何故?」

「僕は一人の寂しさを味わわない。君は辛い世界の終わりを見ない。幸せじゃないか?」

「不幸せです。不幸せに決まってます。」

先輩に逢えないなんて、そんなの

「絶対に不幸せです。」

「そうかな、わからないよ?比べてみないと。」

「もしかしたら君は、僕が死んだ時、僕と出会わなければ、と思うかもしれない、だろう?」


先輩は夕日に染まって、まるで誰かを殺めたように真っ赤だ。
その赤に、酔ってしまいそうな頭を抑えてこんで、僕は断言する。

「絶対に思いません。」
「言ったね?」
「はい。」

「そうか、じゃあ、こうしようか。」







そういって先輩は。





傍らの切り出し刀を。





力任せに、自らの首筋に押し付けた。





彼の首筋から吹き出す液体と、





窓から差す夕日が溶けて。





僕を赤く紅く朱く真っ赤に染める。





小さく、先輩の唇が動いた。





【さぁ、世界の終わりだよ?】








【君は、どうする?】







あとがきです

発掘した短編です。
ピクシブの企画っ子二人でなんか薄暗い感じの描きたくてやりました。
書いてて正直、先輩は人間じゃないと思います。




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